第5話 宝具

「この先も宝具に人格が宿っている、あるいは人に宝具が入っている、可能性がある」


「幻惑の香水、グレイスと続いていますからね」


「フィニーはどうなんです?」


「そうさの。ワシは人に宝具が入っている、方になるかの」


「幻惑の香水が入ったのは、いつ頃から?」


「最近じゃの。3年ほど前だったか」


「それ、最近なの?」


「グレイスは若いのだな」


「ワシはハンターでな、宝具を収集しておった」


「いらないな」


「そうね」


「ですね」


 長話を続けるフィニーを放って、次へと進んだ。変わらず肩の辺りで、ちかちか光るグレイスを確認する。


「少しは気にかけてくれてるんですね」


 半眼で応えた。


「あなたも宝具が入っていますの?」


「ぼくは混ざっていてね。どちらにもつかずに、ちょうどよいところを探ってるの」


「誰もがそうであろうな」


 地蛍が瞬いている。遠目に光が見えたと視認するそばから、光は大きさを増していった。静かに歩いていきながら、右手を掲げた。光と激突した瞬間、朱色が鮮烈になったのが確認できた。やがて光は収束して、右手は、やや不健康そうな白色を闇に映した。朱色は消失したのだ。


「リゲル、お見事ですわ」


「なんだったんでしょうね」


 フィニーが瞼を閉じていた。


「なるほど、な」


 右手を起点に全身を点検してわかったことがあった。俺は力を失った。それを理解したのと、ほぼ同時に声が聞こえた。


「このまま行くか、朱に変わる前に戻るか」


「愚問である」


 夜空へ煌めく星々、ソメルと愉快な仲間たちを見つめる。


「いこうか」


 声と共に一行は歩みを進めた。

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メッシュハント @hayasi_kouji

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