第59話 ループに気づくころ、物語は終盤



 生徒会室。

 対面にいる生徒会長のメガネが光る。


「ふむ……それなりに結果を残しているなら屋上の件は不問にしておこう。弁償費用は部費から差し引いておく」

「たかだか南京錠ひとつに大袈裟だねぇ」

「すべての部屋の鍵を複製している人間に言われたくはない」


 部活動の活動実態について生徒会に報告することになった放課後。第壱話の屋上についてお叱りを受けていた……んだけど、当の犯人は反省する様子がないのと、余罪がさらっと湧いて出てきた。


 う~ん……前に生徒会室に来たときはボク一人だったんだよね。


「まったく……せっかく後輩が入ったんだからまともになってもらいたいものだ」

「失敬だねぇ、私はまともで立派だよ」


 ではない、と思っていると生徒会長と目が合う。お互い目を見開いてアイコンタクトをしたのが妙におかしくて視線を逸らす。


「ともかく! ピッキング紛いの行為は慎むように」


 咳払いひとつ。生徒会長に注意されボクと先輩は生徒会室を後にした。


「ところで、自分のことはどれくらい思い出せたかな、ハジメ君」

「いやー名前以外は特に」

「まぁ……そこは焦っても仕方ないねぇ。名前だけでも進歩だよ」


 そう言いながら、先輩は前を行く。

 この前のナツキ先輩の言葉が本当なら、ほんとにループしているということになる。現に、ボクは二度目の生徒会長のお叱りシーンを目の当たりにした。


「ループごとに内容が変わるものなんですか?」

「前々回は私も君もすっぽかして真田先生がこってり絞られたっけねぇ」

「なんて不憫な……」


 そういえば、校長、教頭先生は記憶に残っていて、他の先生はぼんやりとしている。それでもなぜか真田先生は印象に強い。


「昼間っから酒に浸る教師なんて忘れたくても忘れられないだろう?」

「……確かに」


 教科書より一升瓶を持っている時間の方が長いのではないだろうか。ループの世界にすらインパクトを持ってくるのは尊敬する。


「何度か手を貸してループから目覚めたことはあったけどね。君が創作をしたのは今回が初めてだよ。反則ギリギリを攻めたおかげか、いよいよこの世界も終盤かな」

「初めてって……何回ループしたんですか……?」

「さぁ?」


 てっきり途方もない回数でも提示されるかと思えば、先輩は困ったような表情で振り返った。


「私も正確に全部数えてるわけじゃぁないからねぇ。50だか100だっけかな? 忘れてしまったねぇ」


 それでも1年を巡っているならとんでもない年数なんですが……

 そもそもどうやってボクの中に入ったのか。どうしてボクの中にいるのか……聞いたところで教えてくれるかはわからないけど。


「なんでそこまで……?」

「おや、鈍感クソボケ主人公がここにもいたねぇ」


 ……どストレートな罵倒と共に、先輩は笑った。いつものくすんだ瞳ではなく、陽光で目を輝かせながら、


「好きな後輩の為なら、頑張るのが先輩だろう?」


 いつも弄って来るのに、ここぞという時に破壊力抜群の笑顔を見せるのは反則だと思う。やっぱり先輩はずるい。


 ループに気づいた時、それは物語の終盤……巡る世界の果てを、ボクらは知る必要がある。


 そう、ボクらはカタに――


「待った」


「え……お約束は?」

「それはループの契機の可能性がある。世界を抜けるなら、カタにハマるのはそろそろやめる必要があると思う」

「でも、ループから抜けるためにループしないルートを目指すのもカタにハマってません?」

「そのツッコミは何度目だったかな? ふふ……これもカタにハマってる?」


 カタにハマって、カタから抜けて。

 作戦会議はボクらの部室。


 

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