第60話(後編)特徴がないのが特徴のキャラクターは意外と特徴がある


 ~第1回ハジメ君を語ろうの会~


 拍手もそこそこに、早速永井と嵐山さんが挙手した。


「意外と

「親友を名乗るわりに1番目に出すのがそれでいいのか……?」

だけど、ナツキにはあけすけ~」

「嵐山さんまで……」


 机に置いた小さなホワイトボードに水性ペンでボクの特徴が綴られていく。主にむっつり方面だけど。ボクってそんなにむっつり系のイベント起こしてたっけ?


「だってぇ、旅館で同じ部屋になったのに手を出さなかったのよ~?」

「それは隣にいる我が友人にも言ってほしいです」

「俺は嵐子さんの舎弟だから対象外でーす!」


 それはそれでいいのかとまたツッコミたくなる。

 こいつ……うまいこと逃げやがるなぁ。永井と嵐山さん、2人して「うぇ~い」と煽ってくる。悪友枠コンビの息の良さと言ったらもう……


「ハハハ、弄ばれてるねぇ」

「先輩も……真面目にやるんじゃなかったんですか?」

「私はいつでも真面目だよぉ?」


 ナツキ先輩もいたずらっぽく笑った。

 3対1とは分が悪い……そもそも、戦いとかじゃなくてボクの掘り下げのはずでは……? これじゃボクを弄る会じゃないか!


「大事なのは『ハジメ』という少年のイメージ像を多視点から作り上げることだ。君が最初から記憶を持っていればこんな面倒なことはないんだがねぇ」

「そうだぞー記憶喪失少年ハジメ!」

「ふふ、アニメのタイトルみたいね~」

「勝手に盛り上がらないでください……」


 いつの間にか、2人は事情を把握していたらしい。でも、この2人ってボクの意識が作り出した人物たちじゃないのかな……?


「少なくともこの2人は埋め合わせの人間じゃなくて、君の記憶から抽出された実在の人物だ。だからがあるんだよ」

「あ…………!」


 なるほど。

 今まで検証で出会ってきた人たちと違うのはそういうことか。なら、今までの経験で交流した生徒達は…………

 

「話が脱線したねぇ。ではもう一度、ハジメ君とはどんな人物か?」

「巻き込まれ体質、でもそれを楽しく感じる奴!」

「振り回され係よね~」


 なんだなんだ、ボクがMみたいじゃないか……って、Sでもないけどさぁ。そりゃぁ、ナツキ先輩に弄られるのは嫌いじゃないし、どっちかというとリアクション係だから受けの印象を持つかもしれないけども……! あくまで先輩のSっ気が強いだけだからね⁉

 

「ちょっと先輩! この人選は偏りがありますよ!」

「わがままだねぇ」

「えーと、そうだ! 妹とお姉さんがいるだろ? 姉属性と妹属性に強い!」

「だからわたしに物怖じしないのかしら……?」


 ショックぅ~、と嵐山さんがとてもとてもわかりやすい噓泣きを見せつけて下さりやがります。おい永井、無言で野次るな。


「全然議題が進まない……ッ!」

「ぐだぐだの部活動、これが本来の文芸部なのさ。でも新たに2人の視点が加わって分かっただろう? 君は特徴がないのが特徴の人物ではないんだよ。私に弄られて喜ぶ巻き込まれ体質の記憶喪失系後輩さ」


 属性のバイキングじゃないですか……! さすがに違うと思います。ボクの記憶も違うと言ってる気がします。多分。


「ボクのキャラクター像、か…………」


 第1回ハジメ君を語ろうの会……果たして2回目が来るのかどうか……

 ハジメ君を語ろう…………

 ……ハジメ君?


「みんな、ちょっといい?」

「なんだい?」


 ホワイトボードの一番上を見つめて疑念は深まる。

 『ハジメ』という名前は確かに思い出した(出させてもらった)よ? でもさ、


「ボクの苗字は? それともハジメが苗字なんですか?」


 救世くぜナツキ

 永井佑ながいたすく

 嵐山風子あらしやまふうこ

 

 皆、きっちり苗字+名前である。

 今まで会った人はともかく、ボクが実在する人間であるならば、疑問がある。ボクも『ハジメ』という名前は取り戻したけど、それはフルネームじゃない。まだ不完全なんだ。


 ○○ハジメ、なのか……それともハジメ○○なのか……?


 ほら、ボクこんなに勘の良いキャラクターだ。振り回され系のドMキャラじゃないぞぅ! 


 1人でガッツポーズを取ったものの、一同静かなものだった。永井は白目を剝き、嵐山さんは合掌。頼りのナツキ先輩も、バツの悪そうな顔でボクから視線を逸らす。


「……先輩?」

「え~っと、すまない…………………………忘れた」

「俺も」

「同じく~」

「えぇ……」

「いや! 多分覚えてる! この辺までは来てるんだがねぇ」


 本来首元にあるはずの手が、先輩の小さな額に当てられていた。前編のシリアスな空気が吹き飛んでしまっている。なんだこれは。


「仕方ないだろう! 何度もループして記憶は曖昧になるし、君の事はずっと『ハジメ』と呼んでいたんだから! 苗字で呼んでいて下の名前を知らない、あれの逆さ!」

「なんという超理論……」

「ちょっとちょっと、聞きました嵐子先輩、『ずっとハジメと呼んでいた』ですって」

「厚い信頼ね~」

「そこ、助っ人2人! 私を弄るんじゃぁない!」


 珍しく慌てた先輩が永井と嵐山さんに声を荒げた。いっつも冷静な先輩も、弄られるのは慣れていないようだ。新鮮。いいぞ、もっとやれ。



 特徴がないのが特徴のキャラクターは意外と特徴がある……それは誰かが見た一側面でしかない。10人が見れば、違った印象が現れるはず……ボクはMではない。Sでもない。Nノーマルである。それはそれとして名前の半分を探さなければ……!


 カタにはハマらず、次回へ続く。


 

 

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