第14話 おっさん、涙もろくなる
「凛さん本当にその防具で良いんですか? 絶対に動きにくいですよ?」
「私はこれで良いです」
どうやら装備が決まった凛達は戻ってきたようだ。
「お待たせしました」
扉を開けて入ってきた姿に俺と花田は驚いた。本当に時間が戻ったと思ってしまった。
「凛さん鞭が当たると痛いからって重装備を選んだんですよ。アーティファクトだから大丈夫って言ってるのに……」
亡くなった凛も鞭が当たると痛いからと言って軽装備じゃなくて、重装備を装着していた。
基本的に中距離以上で離れて戦う場合、動きやすいように軽装備か邪魔にならないところだけ装備をまとう。
ここまで考えが似ていると、本当に亡くなった凛ではないかと思ってしまう。
「あれ? 皆さんどうしました?」
そんな俺達を戻ってきたばかりの二人は心配していた。
「ああ、凛が良いならそれでいいぞ」
「確かに鞭は当たったら痛いからな。凛ちゃん、有馬をビシバシしごいてやってくれ」
「わかりました」
言葉だけ聞いているといやらしく聞こえてくるが、花田は俺のことを心配しているのだろう。
どんどん落ちぶれて生活のために復帰したのはいいが、気づいた時には探索者としてはもう時が経っていた。
装備を売ってどうにか生活をしていた俺を花田は近くで見ていたからな。
俺もせっかく凛が戻ってきたのに、このままではいけない。もう一度探索者としてやり直す予定だ。
その前にまずはこの状況を止めないといけない。
「凛さん? まずは鞭を下ろそうね?」
「私が有馬さんをビシバシしごかないといけないので――」
「いやいや、それは家に帰ってからでいいぞ」
俺の言葉に部屋の中は静寂に包まれる。別に鞭で打たれたいわけではない。改めて体も鍛えなそうと思っただけだ。
「お前ら変な勘違いしていないか?」
「ああ、俺も仕事の続きがあったんだ」
「私も他の探索者に呼ばれているんです。お金はここに置いときますからね」
俺と凛だけを残して二人はすぐにどこかへ行ってしまった。ちゃんとお金をテーブルの上に置いて、しっかり仕事をこなしている。
別に変なことをするつもりはないから、凛も恥ずかしそうな顔をしなくてもいい。
ギルドスタッフと少し話した影響か、前よりも凛は人間らしくなった気がした。彼女は凛に何を教えたのだろうか。
「帰りに何か食べに行こうか」
「はい」
俺は凛と外食してから帰ることにした。せっかく大金を手に入れたから、今日はオシャレなお店にでも行こうか。
♢
「あのー、本当にここでいいのか?」
お店の前まで来て俺は戸惑っている。凛が先に歩いて行くから付いて行くと、この前と同じ汚い店のラーメン屋の前にいた。
「おい、俺の前でその言葉を使うとは良い度胸――」
「すみません」
俺は急いで謝った。凛はまたラーメンが食べたくなったのか、カウンターに座って常連のようにラーメンとチャーハンのセットを頼んでいる。
「座らないんですか?」
「ああ、俺も同じやつを頼むよ」
凛の隣に座ると店主は嬉しそうに笑っていた。
「本当にここで……ラーメンが食べたかったのか?」
すぐに店主の視線を感じて言い直した。ラーメンが食べたいなら家の近場にお店はたくさんある。
ダンジョンに行く前にも、お店の前を通って看板を見ていたため存在自体は知っているはずだ。
そこまでして女性がこんな汚いお店に来たいのだろうか。
「ここは初めて連れて行ってもらった外食なので」
「さすが凛ちゃんはわかっているな。どこかの誰かさんとは違うな。ラーメン置いておくぞ」
相変わらず店主の嫌味は続くが、これもこのお店ならではの時間だろう。
カウンターに置かれたラーメンを自分の前に引き寄せる。
箸を持って手を合わせる。
「いただきます」
毎日変わり映えのない日常が無くなってから、改めて幸せだと気づいた頃には凛はいなかった。あの時後悔してもすでに遅かった。
それがまたこういう形で叶えられるとは思わなかった。
「大丈夫ですか?」
俺を心配して凛はラーメンを食べながら見ている。
その姿も昔とそっくりだ。
今日は花田と会ったからだろう。隠していた感情がボロボロと溢れてくる。
叶えられなかった彼女の思いを俺が叶えてあげたい。
俺だけ凛を残して時が進んでしまったように感じていた。
それでも次は後悔しないように、凛と一緒の時間を共有していく。
今日は俺の方が耐えられそうにない。
「ははは、少ししょっぱいけど美味しいな」
自然と溢れ出る涙にいつもより醤油ラーメンが辛く感じた。
──────────
【あとがき】
「大変申し訳ないんですが、ガチャを引くには★★★が必要でして……」
「有馬!」
「はあああい!?」
おっさんがガチャを回すのに★がたくさん必要なようです。
凛の夢を叶えるために★をお願いします。
ここで第一章完結です。次からちゃんと配信していきますので、よろしくお願いします笑
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