第30話 葬儀場

A葬儀社に着いた。

自動ドアが開くと、義叔父と叔母、良子がいた。

「本日は宜しくお願いします」

義叔父が言って、3人が頭を下げた。

「宜しくお願いします」

祖父が頭を下げた。兄は、会釈した。母と私は、3人を見ていた。

叔母の背中が曲がって背が縮んでいた。母の言う通り哀れだった。

祖父が、スタッフと話し始めた。

「知らせてくれて有難うございました」

良子が私のそばに来て言ったので、何も言わずに左側の窓の方を見た。

「えっー。無視?」

叔母の声に反応した母が笑った。口が大きい方なのでマスクを着けていても分かる。

「約束したでしょう? 今日はおばあちゃんとのお別れを、ちゃんとしようって」

義叔父は叔母に言った後、祖父の所に行った。

「山下さんからお預かりしてきました」祖父に香典を渡した。

祭壇に斉藤家という大きな供花があった。小川もすればよかった。


焼香の時がきた。祖父の後ろに母が並んだ。私は、急いで母の後ろに並んだ。

変だ。叔母が来ない。私の後ろに兄がきた。

兄が泣いていると、母が背中をさすりにいった。私にはやってくれなかった。

母が、義叔父の席に行って何か話した。

義叔父は、祖父の席に行って「私たちは、先におばあちゃんのお顔を拝見し御焼香させて頂きました」と、伝えた。

「あーあ、そうですか。有難う」

祖父が、義叔父に言って頭を下げた。

「一緒に唱えさせて貰っていいですか?」

祖父がスタッフに聞いた。スタッフがお坊さんに尋ねると断られた。

お坊さんに促されて、祖父が席を立った。

母は、祖父の背中をさすりながら杖を渡し、祖父のバッグを席に置いた。

祖父、母が並んだ後ろに私は入り込んだ。叔母が後ろに下がった。

「どうぞ」という声がした。叔母は、兄を自分の前に入れたようだ。


納棺の時、「喪主様、故人のお顔のそばに置いて下さい」と、スタッフから祖父に渡されたのは、斉藤家の供花の大きなコチョウランだった。

祖父が、コチョウランを両手で持って祖母の顔のそばに置いた。

滞りなく葬儀が終わった。


「香典は?」

母が、叔母の所へ行って威圧的に言った。

「ありません。身内ですから供花にさせて頂きました」

義叔父が、叔母の代わりに答えた。

「常識がない」

母が大声で言って、祖父に香典がないことを伝えた。

「えっ? 香典がないのか?」


出棺後、2台の車で斎場に向かった。

祖父と母の二人は、「香典がないとは、信じられない。常識がない」

車の中で、30分間ずっと言い続けた。



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