記憶から消えていく人

飲み屋で働いていた頃に常連客のヨシダさん(仮名)という常連がいた。

元々は近所の別な飲み屋の若いママの大学の先輩だと紹介された。

そこそこやんちゃしてた奴だというのはすぐにわかり、それでいて人当たりがよく、面倒見もいいため、若いお客さんのいい兄貴分となってくれた。

私ともプライベートでも遊びに行くようになり、お客さんを巻き込んでどこか行こうとなると、その中心にいるのは必ず私とヨシダさんだった。

一年越しの旅行の計画を練っている頃に突然ヨシダさんと連絡が取れなくなった。

最初はLINEの既読がつくまでに何週間もかかるようになり、返事も来ない。

そして2ヶ月もしないうちに既読もつかなくなった。

彼が既婚者で、それでありつつも女遊びしていた事は知っていたので、最初は浮気が奥さんにバレたりしたのかな程度に考えていた。

しかしそれにしても不安にはなる。


半年ほどした頃、ヨシダさんのLINEのアカウントが消えた。

ブロックされたとか、友だちを解除されたとかではなく、完全にアカウントが消えていた。

この頃から異変に気付いた。

まず、同じ大学だったとヨシダさんを私に紹介してくれたママである。

最近ヨシダさんと連絡取れないと話すと「誰それ?」と。

え、大学一緒だったっていってうちに連れてきてくれたじゃないか。

彼女の記憶の中にヨシダさんはいなかった。

自分の記憶違い?いや、そんなわけはない。

ヨシダさんがうちの他にも行っていた飲み屋にも聞きに行った。

どのお店でもヨシダさんの記憶が消えていた。

辛うじて共通の友人数人は覚えていたが、その中にもヨシダさんの記憶がなくなっている人が出始めた。


ふとカメラロールを見返してみた。

ヨシダさんと写っている写真は何枚もあったはずだ。

しかしそこにヨシダさんは写っていなかった。

あれだけ一緒に遊んでいたのに、彼の写真はたったの1枚しか残っていなかった。

この写真からヨシダさんが消えたら、私の記憶の中からもヨシダさんはいなくなるのかもしれない。

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