第17話 おっさん、久々の集団戦をする

 凛とともにハイコボルトがいると思われる場所へ向かって歩いていく。


「ハイコボルトは普通のコボルトより感覚が敏感だ。見つけた瞬間、すぐに倒しに行くぞ」


「私はハイコボルトを散歩したいので――」


「ああ、その他は俺が倒すから大丈夫」


「ありがとう」


 凛は今まで見たこともない満面な笑みを浮かべていた。まだ凛に何かしてあげたわけではないが、俺も嬉しくなる。


 ただ、ハイコボルトを散歩させるって内容があまりにも衝撃的だ。これも凛の新しい一面なんだろう。


「あっ、たぶんあそこだ」


「行きますよ!」


「ああ!」


 凛は嬉しいのか颯爽と駆けていく。だが、目の前に来て明らかにおかしな光景に戸惑う。


「おいおい、全員ハイコボルトってどういうことだ」


 さっき会った探索者にハイコボルトが群れを作っていると聞いた。だが、正確に言えばハイコボルト達だけ・・で群れを作っているのは間違いだろう。


 ハイコボルトが一体だと思ったが、全員となれば状況は変わってくる。


「なるべく集団で襲って来ないように牽制してもらっていいか?」


「わかりました」


 俺達に気づいたハイコボルト達は早速向かってきた。


「集団戦は久々だな」


 どこか俺は胸の高鳴りを感じていた。昔は凛とダンジョンに行って、毎日命懸けで魔物を倒していた。


 それがまた経験できるとは思いもしなかった。


 剣を抜いた俺はハイコボルトの集団に向かって走っていく。コボルトよりも鋭い嗅覚のおかげか、全てのハイコボルトが俺へ意識を向けた。


 雄叫びを上げながら俺に向かってくる。


 俺は周囲を見渡し、近くの一体に剣先を鋭く突きつける。その動きに対応できなかったのだろう。


 ハイコボルトはその場で力尽き、後ろに倒れていくと同時に光の粒子になって消えていく。


 集団戦において同じタイミングで攻撃されたら致命的だ。同時に避けながら判断しないといけなくなるからだ。


 なるべく他のやつらとは距離を取り、一体に絞って戦った方が早く倒せる。


 すぐに体の向きを変えながら剣を振り回す。


 剣先に触れたハイコボルト達は、警戒してその場で一旦立ち止まる。この先近づいたらやられると判断させるにはちょうど良い。


「離れてたら良いんですよね?」


 そのまま傷ついたハイコボルトの首に、凛は器用に鞭を絡ませる。


 そのまま引き込むと同時に、仲間のハイコボルトを巻き込んで転ばせていく。


 俺の戦い方を見ながら邪魔にならないように凛は動いていく。


 もう何年も一緒にパーティーを組んでいるような気分だ。


「これでお散歩ができますね!」


 凛は嬉しそうにそのままハイコボルトを連れて、遠くへ歩いて行った。


 それは散歩じゃなくて、ただ引きずっているだけだが……。


 連れ去られるハイコボルトに手を合わせながらも、俺は次々とハイコボルトを倒していく。


 筋トレの効果も出てきて、体が本当に動かしやすくなった。


『グルルルルル』


 残り一体のハイコボルトの唸り声とともに俺は剣を切りつける。だが、敵にばかり注意が向いていたのだろう。


 俺は何かに足を引っ掛けた。


 そこには時間とともに、俺の周りには倒れたハイコボルト達からドロップした素材が散らばっていた。


 俺はそのまま倒れると同時に、剣を上に向けてハイコボルトに突き刺した。


「やったか……?」


 一向に攻撃してこないハイコボルトに、俺は全身の力が抜ける。


 久しぶりの集団戦だが、どうやらハイコボルト達を全て倒すことができたようだ。


 そのまま寝転んでいると、突如頭に衝撃が走る。


 俺はハイコボルトを倒せていないと思い、顔を上げるが目の前には魔石が落ちていた。


 どうやら魔石が頭の上に落下してきたらしい。


 毎回魔石をドロップする時は、俺の頭目掛けて落ちてくるのはなんでだろうか。


「また銀の魔石か」


 しかも、落ちてきたのは売れない魔石のため内心ショックを隠せない。せっかくなら結婚式の資金になる普通の魔石が欲しかった。


 息切れした体が落ち着いてきた俺はドロップ品を回収していく。筋トレや走り込みをしていても、まだまだ持久力は足りないようだ。


「有馬さん……」


 回収し終わった頃にトボトボと凛が帰ってきた。鞭の先にはハイコボルトの腕が付いていた。


 きっと散歩中に倒してドロップ品になったのだろう。


 犬を飼ってあげたい気持ちもあるが、ひょっとしたらあんな姿になってしまうって思ったら尚更飼えない。


「次はコボルトキングを探して散歩をしようか?」


「ハイコボルトより丈夫なワンちゃんがいるんですか?」


 凛に詰め寄られると少しドキドキしてしまう。同じシャンプーを使っているはずなのに、彼女が使うとなぜ匂いが違うのだろう。


 こんなことを考えているおっさんって最悪だな。


「ああ、また丈夫なワンちゃんを探しに行こうか」


 俺はすぐに気持ちを切り替えて、ダンジョン探索を続けた。

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