第16話 おっさん、凛の無邪気さに驚く

「オークって中々いないんですね」


 オークがいると言ってもそこまでたくさん出てくるわけではない。いくら白色ランクでも銅色ランク対象であるオークがたくさん出てきたら死んでしまう。


 この階層では稀にオークが出てくるぐらいだ。それだけ前の階層にハイオークが現れたのは異常事態だった。


 それでもこの階層には新しい敵となるコボルトが出現する。


 全く犬とは異なり可愛くもないコボルト。耳と尻尾が生えているだけで、ゴブリンとさほど変化はない。


 初めて探索者になった時はコボルトへの憧れはあったが、目にしたら一瞬で崩れ落ちるのは珍しくない。


 今ではダンジョン配信でコボルトの情報は一般人にも知られている。


 あの時はダンジョン配信者が炎上したほどだった。


 みんなは二足歩行をする犬や獣人を想像していたのだろう。そんな存在は御伽話や漫画の世界だけだ。


「凛も気をつけて」


 俺は目の前にいるコボルトに向かって近づくと、すぐにコボルトは反応していた。コボルトは視覚が劣っている分、聴覚と嗅覚でカバーしている。


 そのためゴブリンの時とは違って、戦い方が変わってくる。


 ゴブリンは気づかないように近づくが、コボルトは存在に気づいたらその場ですぐに倒すのが一般的だ。


 結局隠れていてもすぐに見つかってしまう。


「見つかる前に攻める」


 これがコボルトの対策方法だ。俺は一瞬で詰め寄りコボルトの首を狙う。


 宙を舞うコボルトの首は、地面に落ちる前に光の粒子になって消えていく。


 ドロップ品を回収しようと振り返ると、凛の後ろにはコボルトが近づいていた。


「凛後ろから――」


 すぐに鞭を取り出し、コボルトに向かって振る。


「この子って散歩できないのかな?」


「ああ。んー、無理かな」


 そのまま鞭をコボルトの首に巻きつけて引っ張っていた。流石にコボルトを散歩させようとする探索者はいないだろう。


 別にコボルトとゴブリンの強さは大差ないため、見つかっても問題ない。ただ、見つかると厄介というだけだ。


 無理だと思った凛は短剣をコボルトの胸に差し込む。


 アーティファクトだから自由自在に使いやすいのか、亡くなった凛と姿形が似ている影響か、何も教えていないのに容易に鞭を扱っている。


 鞭って探索者の武器の中でも扱いにくい分野になる。それこそ仲間が防具を重装備の人じゃないと当たってしまうからだ。


 咄嗟に魔物が出現した時に、凛も戦ってもらうがまだ一度も俺に当たったことがない。


「じゃあ、奥に進んで行こうか」


 俺達はコボルトを倒してダンジョンを進んでいく。今日中にランクを上げる予定だからだ。


「なんか奥が騒がしいですね」


「あー、きっとコボルトの群れでもいるんじゃないか?」


 コボルトとゴブリンは群れで行動することがある。ゴブリンに関しては統率者となる上位の存在がいることで群れになるが、コボルトは統率者がいなくても群れている。


 それが白とグレーでランクを上げている違いだ。


「おおお、ラッキーおっさんと凛ちゃんじゃないか」


 前から走ってきたのはよく俺に声をかけてくれる若者だ。凛と出会って配信がバズってから声をかけてもらうことが増えた。


 ただ、歳を重ねた俺には若者の顔が全て一緒に見えてしまう。ランクも似ていれば装備も似てくるため、おっさんに顔だけで判断しろっていう方が無理に近い。


「この先でハイコボルトが群れを作っている。ひとまず離れた方が良い」


 そう言って彼はどこかへ行ってしまった。前回、魔物の押し付けがあったため、警戒をしていたがどうやら彼はただ単に見つかる前に避けていたらしい。


 ハイコボルトはコボルトの上位種にあたる。その個体が集団を作っていたら少しめんどくさい。


「俺達も見つからないうちに帰ろう――」


 俺が凛と共に帰ろうとしたら、なぜか凛は目を輝かせていた。


「ハイコボルトなら散歩できますか?」


 凛って犬を飼いたいのだろうか。


 昔の凛も俺の首に鞭を巻いて引きずっていたが、その時と似た感覚なんだろうか。


 生憎、探索者は外出する機会が多いため犬を飼うことができない。


「ハイコボルトでも無理だと思うけどな?」


「一度試してもいいですか?」


 あまりにも目を輝かせているため、俺達はこの先にいるハイコボルトが引きつれる群れに会いにいくことにした。


「ふふふ、楽しみだな」


 どこか凛はペットショップに行くような気持ちなのか、背後でスキップしていた。

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