第2話 おっさん、ガチャを引いて驚く

 何度剣を突きつけただろうか。重くのしかかるハイオークに俺は手だけ何度も動かした。


 突然軽くなったことで、俺はハイオークを倒したのだと実感した。


 魔物は命が途絶えると、その場で光になって消えていく。


 息を吐いて気が抜けたタイミングで頭に衝撃を感じた。


「痛っ!?」


 頭の上に落ちてきたのは金色に輝く魔石だった。魔物からたまに魔石をドロップすることがある。


 魔石はエネルギーにもなるため、高く買い取ってもらえる。


 ただ、金色の魔石は見たことも聞いたこともない。


 ひょっとしたらこれで億万長者になれるかもしれない。


 そう思ったが、思い出すのは彼女の声だった。


 "死ぬならせめてガチャを回してから死になさい"


 これは彼女がガチャの素材に使いなさいということだろうか。


 きっと天国にいる彼女なら喜んでくれているはず。


 俺は痛みに耐えながら、見たこともない金色に輝く魔石を持ってギルドに戻ることにした。





「おい、おっさん大丈夫かよ!」


 ギルドにはたくさんの人が集まっていた。どうやらハイオークから逃げ延びた人達が情報を共有しているようだ。


「おっさんが最後だったよな?」


 俺が頷くとみんな安心したように、その場に座り込んでいた。


 時折強い魔物が普段とは違う階層に出てくることは稀にある。


 それに巻き込まれた探索者は過去にたくさんいるのが現状だ。


 よほど強い魔物でなければ、ランキング上位者がその度に倒しに行くことになっている。


「それで私が倒しに行けばいいのかしら?」


 細剣レイピアを持った女性がそこには立っていた。


 彼女は現在ランキング一位の白銀の女神と言われている女性だ。


「おじさん、死ななくてよかったね」


 そう言って彼女はダンジョンに潜っていった。俺がハイオークを倒したというタイミングを失ってしまったようだ。


 生きて帰ってきたことに喜ぶ探索者達。その隙間を通って、俺はガチャの前にいく。


「おいおい、死にそうになってまでガチャを引くのかよ」


「あいつ、ガチャ狂だな」


 俺は何を言われても構わない。ただ、彼女がガチャを引けって言っているような気がしたのだ。


 俺は金色の魔石を鞄から取り出して、1万円をガチャに入れる。


 その間にスマホを取り出して、配信ボタンを押した。


 相変わらず今日も動画配信を見ている人はいないようだ。


 必死に祈りながらハンドルを回す。


 いつもと違う輝きに俺は戸惑う。普段は煙が出てくるだけだが、今回に限っては景品が出るところが光っているのだ。


 これが記念すべき1000回目のガチャだ。


 そして、1000回目のガチャ配信でもある。


「あれ? ただ中から何も出てこない」


 俺は中を覗くと誰かに顔を蹴られた。滑って飛び出たものは勢いよく俺の上に落ちてくる。


 そのまま支えきれず俺はその場で倒れる。


「痛っ……」


 ハイオークの時の傷が痛いが、それよりも目の前の光景に驚いて動けない。


「おい、なぜお前がここにいる?」


「私は凛です」


 そこには亡くなった彼女がいた。亡くなった日の年齢で彼女の時は止まっている。


 それよりも目の前の光景にギルドが騒然となっていた。


「おいおい、ガチャから人が出るのかよ」


 ガチャから女性が出てくる。それを知った男達は猛獣のように目を光らせていた。


 今まで生きている動物や人がガチャから出たことは報告されていない。


 全国各地に置いてあるが、そんな報告は一度もなかったはずだ。


「おい、凛立てるか」


「はい」


 そんな彼女は棺に入れた時と同じ真っ白なウエディングドレスを着ている。


 あの当時は結婚式もできずに、彼女はこの世を去った。


「声も同じか……」


 目の前にいる彼女と同じ姿で同じ名前をしているが、どこか彼女ではないような別人の気がした。


 名前を呼んだらニコリと笑う彼女は、ここにはいない。


 ガチャをしたら呆れた顔でこっちを見ている彼女は、ここにはいない。


 今いるのは無表情で何を考えているのか、わからない姿や声が同じただの女性だ。


 俺の愛していた彼女はもうこの世にはいないのだ。


 彼女は20年前に亡くなっている。


 この状況はよくわからないが、まずは人の目を避けるために、彼女を家に連れて帰ることにした。

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