第11話 おっさん、初めて凛とダンジョンに行く ※一部他視点

 ギルドに居づらくなった俺達はダンジョンに入ることにした。今日はお試しの予定のため、凛には後ろから付いてきてもらう。


 少し見られているって思うと緊張してくるが、ここはせっかくだからかっこいいところを見せたい。


 歩いていると目の前にゴブリンが歩いていた。俺達は急いで近くにある岩に身を隠す。


 ダンジョンはどういう構造になっているのかわからないが、階層ごとに風景が全く異なる。


 ここのダンジョンは森や岩場が多い。


 他の地域にあるダンジョンも同じように特徴があるらしい。


「まずはゴブリンが離れるまで隠れるぞ」


 基本的にこっちへ近づいてきているタイミングだと、ゴブリンに襲われてしまう。そのため、離れたタイミングで狙うのが一番良い。


 ゴブリンは周囲を見渡すと、俺から少しずつ離れていく。


「よし、いくぞ!」


 俺は走ってゴブリンの背後に剣を突きつける。


『グフゥ!?』


 びっくりして俺を払い除けようとするが、それでも俺は何度も攻撃すると光の粒子が空に向かって飛んでいく。


「それは?」


「ああ、これがドロップ品だ」


 どうやらドロップ品はゴブリンの手らしい。初めて見るドロップ品に凛は興味津々だ。さっきまでいた魔物が急に消えて、手だけ残っていたら誰でも気になるだろう。


「気持ち悪いか?」


 俺達探索者はこのドロップ品で生活をしているため、切断したように転がる手や耳、目などを回収しないといけないのだ。


「それは大丈夫です。ドロップ品はこれだけですか?」


「ああ、基本的に魔物一体につき、ドロップは一つと決まっているからな」


 魔物の素材や魔石でもドロップ品は一体につき一つと決まっている。パーティーを組んでいると、全てお金にして必要経費を差し引いたのが手元に渡る。


 ゲームや小説みたいに素材で武器や防具を作ることはないのだ。


 一方問題になるのはダンジョンで手に入る特殊なアイテムと武器や防具だ。アーティファクトではない武器や防具は問題ない。ただ、それがアーティファクトだと分かった瞬間、臨時パーティーだと殺し合いになる可能性がある。


 ダンジョンで仲間が死んだと報告すれば良いからな。


 そのためにパーティーでは追跡型ドローンカメラを使用して証拠を撮影している。


 その結果、配信という形でダンジョン配信がメジャーになり、お金を稼ぐ探索者も増えてきた。


「じゃあ、どんどんゴブリンを探していこうか」


 俺達はさらにゴブリンを探しに奥へ進んでいく。





「ギルドマスター報告しても良いですか?」


「ん? なんだ?」


 私はさっき探索者ギルドで起きたことを報告する。ガチャからアーティファクトが出てきたこと、そしてこの間報告した謎の人が探索者として登録しにきたことを。


「アーティファクトがガチャから出てきただけでも驚くのに、魔力が同じ人か……」


「はい。しかも、その人もガチャから出てきたって話があって――」


「はぁん!? おいおい、冗談は顔だけに……ぐふっ!?」


 とりあえずギルドマスターの鳩尾に一度拳をプレゼントしておいた。


 他の探索者に聞いた話だと探索者登録をしようとしていた女性もガチャから出てきたと言っていた。


 初めは何を言っているのかと思ったが、ある動画を見せられてそう思ってしまった。


「まぢか……」


 ギルドマスターは動画を見ていて驚いていた。


「たしかにガチャから人が出てきているな。どうせ編集したやつじゃないのか?」


 どこから見ても、私も編集された動画にしか見えなかった。


「それが生配信だったんですよね。そしてこれも生配信です」


 アーティファクトが出た配信動画を見せると、ギルドマスターも信じたようだ。


「これを見て君はどう思ったんだ?」


「私は彼女が人類初めての人型アーティファクトだと思いました」


「そうか」


 同じ魔力の人間は過去に一度も報告されたことがない。双子や親子でも、多少魔力は異なると言われているからだ。


 そこで思ったのが、人型の魔物だった。ハーピーやアルラウネ、エキドナなど女性の人型魔物が存在する。


 その魔物達が進化した特殊な個体かと思った。


 ただ、実際は魔物とも魔力が異なり、何も思いつかなかった。


 その時、アーティファクトを渡されてすぐに頭をよぎった。


 アーティファクトなら魔力が同じになると。


 配信動画を見ても、飛び出てきた女性を受け止めているのはおっさん探索者だ。それなら一番初めに触れた探索者の魔力を吸収していてもおかしくない。


「とりあえず全国のギルドに報告しておく」


「お願いします」


 私はギルドマスターにさっきあったことを報告すると、仕事に戻った。


「またあいつに会えるとはな……」


 部屋の中で男の声が小さく響いていた。

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