第19話 おっさん、嫉妬する
「ははは、ついに俺がアーティファクトを手に入れるときがきたか」
彼の手には一本の剣が握られている。どこか歪な形をしているその剣は黒く輝いている。
「おい、お前それはラッキーおっさんのだろう」
若い男は満面の笑みで俺を見下していた。周りからは彼に対する批判の声が止まらない。それは俺の動画を見ている視聴者も同じだ。
ただ、その男の顔に見覚えがあった。
「お前ってハイオークの時の……」
「ははは、覚えていたのか。あれからお前ばかり良い思いをしていてムカついていたんだよ」
やつは俺にハイオークを擦りつけたやつだった。あの時は生きるのに必死で、特に気にしていなかったが、逃げているとはいえ他の探索者に魔物を擦りつけるのは反則行為だ。
きっと目の前にいる彼は今度のランキングでギリギリ探索者を続けられるかどうかのレベルなんだろう。
ひょっとしたらあのハイオークも誰かに倒させるために、俺達がいたところに呼び込んだのかもしれない。
ハイオークの素材ならポイントも高くもらえるはずだ。
もしあの階層にハイオークがいたとしても、気づいた時にはすぐに逃げるのが探索者としての第一優先する行動だ。
長年探索者をやっている俺でも、自分のランクとはかけ離れている魔物に出会った場合、見つかる前に第一優先で逃げると教えられている。
同時期に探索者になり、現ギルドマスターである花田がそれを教えていないはずがない。
なのにあいつはわざわざ広い空間で俺がいるところを通ってきたのだ。
「俺も必死にランクを上げようとしているのに、おっさんのお前ばかりガチャで良いものばかり当てやがって」
剣を振り回してギルドの中で暴れだした。口元からよだれを垂らして、どこか操られているように感じた。
「このランキングもどうせそこにいるアーティファ――」
「おい、黙れ!」
ガチャからアーティファクトを横取りされたことに関しては俺は何も言わない。探索者がどんどん追い詰められて、腐っていくのは自分も経験している。
現に新しい武器を購入して、武器一つで戦い方がかわるのは理解したばかりだ。
だが、凛のことをアーティファクトと言うのは俺の中では許せなかった。
そもそもアーティファクトと知っているのは、あの時にいたギルドスタッフか花田ぐらいだ。
俺が少しずつ近づくと、やつは俺に剣を向けて突きつけた。
「現にその女のおかげで――」
「お前は口も汚いみたいだな」
剣は俺の腕に刺さっているが、今は何も思わない。全く痛みも感じない。
それよりも自分のことがアーティファクトと知らない凛が傷つく方が嫌だった。
手で頬を掴むとそのまま強く握りしめる。
この汚い口を砕けば一生凛を傷つける言葉は言えないだろう。
「おい、やめろ!」
すぐにギルドマスターである花田は俺の手を掴んで止めに入った。
「お前も俺を止め――」
「もうそいつは戦えない」
男に目を向けるとその場で剣を落とし、股の間からぱたぱたと水が垂れていた。恐怖のあまり漏らしてしまったのだろう。
「こいつは凛を傷つけ――」
「私は元気ですよ?」
凛は俺の隣で首を傾げていた。体は傷ついていなくても、実際に見えるものでもないため、
心はどうかわからない。
機械ぽかった凛も少しずつ感情を見せることが増えてきた。そんな彼女に対して傷つけることは――。
「はぁー、もう相変わらず私のことになると怒るのね」
「えっ?」
凛の言葉に俺の力は抜けていく。過去に俺は凛が傷つけられて、同じ探索者が病院に運ばれるまで殴ったことがある。
彼女はそのことを言っているのだろうか。
「凛、記憶が戻ったのか?」
俺は凛の肩を掴むとやはり首を傾げている。
「あれ? 今、私って何か言いましたか? 少し疲れてぼーっとしてました」
凛は疲れたのかあくびをしている。ひょっとしたら目の前にいる凛が、亡くなった凛の記憶を持っているのではないか。
俺の頭の中はそれだけしか残っておらず、あまりの衝撃に俺は男のことを忘れていた。
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