第5話 おっさん、謎の魔石をドロップする

「魔物があんまりいないな」


 ダンジョンの中はいつもと比べて少し静かな気がした。


 昨日白銀の女神がダンジョンに入った影響か、それともみんながガチャを引くために魔物の素材を集めた影響かはわからない。


 せめて凛の服や装備を買えるだけのお金を確保しないといけない。


 そもそも凛は探索者になるつもりなんだろうか。あの時の凛みたいに戦うことができるのか疑問だ。


「おっ、ゴブリンがいる」


 俺は歩いているゴブリンの背後からゆっくりと近づく。剣を構えた時には気づいたのだろう。


 ゴブリンは振り返ったがすでに遅い。俺はそのまま剣を大きく切りつける。


『グギャャャ』


 ゴブリンは声を上げながら消えていく。今回のドロップ品はゴブリンの手のようだ。


 あまりポイントにもならないし、お金にもならない品物だ。


 その後も出てくるゴブリンを切りつけては、ドロップ品を回収していく。だが、どれもゴブリンの手や耳など金額としては低い。


 それでもお金にならないよりはよかった。ガチャをしなければ、お金にもならないドロップ品でも塵も積もれば山となる。


 ただ、ゴブリンの手足や耳ばかり山にしても、換金する時にギルドの職員は嫌だろう。


 アーティファクトが発見されてから、魔物の素材が様々な物に変わるようになった。身近なものといえば鉄や石油だ。


 石油はプラスチック製品の製造に使われるため、使い道はいくらでもあった。他にも半導体の材料など、資源に変わるため魔物の素材は注目された。


 その中でゴブリンの素材は、あまり鉄分の含有率が高くない鉄鉱石に変わる。


「魔石を落としてくれたら良いんだけどな」


 俺はそのままダンジョンの中を彷徨っていると、見たこともないスライムを見つけた。


 スライムは決して昔のゲームに出てきた可愛い姿をしているわけでない。どちらかといえば、どろっとしたアメーバとかに似ている見た目をしている。


 そして、核を壊せばすぐに倒せるが、その核の位置も動かせるため初心者の探索者にとってはゴブリンよりも難易度が高い。


 ただ、目の前にいるスライムはどこかミトコンドリアの様に形が細長く整っている。


 凛が家で待っているため、スライムを倒してすぐに帰ることにした。


 誰かが家にいるって思うだけで、早く帰らないといけないって思ってしまう。


 家に帰るだけなのに楽しみだ。


 ゆっくりと近づき核を目掛けて剣を刺す。


 普段のスライムとは違って核を動かせないのか、スルスルと核に向かって剣が刺さっていく。


「これで終わりか?」


 あっさりと謎のスライムを倒すとドロップ品を確認する。


「あれ?」


 普段であれば消えたところに落ちているはずのドロップ品がどこにもない。


 ひょっとしてと思い、顔を上げるとちょうど鼻の上に何かが落ちてきた。


「痛っ!?」


 寝ながらスマホを使っている時の感覚に似ている。


 地面に落ちている物を拾うと、この間の魔石よりも小さい銀色に輝く魔石が顔の上に落ちてきた。


 急な痛みに悶えながらも、これで数日お金になるのであれば良いと思った俺は魔石を回収してギルドに戻った。





「あのー、魔物の素材と魔石を売却したいのですか」


「分かりました。テーブルの上に出してもらってもよろしいですか?」


 ギルドのスタッフに言われたように、魔物の素材を出すと次々と資材に変えていく。やはり変化していくのは、鉄の含有率が低い鉄鉱石ばかりだ。


「最後に魔石ですね」


 スタッフは魔石を手に取るとその場で止まる。すぐに虫眼鏡をつけて、細かいところまで観察している。


 ひょっとしたら高く売れるのだろうか。しばらく、働かなくても良いなら凛と出かける時間も作れそうだ。


「すみません。この魔石は買い取れないらしいです」


「なぜですか?」


「魔石は色によって属性が決まっています」


 確か赤なら火属性、緑なら風属性、青なら水属性と決まっている。


「その属性毎でエネルギーの使い方が決まっているんです」


 火属性なら火力発電、風属性なら風力発電など使い方は色々あるが、銀色の魔石はどうすることもできないらしい。


 試しに魔物の素材のように、変換してみるがそのまま形を変えずに魔石が置いてある。


「きっと稀にあるハズレの魔石ですね」


 ガチャの景品みたいな魔石に、さっきまでのウキウキしていた気分は急降下していく。


「わかりました」


 俺は銀色の魔石とゴブリンの素材で手に入れた鉄鉱石を売ったお金をもらって、家に帰ることにした。


 凛の服は買えるぐらいのお金にはなったが、装備は買えなさそうだ。

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