Day31 遠くまで

 おにいへ


 ねえ、おにい。私の初恋、おにいだったんだよ。そういったら、めちゃくちゃむせてたよね。飲んでたコーヒー吹きだしてたし。

 そんなに動揺するってことは、おにいも私のこと意識したりしてたのかな。

 なんてね。けど、仮にそうだったとしてもべつにいいじゃない。想うことは罪じゃないでしょ。そもそも血はつながってないんだしさ。

 まあ結果的に、私たちは兄妹きょうだいのまま、どうともならなかったわけだけど。


 たぶんね、私は『おにい』が好きだったの。わかるかな。ひとりの男性としてじゃなくてさ。『おにい』だから好きになった。

 あるとき、ふいに気がついたんだ。

 私はおにいのことが大好きだけど、じゃあおにいとキスとかエッチとかしたいのかなって。想像したら、無理だった。恥ずかしいとか照れるとか、そういうんじゃなくて、絶対的に無理だって思ったの。

 そのときわかったんだ。

 おにいのことは大好きだけど、じゃないんだって。血がつながってなくてもおにいは『おにい』で、私は妹なんだって。

 そう気がついて、それがなんだかすごく悲しくて大泣きしちゃった。はじめての失恋だよ。片想いだったけど、気分的には大失恋。


 ねえ、おにい。おにいと兄妹になって、もうすぐ十六年だよ。びっくりだよね。

 十六年まえの夏。はじめて会ったとき私は七歳で、おにいは十七歳だったっけ。

 なんだかずいぶん遠くまできたような気がするけど、きっとこれからのほうが長いんだよね。


 おにい。

 結婚おめでとう。

 お義姉さんのこと、泣かしたら私がゆるさないからね。大切にするんだよ。約束だよ。


   先週カレシができた妹より


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どこかの街の、ちいさな夏の物語【#文披31題 2023】 野森ちえこ @nono_chie

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ