第34話 おっさん、クズ男になる
「なぜここに清美さんがいるんですか?」
店内は静かな空気が流れていた。
「だって、この店って有馬さんが教えてくれたところですよ?」
清美は凛の妹で、凛が亡くなってから自分が結婚してもたまに連絡をくれた人だ。
久しぶりにあった清美は以前よりも老けて、"お母さん"の雰囲気が出ている。
「それにしてもまたお姉ちゃんそっくりな若い子を捕まえるって流石だね。本当にお姉ちゃんが生き返ったのかと……もう一度会えてよかった……」
そう言って清美は頬から涙を流していた。
"死んだ人が生き返る"。
それは誰もが驚いて感情には表せない出来事だ。
清美も凛ではないとわかっていても、涙を流さずにはいられなかった。
「なんでお姉ちゃん有馬さんを置いていったの? あれから大変だったんだからね。この人目を離すとすぐに死にそうになるし、掃除しないとゴ○ブリ製造機になるんだからね」
清美の言葉を間に受けた凛は、俺をゴミのような目で見てくる。
確かにあの時はショックで立ち直れなくて、ゴミのような生活をしていた。
むしろゴミの方がよかっただろう。
「あっ、お姉ちゃんじゃなかったんですよね。私は清美と言います」
凛と清美はかなり年齢が離れている。
大人になった清美も今では結婚して二児の母だ。
「私は凛です」
「り……ん……?」
「ああ、名前も同じ凛だな」
「えっ? 本当にお姉ちゃん……?」
清美は驚きながら嬉しそうに涙を流している。
それだけ凛は生きている間、たくさんの人に愛されていた。
凛は本当に凛なのか俺でもわからない。
「私の記憶は曖昧なので、あなたの知っているお姉さんなのかもわかりません」
今まで聞いてこなかったが、凛の中でも記憶は曖昧らしい。
それでも目の前にいる凛はあの時の凛が生き返ったと思っている。
「凛さんはどこから来たんですか?」
「ガチャからです」
「ガ……チャ……?」
「清美さん、ここは落ち着――」
「有馬さん! あなたって人は結婚資金まで手を出したのに、反省せずにいまだにガチャガチャばかりしてるんですか!?」
清美の声は店内に響き、さらに周囲から注目を集めている。
「清美さん静かに!」
急いで止めるがすでに遅かった。
周囲の人に謝るが、みんなコソコソと話していた。
あれだけ聞こえていたら、俺はめちゃくちゃ頭のやばいやつになるだろう。
探索者であればガチャと言われたらギルドにあるガチャを思い出す。
しかし、一般人のガチャだと認識的にはその辺にあるカプセルトイになるだろう。
高くても一回500円程度のやつをやるために、結婚資金に手を出した男。
考えただけでも頭の逝かれた男だと思われているのはわかる。
それにさっきまですぐに死のうとする自殺者とかゴ○ブリ製造機とまで言われていた。
きっと周りが静かにしていたのも、修羅場かと思って聞き耳を立てていたのかもしれない。
実際はヒーローだと思わせておいて、ただのクズ男だったってことになる。
喜んでいるのはさっき自傷行為をしていた男だけだ。
やつだけ俺の方を見て目を輝かせていた。
「とりあえずまた有馬さんの家に行くのでその時に話しましょう」
そう言って清美は支払いを終えた夫のところへ向かった。
爆弾発言だけして去っていく清美に少し恨みを覚えてしまう。
気を取り直して再び俺達は食事を食べ始めた。
早く食べないと店員からの視線も痛いからな。
「はぁー、せっかくのデートなのに邪魔ばかり入るし、うまくいかないな」
「私はいつも一緒にいて楽しいですよ」
「そうか?」
凛が楽しんで生活できているなら問題ない。
ただ、俺の告白したこのレストランにはしばらく来れない気がした。
──────────
【あとがき】
「大変申し訳ないんですが、ガチャを引くには★★★が必要で……」
「それじゃあもらえないわよ?」
「ならどうすれば?」
「下僕達、私のために★を課金しなさい?」
凛はアーティファクトである鞭を振り回した。
「凛がどんどん変わっていく……お前達のせいだからな! レビューも書けよ」
俺は配信を終えた。
おっさん探索者、ガチャ配信をしていたら死んだ彼女が中から出てきて嫁になりました〜家族で挑むダンジョン配信は今日も賑やかです〜 k-ing@二作品書籍化 @k-ing
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