第7話 おっさん、凛の動きに驚く
次の日、ダンジョンに行こうとしたら凛もギルドに付いて行くことになった。家にいても掃除しかすることがなくて暇だったらしい。
確かに昨日綺麗に掃除して、もう一回同じ工程を繰り返すってなるとめんどくさいのだろう。
ギルドに入るとやはり凛に注目が集まる。
「おい、あいつがガチャから出てきたやつじゃないか?」
「普通に人間だな」
「俺も女が欲しいな」
明らかに探索者が凛を見る目は野獣のようだ。命懸けの探索者は生存本能が強いため、性欲も強いのだろう。おっさんにはもう無縁だから何も思わない。
ただ、凛が変な目で見られるのは嫌だから、彼女が隠れるように前を歩く。
「有馬、邪魔ですよ?」
優しさも凛には気づかれない。邪魔な人扱いをされるが、それでも俺は知らないふりをして歩く。
今日は探索者として凛を登録する予定だ。いつものようにギルドのスタッフに声をかける。
「探索者の登録ってできますか?」
探索者は比較的簡単に登録はできる。ただ、才能があるのかどうかは試験を受けて判断される。
ここで本当に凛が元彼女であれば、体が鈍っていても探索者だった頃のように動けるはずだ。
「では裏にある試験会場に行って頂いてもよろしいですか?」
スタッフに言われた通り、凛とともについていく。
「昨日言った通りにすればいいからね」
「はい」
試験はVRゴーグルをつけて行う。中には模擬ダンジョンが映し出されている。
そこを敵であるゴブリンに見つからず、ゆっくり動き剣で切るだけだ。
感覚的には"だるまさんが転んだ"と"隠れんぼ"を一緒にやっている感じに近い。
「では剣をお渡ししますので、そのまま後ろに下がってください」
模擬ダンジョンに合わせて置かれた荷物の後ろに隠れたら準備完了だ。
俺は画面に映し出された映像を見る。そこには本当にダンジョンの中に凛がいるようだ。
実際はカカシと様々な障害物が置いてある変わった場所だ。
「それでは開始します」
開始の音とともに試験が始まった。
映像の中のゴブリンは初めは寝ている。試験受講者が近づくと、次第に音に反応して周囲を警戒し、見つかって数分したらゲームオーバーだ。
別に見つかっても、剣で切れば問題はないためその瞬間に走れば問題ない。ただ、その時には近づきにくい仕様になっている。
見つかった瞬間に大きな扇風機が稼働し、バランスを崩すぐらいに押し出される。
基本的には敵に見つかる前に倒すのを試験では見ている。
命をかけて戦う探索者は見つかる前に倒すのがセオリーだ。
凛には事前に攻略方法を教えている。できる限り忍び足で近づき、ゴブリンの耳がピクピク動いたら止まる。
これを繰り返せばゴブリンは起きずに近づくことができる。俺はそうやってこの試験を突破した。
凛は俺の言われた通りに忍び足でゴブリンに近づく。
ただ、その足運びに俺は驚いた。
「あの時の凛にそっくりだ」
凛はとにかく気配を消しながら敵に近づくのが上手だった。使っていた武器も中距離のため、ある程度距離が近づけばあとは簡単に魔物を倒していた。
ゴブリンは全く反応せずに凛は近づいていく。その姿にスタッフも驚いている。
あと少しとなったところで、やはりゴブリンは反応した。
その瞬間に凛は飛び上がり音を出さずに、ゴブリンとの距離を詰めた。
その勢いのまま剣を突き刺した。
あっという間に試験は終わり、何事もない顔で凛は戻ってくる。
「やっぱり凛はすごいね」
「これぐらい簡単です」
確かに一回受けたことがある人であればこの試験は簡単だ。ただ、初回の人であれば一回目で受かることは少ない。
動きからもして本当に凛が帰ってきたように感じる。
俺は何回か受けて攻略方法を見つけて合格した身だ。
実際にダンジョンにはいけないため、試験自体が講習に近い形で体に覚えさせる目的があった。
試験を受けるためにもお金がかかるからな。
「合格おめでとうございます。あとは登録を済ませるだけなので、元の場所戻りましょうか」
再びスタッフに案内されてギルドのカウンターに戻ってきた。
最後は謎の板の上に手を置いて登録して完了だ。初めは指紋認証かと思っていたが、どうやら体に流れる"魔力"って呼ばれる存在を登録しているらしい。
これもアーティファクトで登録される。
「ではこちらに手を置いてもらって良いですか?」
凛はゆっくりと板の上に手を置く。謎の板が輝き出していつもなら登録される。
「あれ? なぜか登録できませんね」
俺はこの言葉を待っていた。
登録されない時にはいくつか理由がある。俺は今回それを確認したくて、探索者の試験を受けさせたのだ。
元彼女と同じなら探索者登録した時点で、すでに登録されていると表示されるからだ。
そうなったら魔力まで凛と同じなら、目の前にいる人は亡くなった彼女そのものということになる。
俺はついつい嬉しくて笑ってしまう。
「んー、なぜか有馬さんと同じ魔力って表示されてますね」
「えっ……」
だが、俺が思っていたこととは異なっていた。どうやら凛は元彼女でもなく、俺と同一人物という扱いになっていた。
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