第20話 良子が上京 兄が結婚?

2014年春、良子が大学を卒業、就職して東京勤務となった。嬉しかった。

品川で待ち合わせて、ちょくちょく会った。

良子の話は、いつも楽しい話だった。

「この間、お父さんとお母さんが、おじいちゃん、おばあちゃんちに行った時のこと。お母さんが、外ででハチに追いかけられて怖かったそう。そしたら、おばあちゃんが『そうそう、真也さんが山手線の電車内でハチを捕まえた話があったでしょう?みんなパニックになった時、窓に止まったハチをデコピンで一撃してティシューで捕まえた。男の人はほーうって言って、女の人たちは拍手したのよね。私が、刺されなくてよかったねって言ったら、真也さんが、私は海や山で育った田舎者ですからって。思わず、高倉健みたい、って言ったのよね』だって」

「へぇー、おばあちゃん、よく覚えていたね。20年くらい前じゃない?」

「そうね。私、小さかったと思う。

2年前の冬ね、お母さんが『顔が冷たい。ホームセンターでいい物見つけた』って、布の目出し帽を買ってきて着けてたの。強盗犯みたいよ。昼間、ピンポン鳴って、郵便屋さんが来たの」

「えっ?叔母さん、出ちゃったの?」

「ギリギリ気が付いたらしい。お父さんと兄ちゃんが、その話聞いて『惜しかった。そのまま出たら面白かったのに』って言うの。もしそれで出たら、郵便局内でずっと語り継がれるところだった」

私は、良子は家族のことが大好きなんだ、と思った。


私と良子は、お互いの誕生日を祝い、食事や買い物をした。会うたびに、プレゼント交換をした。良子はセンスがよく素敵な贈り物を持ってきてくれた。


秋の終わり、寒い日が続いた。

兄が、山梨の友人を招いた。男性4人、女性2人のグループだった。

母が、私に「出なくていい」と言った。

父が、フルーツ農園を案内しひとりで対応した。


冬になって、例年になく朝から凍えるような日だった。

「冗談じゃないわ。山梨の女性がひとりで訪ねてきた。あの時の、髪の毛がロングのほう。会う理由がないから私は2階に上がった」

会社から帰った私に、母が目をつり上げて言った。

「お兄ちゃんは、今日、会社よね」

「お義母さんと茂男が、リビングで楽しそうに笑っていた。バッカみたい」

母が興奮して悪態をついた。本当に不快そうだった。


週末、兄が山梨から帰ってきた。

リビングで父と母、兄、私で話した。祖母は、自分の部屋にいた。

「彼女とは合コンで出逢った。両親は離婚している。賃貸アパートに母親とふたり暮らしで、兄弟はいない。借金が500万あったけど解決した」

兄は、父と私を見て話をした。

その後、母の顔を見て「彼女と結婚の約束をした」と言った。

「絶対に許さない。駄目」母が大声で叫んだ。


翌日の早朝、兄は山梨に帰った。

母は、朝食も摂らないで車で出掛けた。

翌日、帰ってきた。

「秀くんと話した。3時間かけてわかってもらった。あの女との結婚はなし」

母は、満面の笑みだった。兄とマンション近くの喫茶店で話をした。

昨日の夜はビジネスホテルに泊まったそうだ。

母は、兄のお嫁さんになる人への理想がとても高かった。


1ヶ月後、母が認めない女性と女性の母親がウチに来た。何も知らされてなかった。

母が2階に上がったので、私も上がった。

小川の祖母と父、女性ふたりの笑い声がリビングで響いた。

この日の夜、母は家を出た。

「秀くんの事を良子に絶対言わないで」と、私に言い残した。


小川の祖母は、兄の結婚式を見届けられず亡くなった。

母は、お葬式に出なかった。



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