第12話 銀髪女子はミステリアス


 ん? 風邪治ってから先輩に会ってどうかって? 


 変わらないよ、何も。


 だって今日も部活放り出して校内を連れ回されてるからね!


 平静を装ってないといじられるんだよ!!! わかってくれ!!!



 ◇



「……」


 放課後の教室。

 窓際にひとり座すは銀髪の少女、南雲なぐもさんである。

 沈黙していても……いや沈黙している姿こそ精巧な人形のような造形美、圧倒的なビジュアルといえよう(永井談)。国名は忘れたけど、北欧系の血を引いてるとかなんとか。

 


 とにかく他を寄せ付けない外見で、高嶺の花のように扱われている。女子たちもなかなかお近づきになれないらしい(永井談)。

 そして今も、放課後の教室でひとり、本を読んでいる。県外から来ていて、同じ中学の子はいないらしいけど……


「銀髪女子は謎が多いミステリアスって……完全な偏見では?」

「その偏見を検証するべく、こうして赴いてるんじゃぁないか」


 やはりああいえばこう言う。教室の外から2人で南雲さんを観察している姿はどう見ても怪しい。


 『銀髪女子はミステリアス』……そのおぼろげな知識を検証する為、ボクも付き合わされているわけで……といっても遠目で見ているだけだけど。


「そもそも、みんなは南雲くんについて知っているのかね?」

「ん~、南雲さん自身があまり喋らないからあまり」

「そら見ろ、何も知らないんじゃぁないか」


 得意げに鼻を鳴らす先輩。あなたも知らんでしょうに。


「見た目で判断するのは間違いだと分かっているだろう?」

「そりゃまぁ……」


 あなたでよくわかってますとも。


「まぁた君は失礼なことを考えてるねぇ」

「どうやってモノローグ読んでるんですか……!!」

「あ、あのぉ……」


 横開きの戸越し、その先に銀髪の少女はいた。開いた本で顔を半分隠して、上目遣いにこちらと伺う。儚げな雰囲気に、思わず言葉が詰まる。


「わ、わたしになにか……?」

「あ! いや、あの」


 そして例の如く、先輩はそんな空気お構いなしに検証対象へ飛びついた。


「やぁやぁ南雲くぅんっ! 早速で悪いが銀髪少女の謎を教えてくれたまえ~‼︎」

「ふぇ、ふぇぇえー⁉」 



 ◇



「み、み、ミステリアスだなんて、と、とんでもないですぅ……」

「でも、滅多に話さなくてグループワークも静かじゃなかった?」

「あ……あれはあんまり喋ったことないから、何話せばいいか、わ、わからなくて……」

「単純にシャイだねぇ」


 ミステリアスの正体は引っ込み思案だったようで。

 確かにそれならあんまり喋ることはできないだろうし、謎が深まっても不思議はない。


「君は本が好きなのかな?」

「ふぇ? え、えぇ……まぁ……」


 その返しは曖昧。

 南雲さんはボクを一瞥すると本で目線を隠す。と、その隙に先輩は南雲さんの背後に回っていた。


「フゥン……?」

「ぎゃっ!」

「なるほど、南雲くん……ちょっといいかな?」

「ふぁい……?」


 ひとり納得した先輩だけど、状況はよくわからない。


「あぁ、後輩君。今日の検証はここまでで大丈夫だよ」

「ん? 南雲さんをどうするんですか?」


 先輩に彼女を教えた手前、先に帰るのは気が引ける。一応食い下がってみると、先輩は鼻先に人差し指を当ててニヤリと笑う。


「なぁに心配いらないさ……ちょっとしたお節介だよ」



 ◇



 数日後、南雲さんはちょっとずつクラスに打ち解けるようになった。特にクラスメイトの女の子――確か漫画研究会だったか――と仲良くなっていたのである。


「ミリアちゃん、昨日の見た~⁉︎」

「う、うん! すっごい良かったぁ」


 若干まだ慣れない感じが垣間見えるものの、今まで見せていなかった表情を浮かべるように。大変身……ではないが、何かあったのだろうか。

 まぁ、クラスに溶け込み始めたのは良いことだと思う。


 しかし……


「先輩、結局何したんですか?」

「言っただろう、ちょっとしたお節介。同好の士を紹介したまでのことさぁ」


 同好の士……?


 部室でパソコンとにらめっこしながらキーボードを叩く先輩は、視線を変えずに僕に返す。いや、その内容が気になるんですが……


「んぅ~、君が知ったところで理解できる世界かどうか……」

「なんですかそれ、余計に気になるんですけど」

「そうだねぇ……じゃあ」



 ――後輩君は攻撃? それとも防御?



「……は?」

「この問いかけさえわかれば、謎はすぐに分かるよ」

「えぇ……」


 ノーヒントと同じようなものだ。スポーツのことだろうか……いまいちなんのことかよくわからないけど。


「どっちかと言えば、攻撃側……ですかね?」

「フゥン……? その割には、実際は防御な気もするけどねぇ」


 分からない。

 先輩は何を言ってるんだろう。


「じゃあ先輩は攻撃か防御ならどっちなんですか?」

「君……本当にわからないのかい?」


 だから聞いてるんです。

 ようやく画面から視線を移した先輩は、やや呆れた顔でこちらを見やる。珍しく質問に質問で返すのも妙だ。


「無論私は攻撃だよ。防御の君とは相性がいいねぇ」

「……え、ホントに何の話?」

「ハッハッハ! 女性には秘密が多いものだよ後輩くぅん!」


 ハッハッハと笑うだけで、先輩は教えてくれない。

 どうやら南雲さんの謎は自分で考えないといけないらしい。そういう意味では、噂通りなのかも。



 銀髪女子はミステリアス……真実は先輩だけが知っている。けれどこの知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。



 そう、ボクらはカタにハマってる?

 


 ちなみに永井は攻撃らしい。

 ボクはあいつよりディフェンシブに見えるのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る