第11話(前編)額同士で体温を測るのはお約束


 『ボクらはカタにハマってる』略してボクカタ! 11話の気になる内容は〜?




 えー……風邪をひきました。









 自宅、そしてベッドの上にボクはいる。

 やらかした……


 9話目の夕立を浴びてから問題ないと思っていたけど、どうやら体調不良は忘れた頃にやってきたようで。


「んぁ〜38.2°…………」


 手元の体温計は見慣れない数値を叩き出す。

 紛うことなき発熱。そして倦怠感。巷で流行っているウィルスでなかったのは幸い。

 だがしかし、意識はぼやっとしていてあまり良い状態ではない。両親はどうしても仕事を抜けられず今、1人である。朝はまだ37.6°だったから親にも平気と言って見せたが、油断した……


 ……まぁ、午後になれば姉と妹が帰ってくるからそれまで寝ていよう。



 と思っていたのも甘かった。



 ……眠れない。

 いや、1回寝た。でも2時間で起きてしまってもう目が冴えてしまった。寝られない故に倦怠感ははっきりとまとわりつく。


「視界がぐるぐる……」


 寝ているのに世界は時計回りに動いて……ボクの部屋のベッドは回転機能があるらしい。


「あ゛ぁ〜」


 本格的にまずい気がする。けれど体に自由はない。悪酔いするとこんな感じなのかなぁ…………




「──遅れて風邪を引くなんて、だらしないねぇ」




 幻覚か?

 ボクの部屋の扉を開けて、先輩が入ってくるじゃないか。しかも姉が付ける桜色のエプロンを着て。


「ボク、相当やばいかも」

「人を幻覚扱いとは心外だなぁ、せっかく私が来たというのに。ほら、泣いて喜ぶといいよ」


 だって先輩、ボクの家なんて知らないはずでは……?


「前に君の家へ忘れ物を届けに行った時、君のお姉さんと妹さんと仲良くなってねぇ」


 ボクの知らないところで姉と妹の好感度を調整していただと……⁉︎ あの2人、そんなこと何も言わなかったぞ。


「で、今日お姉さんの方が出かけ際に私へ連絡したのさ」

「……先輩学校は?」

「こぉんな楽しそうなイベント放っておくわけにはいかないだろう〜?」


 わぁ、先輩楽しそう。


「まァ雰囲気出すためにエプロンを着てみたものの、君に手料理を披露するのはまた今度としよう」

「あれ、こういう時おかゆでは?」

「君割と喋るねぇ……栄養素とカロリーならゼリー飲料で十分だろう、飲みたまえ〜」


 先輩は持ってきたであろうビニール袋をガサゴソと漁る。

 現われたのは青、赤、緑に紫、桃色、黄色……色とりどりのパッケージのゼリー飲料。それらがボクの前に並べられた。

 なんだろう……間違っていないだけに反論しにくい。


「ありがたくいただきますよ」

哺乳瓶ミルクのように支えてあげようかい?」

「謹んでお断りします」


 赤色のを手に取り、一気に飲む。どうやらリンゴ味、わずかな酸味が乾いた口に心地よい。結局持ってきてもらった全てを飲み干し、多少は胃が膨れたようだ。


「補給は終わったろう? さっさと寝たまえ」

 

 てっきりいじられるかと思ったら意外とまともな対応である。先輩は上体だけ起こしていたボクを、枕へ倒した。


「フッフッフ……熱にうなされているのを見るのがいいんじゃぁないか」


 趣味悪っ。

 邪悪な笑みをこぼして、先輩はボクの部屋の本棚から漫画を数冊取り出す。滑らかなその動きは、明らかに位置を覚えているとしか思えない。


「まだ途中の漫画でも読みながら、君が熱にうなされるのを待つよ」


 途中……?

 まさか、とは思ったけど、補給を認識した脳が眠気を誘う。瞼は重く、さっきよりもよく寝られそう。


「はい、はぃ……」

「せいぜい長く眠りたまえ、後輩くん」



 静寂の室内、先輩のページを巡る音をBGMがわりに、ボクは再び目を閉じた。

 

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