おっさん探索者、ガチャ配信をしていたら死んだ彼女が中から出てきて嫁になりました〜家族で挑むダンジョン配信は今日も賑やかです〜
k-ing@二作品書籍化
第一章 彼女との再会
第1話 おっさん、死を覚悟する
ガチャは男のロマン。
かつてアーティファクトがダンジョンから発見された時は注目を集めた。
――通称"ガチャ"
その中の一つであるガチャマシンには毎日長蛇の列ができた。
こぞって魔物の素材とお金を入れて、ガチャを回す。
そもそも人類皆ガチャが好き。
小さなフィギュアや小物用品、ゲームでの課金ガチャ。
それでも中身がハズレだと、人々は去っていく。
「お前も独りだな」
俺はいつものようにガチャの前に立って撫でる。
誰もが生きているうちにガチャは経験しているだろう。
そんな俺はおっさんになってもガチャにロマンを抱いていた。
手には久しぶりに討伐できたゴブリンの素材と1万円を持っている。
「おいおい、あいつまたガチャする気か?」
「どうせ外れだろう」
周囲の探索者が言うように、中から出てくるのはどれもハズレのアイテムや武器ばかりだ。
俺はいつものように配信を始める。
「相変わらず視聴者はいないけどな」
ガチャから良い物が出てくるところを共有したいと思って始めたが、誰も見ていないとわかってても配信は今も続いている。
いつものように素材とお金を入れてハンドルをクルクルと回す。
(最強の武器かアイテム。出てくれー!)
俺は必死に祈りながら回す。
――コロン!
「ははは、やっぱポーションじゃないか!」
「あんな物数千円で買えるぞ!」
周囲にいる探索者は笑って俺を見ている。ただ、俺はそれでも気にしない。
これでガチャを回したのが999回目だったからだ。
過去にたくさんのお金や素材を入れた人もいたが、出てくるのはボロボロな短剣やポーションばかり。
だが、1000回もガチャをした人はいなかった。
俺がここまでガチャをするのには理由があった。
それは桁数が変わるタイミングで、当たりが出やすいからだ。
100回目の時は今も使っている"爆睡できる布団"だ。
当時パーティーメンバー兼彼女である女性が亡くなった時からお世話になっている。
俺は次を期待しながら家に帰って、一人寂しく眠りについた。
♢
「おい、おっさん。そろそろ探索者ランキングが上がらないと資格剥奪されるぞ」
「ははは、もう歳だから仕方ないね」
探索者ギルドには電光掲示板に探索者ランキングが表示される。ある一定の依頼達成、素材を回収することでランキングが上がる。
ポイントが足りないと探索者として資格が剥奪されるのだ。
体の限界や能力を数値化することで、命を無駄にせず済む。ギルドの対策として始まったが、俺はちょうどその引退ギリギリのところを彷徨っている。
そろそろ俺も潮時だろうか。
俺は長年使っている剣を腰に剣帯して、ダンジョンに潜っていく。
「あいつはゴブリンか」
早速、目の前にゴブリンが現れた。俺が一人で倒せるのはゴブリン程度だ。
昔はもう少し強い魔物を倒せたが、過去のように体を思ったように動かせない。
あと一回ガチャを回したら俺は引退しようと考えている。
他の職業に転職しても働けるかはわからないが、まだ40代のうちなら転職先もあるだろう。
俺はゴブリンの攻撃を何度も避けて、腹に一度剣で切りつけた。
それでも傷はまだ浅いようだ。
何度も避けては剣で攻撃をする。それを繰り返せば、ゴブリンはその場で力尽きる。
「はぁ……はぁ……」
きっと昔ならこんなに時間もかからなかったし、息も上がらなかったはずだ。
これが年齢による衰えってことだろう。
俺がゴブリンからドロップされた素材を回収していると、目の前からたくさんの人達が走ってきた。
「おい、おっさん早く逃げろよ!」
何が起きたのかと思い、奥に目を向けるとハイオークがこっちに向かってきていた。
この階にはオークすら存在しないはず。低階層は基本的にスライムかゴブリンだけだ。
そのオークの上位種がなぜかこっちに向かって来ていた。
俺も急いで走るが、目の前には誰もいなくなっていた。
おっさんの俺は逃げ遅れたようだ。
ジリジリと近寄ってくるハイオークはニヤリと笑っている気がした。
「あっ……」
振り返ったのがいけなかったのだろう。俺はその場で何かに引っかかって転んでしまった。
足元に落ちているのはゴブリンの素材。
逃げる間に倒したゴブリンの素材が、そのまま落ちていたのだろう。
探索者を引退する前に俺はここで死ぬのだろうか。
楽しかった昔の出来事が走馬灯のように、脳内を駆け巡る。
どれもが楽しかった彼女との記憶だ。
結婚を約束した彼女は病気で亡くなってしまった。
今度は俺が彼女の元へ行く時が来たのだろう。
だが、一向にハイオークが襲ってくることはなかった。
ハイオークは俺が倒れたことで、死んだと思ったのだろうか。
逃げた探索者を再びハイオークは追いかけた。
「ふぅ、何とか生き延び……」
俺は体を起こして前を向くと、ニヤリと笑うハイオークがいた。
「えっ……」
きっと俺がわざと倒れたことをわかって一度離れたのだろう。
ハイオークはオークと比べて知能が高いことを忘れていた。
俺の腹に重いハイオークの一撃が入る。
『グモオオオオオ!』
雄叫びをあげながら、倒れた俺に近寄ってくる。
恐怖心で体が震えて動かない。
「ははは、俺もここで終わりだな」
「何言ってるのよ?」
「えっ……」
どこかで亡くなった彼女の声が聞こえてきた。これこそ本当に死ぬ間際の幻聴だろうか。
「死ぬならせめてガチャを回してから死になさい。私とのデート費もガチャに使ったの忘れてないわよ」
そういえば、デート費でガチャをした時にものすごく怒られたな。
パーティーを組んでいた俺達は、デート費としてお金を貯めていた。
それをこっそり使った時は死ぬかと思った。
あの時の彼女の顔と比べたら、ハイオークって可愛いぐらいだ。
「私がハイオークよりブスってどういうことよ!」
「いや、そんなことは――」
「ならそんなブス豚野郎を早く倒しなさい!」
「ふふふ、わかりました」
彼女に怒られたのはいつぶりだろうか。ついつい笑ってしまう。
俺は腰につけている剣の柄を握りニヤリと笑う。
死ぬ間際って時間が長く感じるのだろう。彼女の声が聞こえてから剣を抜くまで、数秒の出来事だった。
「俺はまだ死ねないんだよ!」
近づいてきたハイオークに向かって、飛びつくように剣を突き出した。
『グモォ!?』
ハイオークは俺が動けると、思っていなかったのだろう。
突然腹に刺さった剣に驚いているようだ。
その間に俺は何度も剣を刺しては抜くを繰り返す。
ダンジョンの中はハイオークの叫び声が響いていた。
──────────
【あとがき】
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