第12話 おっさん、凛を応援する

「次は私も戦ってみてもいいですか?」


「さっきと同じようにやれば大丈夫だと思う。次魔物が出てきたら頼むね」


「はい」


 ダンジョンの中を進んでいくと、凛も戦ってみたいのか鞭を片手にモゾモゾとしていた。


 よほどのことが無い限りは凛の実力なら問題はない。それに今はアーティファクトもあるため、戦いやすくはなっているだろう。


 探索者がアーティファクトを求めるには理由がある。


 それはスキルがあるからだ。


 ランキング上位者である"チャラ男のヘルメス"は靴のアーティファクトを使って自由自在に飛んでいる。


 夜の方も自由自在のため、変な二つ名が付いてしまったが、それだけアーティファクトが与える影響は大きい。


 そのうち凛も二つ名が付いたらなんと言われるのか楽しみだ。


 そもそもそんな凛のパートナーになった俺も呼び名が変わるのだろう。


 "パパ活おっさん"とかになったら、恥ずかしくて探索者を続けられなくなりそうだ。


 そんなことを思っていると、奥の方にゴブリンの後ろ姿が見えた。


「あそこにゴブリンが――」


「狩ってくる」


 凛にゴブリンの存在を伝えた時には、凛は走ってゴブリンに近づいた。素早い動きにゴブリンも気づかないと思ったが、振り返ってにやりと笑っていた。


 その手には杖を持っている。


「おい、凛戻って来い!」


 杖を持ったゴブリンは普通のゴブリンより上位個体だ。


 やつらは魔法を放つためゴブリンメイジと呼ばれている。


 ゴブリンの上位個体の中でもランクがあり、その中でも上の方の危険度と言われている。


 俺の声は聞こえないのか、そのまま進んでいく凛を急いで追いかけた。


 目の前から火の玉が数個近づいてくる。


 それをあっさりと凛は避けていく。


 凛が目の前で避けるとどうなるか。


「おおお、おい!」


 火の玉は俺に向かって飛んでくるのだ。


 その場で立ち止まり、横に飛ぶとさっきいたところの草木は燃えていた。


「凛戻ってこないとあぶな――」


「ゴブリン倒してきましたよ」


 顔を上げるとすでに凛は目の前にいた。


「えっ……本当に倒したのか?」


 どうやらゴブリンメイジを倒したのか、手には杖を持っていた。


 基本的には素材が落ちることが多いが、稀に魔物が使っている武器もドロップすることがある。今回はゴブリンメイジが使っていた杖をドロップしたのだろう。


「怪我はないか? 大丈夫か?」

 

 それよりも凛に怪我がないか気になってしまう。また凛に何か起きたら、俺は後悔してもしきれないだろう。


「大丈夫です」


 特に何もないようで安心した。


 今度ダンジョンに来る時はちゃんと魔物についても教えておいた方が良いだろう。


 それにしても滅多に出てこないゴブリンメイジといい、最近珍しい魔物ばかりに遭遇している気がする。


「じゃあ、帰ろうか」


「はい」


 俺は凛から杖を受け取り、ギルドに戻ることにした。





 ダンジョンから戻ると杖を持って受付に向かった。凛と話し合って杖を売ることにした。


 俺も凛も特に杖を使うことがないからだ。


 アーティファクトではないが、杖にもスキルが付いている。ただ、杖の魔力を使い切ったら壊れてしまうという仕組みだ。


 一方、アーティファクトは装備者の魔力を使うため特に問題はない。


「この杖を買い取ってもらいたいんですが良いですか?」


 俺はテーブルの上に杖を置くと、驚いた顔をしていた。それだけゴブリンメイジの杖でも、杖をドロップするのは珍しいからだ。


「本当に買い取っても大丈夫ですか?」


「お金になる方が良いのでお願いします」


「ではこちらに来てください」


 俺達は別の部屋に案内されると、大きな機械を運んでいた。その場ですぐに杖の鑑定を始めた。


 杖を機械の上に置いてしまえばすぐに魔力量がわかるらしい。


「ドロップしたばかりの杖なんですね。しかも、魔力量も多いです」


 魔力がたくさん込められているため、高く売れそうだ。


「本当に売りますか? 使った方がもっと稼げますよ?」


 自分で杖を使って、その素材を売った方がお金になると提案された。それでも杖を使ったことのない俺達には難易度が高いだろう。


 ただでさえ、この歳まで杖を使ってない俺には無理だ。


「大丈夫です」


「わかりました。では現金をお待ちします」


 俺達にはいらないと伝えると、杖と機械を片付けに行った。


「これでしばらくはダンジョンに行かなくても良さそうだな」


「毎日コツコツと働かないと動けなくなりますよ」


「ああ、そうだな。俺もおじさんだしな」


 凛の言葉に改めて考えさせられた。昔もよく休もうとすると凛に怒られていた。


 しばらく待っていると扉が開いた。


「ははは、本当に凛そっくりなんだな」


 ギルドスタッフが戻ってきたと思ったら、ここで働く戦友のギルドマスターが部屋に訪れた。

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