第27話 母が良子を平手打ち

「良子を呼び出して」

9月、母から電話があった。日時と場所は、母が決めた。

LINEで良子に伝えた。

良子には午後3時と知らせたが、母と私は午後3時半に着いた。

店に入ると良子がいた。私を見てニコッとしたが、母を見て笑顔が消えた。

「こんにちは」と、良子が言ったが、母と私は黙っていた。

「あんたの家の人間は、斉藤一家は、酷い人ばかり。祖父母の事を、どう思っているの? どうでもいいの? 四国から出てきて、私ひとりで親を看ている。毎日介護をしている。祖父母は、斉藤一家が大っ嫌い、秀くんと可奈ちゃんだけが可愛い。奈津は、子供の頃からロクでもない奴だった。斉藤は冷たい人間だ。冷血だ」

母は、斉藤家族の悪口を2時間喋った。

私は、ずっと下を向いていた。チラッと見たら、良子は、真っ直ぐ前を向いていた。なんだかわからないが、良子に腹が立った。


「これは何?」母が聞いた。

テーブルの右側に、可愛い包装紙の包みがあった。

「シフォンケーキです。可奈ちゃんに渡そうと思って、昨日持って持ってきました」

良子は、はっきりした声で言った。

「要らないわよ。あんたなんか、子供の頃から嫌いだった。気持ち悪い。みんなにいい顔ばかりで気持ち悪かった」私は大声で言った。

良子が、大きな目を見開いた。ぶわっと涙がでた。

「被害者ぶるんじゃないわよ」

母が立ち上がり、良子の左の頬を叩いた。

「要らないわよ」

もう一度言って、シフォンケーキを掴み良子の胸に投げつけた。

良子が、両手で頬を覆った。

右側のテーブルの若い男女が、口を開けて見ていた。店内がざわざわした。

「可奈ちゃん、出るわよ」

私は、母の後ろを追いかけた。振り返らなかった。


「おばあちゃんは?」

電車の中で、母に聞いた。

「部屋でじっとしているから平気よ」

「紅茶代、払ってこなかったね」

「別にいいわよ。良子に払わさせたらいい」

母が、冷たく言った。


2週間後、「静子さんの判定が4もらえたから、施設に入れやすくなった。じいさんに話に行ったら『お前とは話したくない』と、言われた。

静子さんを、あの家に戻そうと思っているの」母から電話があった。

母は、祖母のことを静子さんと呼ぶようになった。

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