第10話(前編)火(炎)属性は赤い髪ッ!!


「くらえっ、紅蓮天破斬ぐれんてんはざんッ!」

「ハーッハッハー、効かん効かん!」


 夜の学舎まなびや


 先輩が居残りするものだから一緒にいたら、時刻は午後8時。

 そして気づけば校庭から叫び声。


 遠目から見てもわかるほど燃えるように赤い髪をなびかせ、ひとりの少女が黒いおっさんと、その取り巻きの黒いのっぺらぼうの人型相手に刀を振り回す。ボクのクラスメイトである、火村ひむらさんだった。


「技名ってホントに叫ぶんですね~」

「まァ気合いを入れて発動しないとだからねぇ」


 繰り広げられる戦いに興味はないようだ。


「……ところで、どうして炎使いは赤い髪なんだろうねぇ?」

「なんですか、またいきなり」


 始まった。

 こうなると雑談は終わらないぞぅ。


「だって炎の強力な状態は完全燃焼だろう? それって青い炎じゃぁないかい?」

「そんな身も蓋もない……」


 それじゃあ赤い炎は青い炎より弱いってことになる。これはそんな簡単な話ではないと思う。


「先入観というか、イメージというか……ガスコンロのは確かに青いですけど、連想される炎ってやっぱりライターとかキャンプで見るオレンジっぽいものじゃないですか?」


 それに、青い髪で火属性の人もいると思うよ。多分。


「だろうねぇ、それに水属性との差別化が出来なくなるから商業的には――」


 窓の外の戦いを見物しながら、先輩はぶつぶつと語り出す。その間にも、校庭の激闘は苛烈さを増す。


猛虎炎舞撃もうこえんぶげきッ!!」

「なんのなんの、その程度の熱では届かないぞ!」


 緋色の虎がおっさんを呑み込まんとするが、おっさんは素手で迎え撃ち、砕く。


 あれ? ……数十メートル離れているのになんで聞こえるんだろう?

 バトルものに限らず、空想の不思議である。


「しかし火村くんは君のクラスメイトだろう? 今まで火属性と気付かなかったのかい?」

「いや、赤い髪だけで判断しろと言われても……」


 遠目で見た時は『赤毛』だった気がするんだけどなぁ。今は夜で明かりもまともにないのに、校庭で舞う彼女の髪は紅く燃ゆる。


「それこそ日常のキャラクターである平凡後輩君なら不審に思ってほしいなァ……『あれ、彼女の髪赤くない?』とねぇ」


 誰が平凡後輩君ですか、間違ってないけど。


「そういうのは彼女に関わる人物が起こす出来事イベントであって、ボクのような先輩のパシリ後輩がやることでは……」

「ずいぶん変わったルビを振るねぇ」


 これこそ正答だろう。


「で、火属性の人が赤い髪ってことには納得したんですか?」

「うぅん……まァ分からなくもないけどねぇ」


 今回の先輩はまだまだ長そうだ。

 そもそも学校側にも黙って残り続けてるから下手したら指導室行きだからそろそろ帰りたいんだけど……


 先輩は何故か物事の真実を、自分自身で知りたがる。

 ボクらはそれをおぼろげながらも知っているというのに。


「おや? 戦いが校舎の中に入ってしまったよ」

「うぇ……?」


 窓を見やる。

 そこに赤髪の少女も、なんか黒いおっさんも取り巻きもいない。


 これは……もしかしてもしかしなくてもまずいのでは?


 ――ガタンッ!!

 ガッ、と文芸部の扉に黒い手がかかる。


「ギ……ギギ……ギッ!」


 そこに現れたのは、おっさんと一緒にいた人型の取り巻きだった。


「ギギ……ニ、ニンゲンダァ……!!」


 どうやらボクと先輩、戦いに巻き込まれたようです。

 

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