第56話(後編)冬はアイスクリームがうまい季節


 雪〇大福。

 〇リ〇リ君。

 パ〇コにピ〇。有名どころを筆頭にビニール袋にアイスがどっさり。


「これ、全部食べるんですか……?」

「そうだよぉ」

「せっかく永井くんが買ってきてくれたのよ~?」


 さすがに代金は先輩と嵐山さん持ちのようだが……買い過ぎでは? 

 お腹壊しそう。


「アイスの冷気をこたつの熱で相殺するんだよぉ」


 超理論である。

 夏場に冷房をガンガンに効かせて羽毛布団で寝るようなものか。確かに分からないでもない。


 さっそくお高いカップアイスへ手を伸ばした先輩が、中身へスプーンを突き立てた。いきなりハー〇ンダッツとは……遠慮がない。


「んでは、せっかくなら大福を……」


 2個1対の白い大福アイスを手に取る。中身はまん丸、おなじみの存在が鎮座している。いつも変わらぬ粉雪のかかった円の君へ、付属の槍を一刺し。むにゅっと先端がめり込み、中の餡ならぬアイスを捉えた。


「いただきま~す」


 もちの部分を突き破り、歯から伝わる超冷感。ミルキーな甘味が口内に満たされる。足はこたつで温かいけど、背中を守るものがない分、余計に寒く感じる。

 

 否、足が温められている分そこまで悪くない……かも?


「まぁ……美味しいアイスはいつ食べても美味しいか」

「それを言ったら身も蓋もないよぉ」


 前提をひっくり返してしまいそうなボクを、先輩がアイスを掘削しながらツッコむ。やたら堅い様子。そういえば、スゴクカタイアイスなんてあったっけかな……


「う~ん、ダメだぁこうなったらこたつで溶かすか」

「何アホなこと言ってるんですか、握っててください」

「それだと冷たいじゃぁないか!!」


 それがアイスでは…………?

 体温が伝導するスプーンもあった方が良かったのではないだろうか。といった所で後の祭り、カンカン鳴らして大して掘れないアイスに先輩は鬼の形相。執筆中ですらしない顔である。


「後輩君が温めてくれたまえ!」

「んもぅ、自分で選んだんじゃないですか」

「あとその大福の片割れを寄越したまえ」


 なんたる暴虐。

 大福1個カツアゲとは人間のすることではない。だが先輩ならやる。

 ……まぁ、あげるけどね。


「はいはい、献上しますよ先輩殿」

「従順な後輩を持って幸せだねぇ」


 刺した大福を、直接先輩の口へ突っ込む。以外と大口で受け入れると、もっもっ、と頬張り始めた。


「おいひぃへぇ」

「はいはい、アイス貸してください。人肌使いますんで」


 カチコチのアイスだけがこちらへやって来る。両手で包み込んでみると、足元とは正反対の感覚が指先を鈍らせた。


「つめた……」


 やっぱりこたつにぶち込んだ方が良いのではないだろうか。


「っ~~~~~~~~」


 もう一度先輩に視線を戻すと、飲み込んだアイスの代償か、頭を押さえて悶えていた。


「いっぺんに食べるから……」

「君が食べさせたんだろう……!」


 くれって言うから。

 確か、常温でもいいから口の温度を変えればいいんだっけ……?

 

「あ~! 永井君ハートのが入ってる~!」

「嵐子さんにあげるっすよ!」


 あちらはあちらで楽しんでいるようで。我が友はピ○の貴重なハート型を差し出していた。完全なパシ……いや、舎て…………良い後輩だな、永井よ。


 あれ……チョコ?

 なにか忘れているような…………


「そろそろ溶けただろう? 後輩君、よこしたまえ~」

「気が早いですよ……あ」


 手元のバニラアイスを見て気付いた。

 チョコ、白…………そう、ホワイトデーである。


「んぅ~やっぱり冬のアイスは美味しいねぇ」


 冬はアイスクリームがうまい季節……それは夏場に食べる熱いものと同じで、寒い時に敢えて冷たいものを食べる謎の行動。冷えは万病のもとだけど、こたつに入れば実質無敵……らしい。結局それは、先輩たちがアイスを食べたいだけだと思う。けれど冬に食べるアイスはなんだかんだでうまいのである。この知識はぼんやりと、しかし確実に脳内に記憶されているのだ。


 そう、ボクらはカタにハマってる。


 お返し……どうしよう。

 というか、先輩に何かあげるのって初めて⁉

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