終章 ナツキ先輩とハジメくん

第壱話 学校の屋上が開放されてることって稀だよね


 春。


 のボクは慣れない階段を駆け上がって屋上に繋がる扉を開ける。本来なら施錠されている扉、その南京錠は間抜けな姿で解かれている。


 鉄の扉を開ければ春の陽気が頬を撫でる。

 そして


「遅いよぉハジメくぅん?」


 先輩はいつも先に、屋上にいる。


「どうせ授業終わる前に抜け出したんでしょナツキ先輩は」


 購買の焼きそばパンを頬張るナツキ先輩。対して好きでもないのに「カロリーが摂れるから」と食べているそうな。授業が終わってまだ5分も立たないうちに来ていた様子。


「わかってないねぇ……1分1秒でもこの昼休みを享受したい、当たり前のことじゃぁないかな?」

「屋上をピッキングして侵入する人は当たり前じゃないすけどね」

「心外だねぇ〜、技能向上の練習だよ」


 ナツキ先輩はなんでもする。


 学校で寝たいがために部屋を確保するために部活を作って部室をもぎ取ろうとするし、平凡の見本のような自分ボクを部員として引き摺り込む。 先輩とは、そういう人物なのだ。


「こんな毎回屋上に侵入してたら指導室行きですよ」

「それは大丈夫さ、指導する先生の弱みくらい握ってるさ」


 危険人物である。

 放っておいたら何をするかわかったものではない。


 その『何』を説明するのはやめておこう。


「屋上でぐだくだと駄弁る、実に学生らしいじゃぁないかな?」


 そもそも、屋上で雑談する学生はいないような気がする。

 けれど、学生とは屋上で何かをする生き物だと言う知識はある。この知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。



 そう、ボクらはカタにハマってる。







 …………あれ?

 これ、先輩との最初の活動記録じゃなかったっけ?


「あのー…………ナツキ先輩」

「なにかな?」

「先輩って、今年3年生ですよね?」

「ハッハハハハハハ、不思議なことを言うねぇ。私は2年、君は新入生だろう?」

「いや、この前卒業式やったじゃないですか。ホワイトデーも。ようやくボクが名前を思い出して……的な」

「あぁ、それね……それとこれは関係ないよ、ここは現実じゃぁないから」

「まさか……夢の中とでも言わないですよね」

「それならそれでよかったんだけどねぇ」


 ようやく自分を見つけたはずなのに、奇妙な現象は終わっていない。先輩はボクの言葉を分かっていたかのように、目を細めた。


「ループしてるんだよ、この世界は。だってここ、君の意識の中だもの」

「前の物語をかき消す話題を重ねないで下さいよ……」


 ナツキ先輩はなんでもする。

 それが、ボクの意識に潜ることだとしても。




 


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