第13話(前編)イケメン女子、実はポンコツ疑惑
「ふぃー、まさか犯人が旦那さんのクローンだったとは……」
巷で噂の推理小説を読み終えた夕方。数日前から序章に手をつけようやく終わりを見届けた。なんでも先輩が資料として買ったらしい。
双子がダメならクローンはOKというのも考えものである。これってノックスの十戒に引っかからないのかな。まぁいいや、面白かったし。
「……暇は潰れたけど」
先輩どこにいるんだろう?
「今どこですか」と連絡しても「学校」としか返ってこない。ザ・塩対応。目の前にいるとハラハラするが、いないならいないで不安に駆られるのは面倒だ。決してやましい気持ちとかではなく、保護者的な。
「邪魔するぜ」
ウルフカットの女子生徒がずかすがと文芸部へ侵入することで、優雅な孤独は簡単に壊された。
シャープな顔立ちと乱雑に見えて顔のパーツが見えるよう調整したヘアスタイル。男顔というのだろうか、王子様系……いや、イケメン女子である。
「どなた……?」
「お前があいつのお気に入りか……ハッ、特徴のねぇ面してんな」
あらご挨拶。
ちょっとハスキーなボイスの彼女はボクを値踏み。
「アタシもあいつを探し回ってんだ、勝負しろっつっても逃げ回るからな」
勝手に会話を進めないでほしい。
あいつ、とかアタシとか言われてもボクは知らない。文脈からして先輩なんだろうけどね。
「ここにいればあいつが来るって寸法さ。もしくは居所知ってる奴がいるだろうってな」
「はぁ……とりあえずコーヒーでも飲みます?」
「カフェオレにしてくれ」
……図々しい人だ、間違いなく先輩のお仲間だろう。注文通りカフェオレを作ると、一口目で渋い顔をしてスティックシュガーを2本入れた。
「……さてと、じゃああいつはどこにいるのかな?」
「それって先輩のことですよね」
「他に誰がいるんだよ」
いるかもしれないじゃない?
後で誤情報掴まされた、なんて言いがかりつけられたくないし。
「先輩ならボクも知りませんよ。ほら」
アプリのメッセージを見せると、彼女は無駄にスクロールする。なんかいやだなぁ……大したこと書いてないけど。
「これ見せられて、はいそうですかと引き下がるほど素直じゃないぜ」
めんどくさっ。
先輩は傍若無人って感じだけど、この人はオラオラ系でめんどい。
「じゃあ何か勝負します? えーと……」
「
「じゃあ……天海さんが勝ったら探しに行きますよ。多分見つかりませんけど」
念押しして提案すると、天海さんは口元を緩めた。
「ハッ、勝負になりゃいいけどな」
胸元からトランプを出した天海さん。なんで持ってるのかはこの際気にしないでおこう。
……どっちでもいいや。
どうせ先輩の知り合いだ、碌な勝負にならないだろう。
この時ボクはイケメン女子の天海さんにさっさと負けようと思っていた。それが間違いだと気づいたのは、すぐ後のこと。
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