事故物件から来た女

私は引越しの際は極力事故物件を避けるため、内見での自分の感覚に加え、事故物件サイトでも念の為調べるようにしている。


これは飲み屋で働いていた頃の事である。

新宿からほどほどに近い場所でありながら家賃安めの物件に住んでいた。

ここに引っ越す際にも事故物件サイトで調べたはずだったが、当時は何も載っていなかったように思う。


ある日仕事を終えて明け方に家に辿り着くと、私の部屋の玄関前に見知らぬ女が座り込んでいた。

酔っ払っているのか、話しかけても話がいまいち通じていない。

このまま玄関前に居られても嫌なので警察にでも連絡しようかと思っていた時、「真上の住人です」という男がやってきた。

男の話によると、彼女が突然部屋を飛び出していって帰ってこないから探していたという。

女の反応からみてこの二人が知った仲であるのは明らかだし、何よりこんな明け方に玄関前で様子のおかしな女に居てもらいたくないから男に任せて女を連れていってもらった。

その際、それまでよく分からないことばかり言ってた女がはっきりと「部屋に戻るのはいやだ、いやだ」と言っていた。

喧嘩でもしていたのだろうか。


その後その家から引っ越したが、後になって再度その家の事を事故物件サイトで調べてみた。

私の部屋の真上の部屋が事故物件となっていた。

事故の日付けが私がその物件に引っ越してきた直前だったため、引越しの際にはまだ載っていなかったのだろう。

そうすると私の部屋の前に座り込んでいた女の「部屋に戻るのいやだ、いやだ」という言葉が途端に違う意味に思えた。

あの女は事故物件で何かを体験してしまったのだろうか。

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