第9話(後編)不良キャラは猫と犬によく出会う?
「ったく、境内は飲食禁止だからなー」
小動物の大群からもふもふ怪人となっていた鬼塚君を助け出すと、開口一番ものすごくまともな注意を受けた。これは申し訳ない。
「それはうちの先輩がご迷惑おかけしました」
「失敬失敬、今片づけるよ」
ものの数秒で唐揚げとクレープを胃に収めた先輩。その足元には猫と犬がいっぱい。
「それにしても……」
「すごい数だねぇ」
「まぁな、全員拾い上げてたらこれだよ」
呆れたように言っているが、猫への表情はとても優しい。そうしている間にも子猫が鬼塚くんの身体を上る。
「ここで飼ってるの⁈」
「あぁ、ここ実家だし。神社の敷地は広いから困らねーぜ」
なるほど……それでここまで連れてきたのか。
「ま、いちいち予防接種とかしなきゃなんねーから大変だけどな」
ぼやいているものの、犬を撫でる手つきは慣れたものだった。どうもプリン頭のダボっとした姿とはイメージがつながらない。
「私はてっきり、君のことを不良だと思ったんだがねぇ」
「あぁん? オレが不良って……んなわけねーってガハハ!」
「色々噂されてない? 老若男女問わずトラブル起こすって」
「あー……ガキは、神社入ってきてチビ助たちいじめるから注意してんだよ。そしたら親が出てきやがるしよー、警察まで呼ぶんだぜ?」
「あぁ、そういうこと……」
昨今は子供に注意するのも大変である。
「旅行客なのか知らねーけど女とかジジババは与えちゃなんねー食べ物食わせようとするからキレるんだよ。こいつら、下手なもん食ったら死んじまうからな」
先輩の腕のなかで、一匹の白猫が気持ちよさそうに撫でられている。
「百聞は一見にしかず、と言うが本当だねぇ」
「うん、鬼塚君のことワルだと思ってたよ。金髪とかの見た目で」
「あぁ、これ? これ寝てる時にねーちゃんにやられたんだ。自分でやる前に弟試すかね普通」
「え……じゃあいつも上着羽織ってないのは……?」
「今みたいにチビ達とじゃれついてると引っ掻かれて破れちまうからな。爪切りも大変なんだぜ?」
鬼塚君はしっかり爪を切りそろえた猫の肉球をこちらに見せた。
うん、不良は間違いだ。
「すごい誤解してたみたいだ、ごめんね」
「気にしてねぇよ。好きでやってんだからな」
「例外すぎて参考にならないねぇ」
声色はがっかりしているようだけど、先輩の姿は既に子猫に覆われていて見えなかった。
「例外ぃ?」
「あーいや、こっちの話……」
どうやら今回、先輩の提唱した内容とは異なるようだ。そもそも鬼塚君、不良じゃないし、動物に優しい少年である。
もふもふと触れあいたいなら鬼塚君の神社へどうぞ。
◇ ◇ ◇
鬼塚君と猫や犬とお別れして夕暮れを歩く。
「鬼塚君、動物に優しい人でしたね」
「第一印象だけで決めつけたのが勘違いのもとだったねぇ」
結局先輩の提言とは無関係だ。まぁこんなこともあるだろう。今度また遊びに行こう。
「おや?」
鼻先に冷たい感覚。見上げた空に雲は少ないが、通り雨らしい。できるだけ濡れたくないので鞄から折りたたみ傘を取り出し、先輩へ差し出す。
「相合傘だねぇ」
「呑気なこと言ってないで入ってくださいよ」
この人放っておくと濡れても気にしないからね。
雨足は弱くなるどころか少しずつ勢いを増していく。夕日は隠れ、空は暗い。
「フィールドワークも出来なさそうだし、このまま帰りましょうか」
「そうだねぇ……ん?」
道すがらの公園、雨で
「……」
ひとりの少女。
ブラウンの乱れた長髪と、鋭い目つき。時代を感じるロングスカートの所々破れたセーラー服。そして手には血のついた木刀。
その彼女は、公園に残された黒い子猫を眺めている。
「お前もひとりか?」
「にゃあ」
「はっ、わたしと一緒だな……一緒に来るか?」
小さな返事に少女は微笑む。
差し出した手に縋る子猫を、優しく抱え上げた。
「雨の中、捨てられた子猫を拾うシチュエーション……そしていかにも暴力に明け暮れる少女。なんとも映えるねぇ」
なんて言ってると雨足が強くなる。
「先輩、折りたたみ傘じゃ洒落にならないですよ」
「んもぅ、せっかくいいところなのに。仕方ない、撤退だよ」
鬼塚君と同じく、『百聞は一見にしかず』である。
その後、「もふもふな神社」として有名になった鬼塚君の実家の神社にはいろんなご利益があるとして多くの参拝客が来たそうな。
参拝客を対応する茶猫を頭に乗せた彼の隣に、今日見たセーラー服の少女がいたのだが……それはまた、別の話──
ザァッ──────!!
「どしゃ降りの中で締めのモノローグをしているんじゃぁないよぉ〜!」
「え、ちょま、先輩! 傘がやばいっす!」
「ええい、面倒だぁ! 走るよ後輩くぅん!」
「せんぱーーーい!!」
子猫が救われるのを見届けて、ボクらは雨の中を駆け抜ける。
不良キャラは猫と犬によく出会う……確かにエンカウント率高めの人物はいるが、事実は認識と異なっている場合がある。
けれどこの知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。
そう、ボクらはカタにハマってる。
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