第13話(後編)イケメン女子、実はポンコツ疑惑


 結論から言うと、負けるのがベリーハードな件。要するに天海さんはクソ雑魚ゲームが苦手なようだ。


 天海さんから提案したポーカーは、現在ボクが4勝中。


「えー……Qのスリーカード」

「……ハートのワンペアだ」


 天海さん、ちょっと涙目。


「あのぉ、もう5連勝なんですけど」

「10回」

「は?」

「10回勝負だッ!」

「まぁいいでしょう」


 暇だし。

 その後のポーカー対決も実に面白みのない展開。天海さんの役は、


 ブタ、ワンペア、ブタ、ツーペア、ブタ。

 違った意味で、役不足。


 ちなみにボクはそれより一個上の役。


「お前……イカサマか?」

「シャッフルから配るところまで全部天海さんがやってるじゃないですか」


 ぷるぷる震える天海さんは、まさにぐぅの音も出ない様子。泣きそう。イケメン女子も形無しである。ちょっと面白いが、虐めるのは趣味じゃない。


「もういいですよ……これだけ来るのが遅いのは変ですし、ボク先輩探してきます」

「ま、待てよ! アタシとの勝負が終わってないだろ!」

「えぇ……」


 10連敗した人間のセリフか?


「3セット勝負だから!」

「ポーカー飽きましたもん」

「じゃあババ抜きっ!」

「2人でやっても泥沼じゃないですかー」

「いいからやるぞ!」


 ちょっと涙溢れてるよ……もうボクの負けでいいから終わってくれ〜。



 ◇



 結論から言えば、トランプで勝負を仕掛けてきたことを小一時間問い詰めたくなるほどババ抜きもクソ雑魚お下手だった。


 だって天海さん、顔に出るんだもの。

 残り2枚の手札、ボクから見て右に手を伸ばすと嬉しそうに、左に伸ばすと悲しそうに。


 迷わず左を取るけどね。


「三連勝〜」

「が、ガラスか⁉︎ 資料棚のガラスの反射なのか!」

「それ天海さんも同じ条件でしょ……」


 なぜ負けた理由をイカサマにしたがるのか……その膨らんだ胸に手を当ててよーーーーーーーく考えてほしい。


「うぅ、うるさいうるさい! こんなはずじゃなかったんだ!」

「……参考までに、どんな流れの予定だったので?」

「そりゃあ……華麗にお前に勝って、サクッとパシらせアタシは優雅にカフェオレを飲むって感じだ」


 あ、明確な勝つプランはナシですか……

 この人ホントに入って来た時と同じ人間か?


「あ! 今なにかバカにしたな⁉」

「なんという言いがかり……!」


 間違ってないけども。


「くっ、まぁいい。今回は大目に見てやる……覚えてろよ後輩」

「今度はもう少し砂糖用意しときますね」

「あ、あれは脳が疲れてただけなんだからなーッ!」


 ボクの方が疲れたんですが。

 天海さんは勢いよく廊下へ飛び出し、風のように去っていった……


「――ようやく行ったかい」

「うわぁっ」


 資料棚の下……横開きの部分が開き、先輩が顔を出した。埃を払いながら登場するその顔は、どこか不機嫌。


「まったくぅ……君が律儀に天海くんの相手をするもんだから出られなかったじゃぁないか」

「仕方ないでしょ、あの人かなりしつこいし」

「寂しがり屋だから、君が私を探しに行けば数分と持たずに出ていっただろうさ」

「友達……なんですか?」

「まァね、昔っから私に勝負を挑んでくるからあしらうのも面倒でねぇ。探される前に身を隠しているのが楽なんだ」


 一度勝負になれば面倒なのは身をもって知った。

 正直、もう来なくていいと思う。


「成績優秀、スポーツ万能、モデルもやってたかな? そのくせどうでもいい勝負事にはめっぽう弱い、けど生来負けず嫌いなコでね。勝たないと気が済まないのさ……聞いたことないかい? 王子様、イケメン女子天海様ってね」

「全然」

「フゥン……他にも表現はあるが……まァ彼女に限って言えば、イケメン女子は実はポンコツというところかな」

「へぇ……」


 今度永井に聞いてみよう。

 

 

 ◇ 



 後日、ボクの目の前には中庭で女子生徒に囲まれる天海さんがいた。王子様然とした気高い雰囲気を纏い、彼女らに振舞う。


「今日も綺麗だなお前達は」


 キャッー! と黄色い声が上がった。……ホントに同一人物?

 となりでパックジュースを飲む永井に問いかける。


「永井、あの人がポンコツって言ったら信じる?」

「それはないだろぉ~イケメン女子の天海嬢だぜぇ?」


 ……どうやら昨日の姿はあまり人に見せないらしい。もしかしなくてもレアだったようだ。


「お、おい、天海嬢がこっち来るぞ」

「え」


 一瞬視線を逸らしていたら、いつの間にか天海さんがこちらへやって来た。10センチもない距離で、ボクを睨む。


「よぉ後輩……昨日は楽しかったぜ」

「はぁ……」


 あんなに涙目だったのに……


「次はもっと楽しませてくれよな」

「ババ抜きの時、顔に出てたからポーカーフェイス練習した方が良いですよ」

「な、なっ……!」


 凛とした顔立ちが、ちょっと赤くなって震えた。しかし後ろからやって来た女子生徒に気がついたのか、片手で顔を覆い堪えている。


「フン、今のうちに得意げになってろ」

「コーヒー牛乳、用意しときます?」

「いらねぇ!」


 キリっとした顔で、天海さんは囲いの生徒の方へ戻っていった。


「お前、天海嬢相手にすげぇな」

「まぁ……いつも一緒にいる人が先輩アレだから」


 天海さんよりも、謎の多い先輩の方が厄介なのは言うまでもない。

 


 イケメン女子、実はポンコツ……それは普段見せない本音の姿、素直になれる相手への裏返し。ちょっと申し訳ないけど、この知識は面白いので確実に脳内に補完する。



 そう、ボクらはカタにハマってる。

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