第8話 おっさん、夫婦になる
俺と同じ魔力ってどういうことだろうか。予想していない言葉に思考停止してしまう。
「有馬?」
「ああ、すまない」
そんな俺を凛は気にしていた。俺の中では凛に流れる魔力は亡くなった彼女と同じ魔力か全く別の魔力だと想定していた。
凛と同じであれば亡くなった彼女と同一人物の可能性が出てくる。逆に違う魔力であれば、見た目が似ているが全くの別人ってことになった。
それがわかるだけで俺の中の彼女への気持ちが変わってくる。
あの時彼女にしてあげることができなかったことがたくさんある。それだけが俺の中の彼女に対する心残りだった。
「感覚的にはテイマーとテイムされた魔物の関係に近いです」
ギルドスタッフもこの状況に戸惑っているようだ。テイマーは魔物に自身の魔力を流して魔物に命令を送ってコントロールしている。
そのため、テイムされた魔物にはテイマーの魔力が存在する。ただ、その場合魔物特有の魔力とテイマーの魔力が融合しているが、今の凛は俺の魔力のみになっていた。
簡単に言ったら魔力だけ見れば、俺が二人存在しているということだ。
「探索者登録はできませんが、パートナーとしての登録はできます。ただ、人間をテイムしたという事例はないですし、関係に優劣ができてしまうのでおすすめできません」
凛の人権を考えると俺も登録をするべきではないと思った。別に家の中で、何か時間を潰せるものを用意したり、他の仕事をやっても良いぐらいだ。
そもそも凛に身分を証明できるものが存在していない。そうなればある程度、魔物としての扱いでパートナー登録をした方が良いことになる。
「優劣ってどんな関係ですか?」
凛は優劣ってところが気になったのだろう。たしかに人間でいう優劣って何にあたるのだろうか。
「例えばご主人様とメイドとかってイメージだと考えやすいですよね。テイムされた方はテイマーの言うことを聞かないといけないですし」
「それなら大丈夫です」
「えっ……」
まさかの回答に俺とギルドスタッフは驚いて言葉も出ない。
「いやいや、俺はご主人様になるつもりはないぞ。エッチな命令をされたらどうするんだ?」
凛とギルドスタッフに睨まれてしまった。
「いや、もう俺にはそんな元気はないから」
「一緒に泌尿器科もご紹介しましょうか?」
さっきは睨んでいたのに、急に可哀想な顔で見られた。いや、もう使うこともないため行く必要はない。
「いや、大丈夫だ。せめて……主人と家内とかにはならないか?」
「なら家内でお願いします」
段々と何を言っているのかわからなくなってきたが、そこまでして凛は俺と一緒にダンジョンに行きたいのだろうか。
「わかりました。特に魔物と違い危険行為等もないと思いますので、こちらで登録だけしておきます」
一応テイマーとパートナーという関係で登録して、あとはギルドマスターが話し合いをしてくれることになった。
「これで主人と家内ですね」
「んー、それもおかしい気がするけどな」
「ならこの関係はなんで呼びますか?」
そう言われても、どうやって答えていいのかもわからない。別に結婚しているわけではない。
「それなら主人とお嫁さんで良いじゃないですか?」
俺達を見てギルドスタッフはそう告げた。他人事だと思い楽しんでいるのだろう。
どこから見ても俺達はおじさんと若者だ。
パパ活している女性にしか見えないと言われても頷けるほど、あれから時は経っている。
俺だけ月日が経って皺が増えて、体も動きにくい。勢いよく走ったら、たまに足が攣りそうになることもある。
「それなら私はお嫁さんです」
「言葉の意味がわかっているのか?」
きっと凛だからわかってはいないのだろう。ただ、凛の顔を見たら本人が納得しているならそれでも良いのだろうか。
ただ、今はあの時経験できなかった夫婦を変わった形で成し遂げることができた。そう思うとテイマーとパートナーという形も悪くない気がした。
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