第18話 おっさん、ランクアップする

「有馬さん……嘘つきましたね?」


「いやいや、そんなにすぐコボルトキングが出てきたら俺もびっくりだぞ」


 凛はすぐにコボルトキングと遭遇すると思っていたのだろう。そんなに上位種がたくさん出てきたら、探索者はみんな即死してしまう。


「今日はもう帰ろうか?」


「またコボルトキング探してくれますか?」


「あー、そうだな。ランクも上がって行ける階層が変われば会える可能性も――」


「よし、たくさんコボルトを狩っていきましょう!」


 その後の凛無双が凄かった。魔物を見つけた瞬間、鞭を絡めて引き込むと同時に短剣を刺していた。


 一瞬にしてドロップ品になる魔物達も、何をされているのかも気づかないだろう。


 すでに銅色ランクになっていそうだが、凛はダンジョンを出るまで止まらなかった。





 ギルドに着いた俺達は大きな登山用の鞄を下ろす。早速ドロップ品をギルドスタッフに渡した。あまりにもドロップ品の多さにびっくりしている。

 

「ハイコボルトの素材もあるんですね」


「今日のうちにランクを上げておきたいからね」


「もうそろそろランキング更新日になるので、今がチャンスですね」


 ランキング更新は1クール毎に行われる。その都度一緒にランクの変動があるため、ポイント稼ぎが重要になる。


 今のうちに銅色になっていれば、基準のポイントより下回ってなければそのままだ。


「こちら今日の報酬になります」


 俺は数万円と売れなかった銀色の魔石とガチャのためのハイコボルトの素材を一つ受け取る。


 やはり銀色の魔石は売れないようだ。


 次にガチャを回す時のために、強い魔物の素材を残しておくのが俺のガチャルールだ。


「おっ、ランクも上がったな」


 電光掲示板にある俺の名前はグングンと伸びていき、500位以内に入っていた。


 20年ぶりの銅色ランクに俺もニヤニヤが止まらない。


「お祝いにガチャでも回しますか?」


「あー、貯金もしたいからなー」


 凛に提案されても、結婚式の資金だけは先に集めておきたい。俺の中でガチャと結婚資金ってあまり良い思い出がないからな。


「こういう時こそガチャを回してもいいんじゃないか?」


「花ちゃん」


「だから、おっさんに花ちゃんはやめてくれ。20年ぶりのランクアップおめでとう」


 ギルドマスターである花田も俺のランキングを気にして見ていた。それだけ花田は俺が戻ってくるのを待っていたのだろう。


 やっとあの時と同じランクに戻ることができた。


 これからやっと俺のやり直し人生が始まる。


「さぁ、花ちゃんも言っているのでガチャやりますよ!」


 いつのまにか凛も花田のことを花ちゃんと呼んでいた。どこかその姿にムッとする。


 あれから時が経っても俺は嫉妬深いようだ。


 すでに凛がお金と素材を入れていたため、俺は配信を始める。


「あー、ガチャをするつもりはなかったが、ランクアップのお祝いでガチャをすることになりました」


 チャンネル登録している人達は、すぐに俺の配信に気づき視聴している。それだけ今ガチャブームが起きているのだろう。


 一言呟いてからガチャのハンドルをクルクルと回す。


 そういえば、確認していなかったがガチャに入れた魔物の素材は何を使ったのだろうか。


 俺は隣に置かれた鞄の中を覗くとそこにはハイコボルトの素材が入っていた。


「ああ、売れない魔石を使ったのか」


 そう思った瞬間、ガチャの取り出し口が銀色に光り出した。


==================


廃人の女神 最近

ワクワク!

これは当たり確定演出なのかな?

▶︎返信する


童貞探索者 最近

第二の嫁はやめてくれ!

▶︎返信する


コネクリー 最近

俺にも運を分けてくれよー!

▶︎返信する


==================


 動画を見ている人やその場にいた人達から声が聞こえてくる。あまり気にしていなかったが、当たり判定の時は確かに光っている気がする。


「お前ばかりせこいな」


「えっ?」


 俺はあまりの眩しさに目を閉じたタイミングで体に衝撃を感じた。その場で力を込めて足を踏ん張ったが遅かった。


 顔を上げるとガチャから勝手に若い男が景品を取り出していた。手に持っている物は俺でもすぐにわかった。


 どうやらガチャから出てきたアーティファクトを横取りされたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る