第10話(後編)火(炎)属性は赤い髪ッ!!

 

 前回までのあらすじ。


 火属性の髪色についてぐだぐだ話していた文芸部の先輩と後輩。

 ボクらは闇夜の中戦う火村さんの敵、取り巻きの人型に見つかってしまうのだった……!!











「いやいや、なんで君ここ来てるの?」


「ギ?」

「ギ? じゃなくて……あーもう、新人さん?」


 取り巻き君A(仮)は「オレ、なんかやっちゃいました?」と言わんばかりにポカンとしている。


「だめだよぉ、無関係なエリアまで来ちゃぁ」

「ギギ? ギぃ?」


 あ、ダメだ。先輩のセリフも通じてないや。これはもうボクらでどうにかなるシナリオじゃない。


「ちょっと、スタッフー!」


 取り巻きくんを置いといて、暗闇の廊下へ呼びかけると他の取り巻きさんがやってきた。


「あ、新人! ここにいたのか」

「あれっ⁈ 今日校舎は無人の予定じゃ」

「すみません、うちの先輩がみなさんのアクションに魅入っちゃって……」


 失礼のないよう返すと、取り巻きさん達は満更でもない様子。


「でしょーっ⁉︎ やっぱりアクションはモブがいてこそなんだよねー!」

「君わかってるわぁ」


 なーんて雑談してたら、


「すみませーんっ!!」

「あれは……」

「火村さんだ」


 超猛ダッシュで火村さん。ものすごい形相で暗闇の廊下を突っ走って来るではないか。赤い髪が闇夜でめちゃくちゃ光ってる。


「バトルものじゃない人物襲ったらだめでしょー!」


 助走の勢いを載せて、刀っぽいハリセンで取り巻き君Aを思いっきり叩く。心地よいほどの「スパァン!」という快音が室内に響いた。



 ◇ 


 

 合流した敵のおっさんが状況を把握し、見た目の悪役はどこへやら平身低頭。


「いやぁ、すまない! 今日はてっきり我々『緋色の戦記スカーレット・クロニクル』の予定だけかと……」

「あ、いや、それで合ってます! ボクらがよりずっといてしまったので……」


 ボクとおっさんが平謝りをするなか、先輩は眠そうに大あくび。


「せんぱ~い……だから言ったじゃないですか、早く帰らないとって」

「私は私の知的好奇心を満たしたいのだよ後輩くぅん」


 ああ言えばこう言う。

 先輩は眼前にやって来た赤髪の少女をまじまじと観察する。


「特殊な力で染め上げられた毛髪は人工的な色味を感じさせずむしろ地毛以上に艶をもっている、か……」

「は、はぁ……」


 先輩に絡まれる火村さんも困り顔である。

 察したのか、停滞してしまった現場に、おっさんが一言。


「先輩さんは一体何が気になっているのかな?」

「あー……火や炎を使う人物キャラクターはどうして赤い髪なのかってことです」

「え……それは……」


 そう、ボクらは知っている。

 火村さんもおっさんも、取り巻きさん達も。


 火属性は赤、だと。


 当たり前だと思っている事象を、先輩は知りたがる。


「問題はなぜ赤なのか? ということなんだよねぇ」

「ん~うまく言えないですけど……」


 眉間に崖のような皴を寄せる先輩を見てなのか、火村さんが唸る。


「どうぞぉ」

「赤ってなんだか強い感じ、しません⁉」


 ギュッと拳を強く握る火村さんに、今度は先輩が唸ってしまう。

 ここぞの感情論、赤髪少女本人のキラキラした目に若干押され気味。


「むぅ……わからなくはないけどねぇ」

「それにやっぱり、主人公なら赤だと思います!!」


 答えは堂々巡り……気付けば時刻は8時30分。明日の英語の授業で絶対当たるから、さっさと帰って予習しとかないとヤバい。


「せ、先輩……はもう終わってますし、早く帰りましょうよ」

「んぇ? ……おやおや、もうこんな時間かい」


 やっぱり気付いてなかったのか……

 気が抜けてしまったのか、先輩瞼が重力に引っ張られる。


「仕方ない……今回はそういうものだと解釈しておこう」

「じゃあ、ボクらはあがりますんで。後は続きをどうぞ!」


 お疲れ様でーす、と火村さん達に挨拶をしてその場を後にする。廊下には暗闇ながらも取り巻きさん達が何やらいろいろ戦闘の準備をしながら待機していた。


「ども、おつかれさまでーす」


 ボクと先輩は消え、学び舎からは刃の衝撃音。ここからが火村さん達の時間であるように、音は告げた。



 ◇



「考えてみれば、火・炎属性にも『聖なる炎』だの『闇の炎』だの種類がいっぱいあったねぇ」

「まだ火属性キャラ問題ですか」


 下手をすると全属性について考え始めてしまう。何話掛かるか分かったものじゃないぞ。さすがに勘弁。


「他にも日常系に登場する熱血キャラでも赤髪はいるねぇ」

「考えたらキリがないですよ、先輩」

「でもまぁ、イメージは大事だということは分かったよ。火村くんの明るい印象、まさに赤髪だと思うよぉ」


 どの辺が『まさに』なのかは分からないが……追及はやめておこう。これ以上話が長引くと、次話どころか『属性編』の構想を立てられてしまう。


「ソウデスネー」


 あー……家に帰って夕飯食べて風呂入って課題やって……あ、先輩が邪魔しに電話掛けてくるかも。でも返事しないとしないで明日面倒だからなぁ……


「そうだ、後輩くぅん」

「ナンデスカー?」


 星空の下、先輩は振り返る。

 くすんだ両の瞳が、ボクを射抜く。


「君から見た私のイメージは、何属性かな?」



 夜に紛れて先輩のふわっとした髪が、月夜で煌めく。その姿は先輩の不敵な笑みと相まって、どこか妖しくて……



「闇一択ですッ!!」

「悪意が満載だねぇ!!」



 火(炎)属性は赤い髪……本人の性格とか、属性のイメージもあるけど、それは既に世界の常識固定観念。この知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。



 そう、ボクらはカタにハマってる。

 



 ……が、先輩はその真実を探る。

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