第32話 斎場の駐車場 1

外に出ると暑かった。

斎場の駐車場に残っている車は少なかった。

私達は、なんとなく直径3メートル位の輪の形になっていた。

祖父が居て、時計回りに私、兄、叔母、義叔父、良子、母となった。

祖父の大体正面に義叔父がいる。母の左右が空間となり、ポツンと母一人となった。

「今日は有難う」

祖父が頭を下げた。

「お疲れさまでした」

義叔父が言うと全員頭を下げた。


「あんたな。先の事だけど、かあさんの納骨にどうしても行きたい。這ってでも行きたい。2011年の法事の時みたいに迎えに来てくれ」

「はい、わかりました」

義叔父が、すぐに返事をした。

「私が連れて行きますから」

母が、左側の祖父に近づいて背中をさすりながら言った。

「そうか。ワシはどっちでもいい」

祖父が嬉しそうだった。

「今から帰って、皆で仲良くかあさんの話をしよう」

祖父が、空を見上げながら言った。

「申し分けないことですが、今日はこのまま失礼します」

義叔父が、言った。

「えっ?」祖父が戸惑っていた。

「駄目、絶対に帰したら駄目」

母が、金切り声をあげた。

「皆で仲良く、は、無理です」義叔父が、言った。

祖父は、何も知らない。A葬儀社の時間を9時からなのに11:30~で連絡したこと、焼香の順を母が私に指示したこと、弁当をわざと4個にしたこと、ましてや祖母の最期の言葉で嘘をついたことを。

「今から、家に一緒に帰ろう」

「すみませんが、今日は勘弁して下さい」

祖父と義叔父との押し問答が続いた。その都度、義叔父は頭を下げている。

「あなたらと一杯やりたかったのに」

祖父が残念そうにつぶやく。斉藤家は、4人とも”いける口”だ。祖父母の家でも楽しく酒盛りをしていた話を良子から聞いている。

「酒なんかとんでもない。大事な話ができなくなる。今後のことを話さないと」

母がキンキンした声で制した。

「申し訳ないですが、今日はこのまま失礼します」

義叔父が頭を下げた。また、繰り返しだ。

骨壺が重たい。どっちでもいいから、早く帰りたい。


「それにしても常識がない。香典がないとは」

祖父が、また香典の話を始めた。長くなると思うと、うんざりだ。

義叔父と叔母、良子が頭を下げた。それを見た母が、下を向いて笑っていた。


左側から来た白い車からA葬儀社のスタッフが降りて、祖父に封筒を渡した。

母が奪い取るように手に取って、中身を確認した。

「あちらへ」母が、スタッフを葬儀社の車の向こう側へ連れて行った。

請求書の内容が気に入らないようだ。

母が、祖父を呼んで私達は取り残された。待たされている私達に気まずい空気が流れた。


「秀くん、姉はずっと毎月15万円を母から貰っていました。今は渡されてなくてお金がないそうなので、仕送りしてあげて下さい」

「卑怯な。なんで兄に言うんですか。母に言いますよ」

叔母が言ったことに頭にきて、顔が引きつりながら言った。

「どうぞ、姉はどうやって生きているんですか? 父が母にプレゼントした可愛い鍋や法名の箱の横の20万が消えた、と父が言っていますよ」

私は、叔母に何も言えなかった。

「本当なんですか?」

兄が、ちょっと困った顔をしていた。



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