第2話 アリシア

 急降下して入口へと降り立つ。


「こんばんは」


「こんばんは。誰もいないと視認したが」


「こんばんは。我らを待ち伏せたか、下郎」


「早計である」


「あら。何故、潜んだか?」


「あはは、ハンターの習わしですよ」


 両手をあげて、歩み出る。


「攻撃するがよいか?」


「かまいません」


 ロー、ミドル、ハイと3連で蹴りを放つ。


「全て合わせますか、なかなかやる」


 ソメルが目を輝かせる。


「次は私の番です」


「いいでしょう」


 地面をぶち抜いた踏み込みと、渾身のストレートが放たれる。やすやすと片手で受け止めるが、跳ぶ。地を数度、削りながら受け止め切った。


「半身が吹き飛んだかと思いましたよ」


 飄々と近づいてくると。


「お次はこちらの番ですね」


 目が光る。指でこいと示す。


「あはっ」


 愉悦の声を上げて迫る。たいした速度はないが、片手で受け止める。足をつけた地面が吹き飛んでいく。音が消え、圧力は増すばかりだ。だが。


「狂いが足りぬな、道化」


「全て受け止め切りましたか、あははっ」


 指を鳴らして、地を戻す。目を丸める男に尋ねた。


「リゲルだ。名は?」


「アリシア」


「アリシア、バーサーカーの血が流れるか」


「えぇ。なんとも思わないのですね」


「血など考えたところでどうにもならぬ。アリシア、共に来い」


「どこへ行くのです?」


「アッシュハントだ」


 目を丸くすると、しきりにうなずいたあとで笑った。


「行きましょう、どこまでも」


 ソメルに蹴りをくらい、抱きよせた。


「ソメル。他は羽虫よ。気高くあれ」


「しょうがないわね」


 そのまま洞窟へと直進する。


「早速、置いてけぼり?!」


 あわてたふうで、すかさずアリシアも並んだ。分岐に差し掛かり、右へと向かう。何かを踏み抜くが、後ろで爆発が起こる。背後で天井が落ちる。底なしの割れ目を飛び越えていく。やがて静謐なる空間へと到着した。


「休息をとろう」


「いいわね」


「なんか起きそうな雰囲気ですが」


「構わぬ」


「ラッセ」


 ティーセットが出現する。


「ふむ、やはりラッセに限る」


「あのー」


「あら、砂糖を入れるように?」


「ブラックと枠にとらえて味わいを損なっていたのさ」


「これはいったい」


「紅茶にもあうかしら?」


「いただきます」


「まあ」


「気に入ったようだな」


「えぇ。確かに枠に囚われていましたわ」


「タルトもチーズケーキも、めちゃくちゃうまいんですけどーーーー!!!!」


 その時、壁が揺れて静かに動くと、轟音と共に何者かが現れた。


「不調法者が」


 ソメルが追随し、アリシアも逆をとっている。


「断ち切れ」


「あははっ!!」


 最後にかかとおとしを決めると、地に埋まる。


「立て」


 頭をわしづかみにして引っこ抜いた。そのまま顔面を殴打する。宙へと放り投げると、アリシアが追撃に入った。


「妙ですわ」


「同感だ」


 容赦のない攻撃を続けているのは損壊を感じられぬからだ。アリシアも興がそがれたのか打ち捨てて戻ってくる。


「適温をたもっていたな」


「えぇ」


「あなた達は泰然とされていますね」


 洞窟の中は暗い。光源などない。それでもなお黒さを際立たせて、そこにある。


「帰るか」


「えぇ」


「そうですね」


 ティーセットは消えていった。程よい満足度も得たし、十分であろう。


「幻惑の香水が眠っていたとの情報は偽りであったのか」


「解せませぬね」


「おーい」


「ここに眠っていたのですか」


「アリシア、宝具を狙っていたのではないとすれば、なぜ、いたのだ?」


「気づいたらここにいまして」


「ままならぬの、血というものは」


「そうですわね」


「ちょっとお話を」


「あちらの方向からきたのだから、いっそぶち抜いてしまうか」


「造作もございませんわ」


「いいですね」


 洞窟を一直線にぶち抜くと、急速に空気が外へと流れ出し奔流が起きた。それにのって、一息に外へと飛び出す。


「ありがとうございます」


 ソメルを腕から放つ。


「私も大切に扱っていただけたら」


 と言いながら、そばにあるアリシア。遅れて黒き者が空へと打ち上がっていった。ややしばらくして落下して、地へとめりこんだ。

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