第4話 おっさん、バズっていることに気づく
ソファーで眠っていた俺は焦げくさいにおいに目を覚ます。台所には凛が料理を作っていた。
夢を見ているのかと懐かしんでいたが、それどころではなかった。
「おいおい、フライパン焦げているよ」
俺は急いで凛の後ろから回り、フライパンを水につける。テフロン加工されているが、水につけないと火事になりそうな勢いだ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。朝からどうしたんだ?」
朝から少しイライラしてしまうが、凛の手は少し包丁で切ったのか、手には絆創膏が貼られている。
「朝ごはんを作ろうと思いました」
そういえば、亡くなった凛は料理を作るのが苦手だった。目玉焼きを作ってもいつも何かわからない、黒焦げの何かができた。
そこまで似ていると、本当に凛ではないかと思ってしまう。
「ありがとう。でも、これからは一緒に作ろうか」
「有馬に迷惑を――」
「いや、凛に全て任せるとフライパンが無くなりそうだからね」
俺が笑い、ながら伝えると、彼女は困った顔をしていた。実際にこのままでは、すべてのフライパンが黒焦げになってしまう。
「凛はお風呂に入って着替えてて」
お風呂の使い方を説明して、着替えてくるように伝える。一式簡単には揃えたため、どうにか今日は問題なく過ごせそうだ。
凛がお風呂に入っている間、俺が代わりにご飯を作る。
簡単に卵焼きとご飯とお味噌汁があればどうにかなるだろう。
テーブルの上にセッティングして、あとは凛が戻ってくるのを待つ。
「出ました」
扉の音とともに凛がお風呂から出てきたようだ。
「飯でもくおおおおお!?」
俺は忘れていた。凛は湯上がりは暑いからと、タオルを首にかけて服を着ずに出てくることを。
すぐに視線を逸らすが、凛は何も思わないのかそのまま椅子に座った。
「食べないんですか?」
「いや、凛。ちゃんと服を着てからご飯は食べようか」
「はぁー」
凛はため息を吐いて服を着出した。その行動一つ一つがあの時の凛と同じだった。
懐かしい記憶がそのまま繰り返されているように感じる。
♢
今日もダンジョンの準備をして家を出る。ただいつもと違うのは家に誰かがいるということだ。
「私もダンジョンに――」
「凛は留守番してて。装備が整ってないのにダンジョンに入るのは危険だからね」
探索者時代の凛と同一人物だとしても、装備がない状態でダンジョンに入ったら死んでしまうだろう。
まずは装備を揃えるためにも、俺が金稼いで来ないといけない。
しばらくはガチャを封印することになりそうだ。
「行って来ます」
「気をつけてください」
どこか他人行儀に感じるのは仕方ないが、少し寂しくなってしまう。ただ、会えないと思っていた人に会えただけ俺は満足だった。
ギルドに着くと、いつもよりも人が多く騒然としていた。
「おい、おっさん! あの女はどうしたんだ?」
入り口にいる男が声をかけて来た。俺に声をかけてくるやつは滅多にいないのに珍しいこともあるようだ。
「女ですか?」
「ウエディングドレスを着た女だよ! ガチャから出てきただろ? あれからガチャに人が集まってすごいことになってるんだよ」
ギルドに人が多いのはガチャを回すために集まっている人らしい。
「俺も嫁をここで手に入れるんだ」
「お前女にはモテないからな」
「俺のどこがいけないんだよ」
「見た目!」
ガチャから人が出てくるとわかれば、恋人や性的な意味で求める人が並んでいるらしい。
それになぜかみんなスマホを見ながら、ガチャを回していた。
「スマホに何かあるのか?」
スマホを取り出すと、昨日から電源が落ちたまま充電していたことに気づく。
電源をつけると画面に異常なほど通知が入ってくる。
その通知は配信動画に対してのコメントだった。
==================
童貞探索者 8時間前
俺にも嫁をくれ!
▶︎返信する
たわわ好き 8時間前
本当に女が出てきたのか?
噂だと思って動画見たら、本当にガチャから出てきているな
▶︎返信する
NTR好き 8時間前
ガチャから出た人間なら奥さんも怒らないだろう
▶︎返信する
廃人の女神 8時間前
↑それは人としてどうかと思います
▶︎返信する
==================
たくさんあるコメントのほとんどが凛がガチャから出てきたことによるコメントだ。
誰もが驚きながらも、欲望のままにガチャに興味が出たのだろう。
どの動画も後から見えるように録画をしていたため、再生回数がすごい跳ね上がっていた。
バズって今も通知が鳴り響く。
「それで本当に女が出てきたのか?」
声をかけた男も気になるのだろう。ただ、本当に出たと言えば、今後俺がガチャを回すことができなくなってしまう。
凛にも迷惑がかかりそうだからな。
「ははは、そんなの編集に決まってるだろ」
そう誤魔化して俺はダンジョンに向かった。なんか思ったよりもバズって大変なことになっていた。
「編集って……あれ生配信録画だぞ」
せっかく誤魔化した嘘も男には見破られていた。
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