蝿捕蜘蛛の少年

 山にほど近い大きな公園。その一角にあるレストハウスに展示してある資料なんかを見ていると、日当たりのよい窓ガラスにぴたりと体を寄せている男の子と目があった。

「やあ」

 大きな目をくりくりさせて彼は僕に行った。

「ここ暖かいよ!」

 外からの日差しを受けた柔らかそうな髪が薄茶色に透けている。お言葉に甘えて隣に並ばせてもらった。もう肌寒い季節だというのに、日をいっぱいに浴びた窓辺はぽかぽかと暖かで、ガラス面にくっつけた背中の気持ちよさについ目を閉じてしまう。

「ね、いいでしょここ」

 得意げな言葉に頷いて返した。しばらくしてふと気づき、一人なの?大人は?と聞くと、やだなあ、と呟いてから

「兄ちゃんからしたらそりゃ小さいだろうけどさ、こう見えて立派な大人なんだぜ」

と胸を張った。その姿が可愛らしくてつい顔がほころんでしまう。

 外に行かないのかという僕の質問には

「あんまり寒いの好きじゃないんだ。それに」

そう言って大きな目をきょろきょろさせた。

「ここにいれば可愛い子に会えるしね」

 お目当てを見つけたのか動きを止めた彼は両手を上に伸ばし、僕から見えない角度の可愛い子に向かって大きく振った。

「ん、脈ありかな」

 どうしてわかるの?

「だってほら、こっちをじっと見てる」

 そう言われても僕からかわいこちゃんは見えず、反応に困る。

「どうしよう、行こうかな」

 手をゆっくりと振りながら、彼は少し足を踏み出した。脈がありそうなら行ってみたらと僕は言う。

「でも女のコは怖いんだぜ」

 意外な返事。怖い? 怒らせたら確かに怖いけど…。

「兄ちゃん何にも知らないんだな。雄は用が済んだら食べられちゃうだろ」

 えっ、と思うまもなく

「ま、いっか。ちょっとトライしてこよっと」

ぴょんとジャンプすると、あっという間に彼の姿は見えなくなっていた。

「兄ちゃんも女の子には気をつけなよ」

 そして声だけが僕の耳に残った。

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