第9話(前編)不良キャラは猫と犬によく出会う
夕方の帰り道。
部室でだらだら……ではなくフィールドワークと銘打って外をぶらついていた。
「先輩、買い食いしてると太りますよ」
「栄養補給と言って欲しいねぇ」
右手にはコンビニの唐揚げ。左手には移動販売のクレープ。もうすぐ夕飯だというのに先輩は美味しそうに頬張る。
「勉学で疲労した身体にはカロリーが必要なのだよ後輩くん」
「ほとんど寝てるくせにぃ」
嵐山さんが困ったように相談していたのはつい最近のこと……まぁ、それでも成績上位なのだから何も言われないらしいけど。
「睡眠学習さぁ」
「物は言いようです、ね……?」
通りがかった神社。
そこに、彼はいた。
「おや、あれは……」
雑に伸びた金髪と眉間にしわを寄せた
有名な男子生徒、
「後輩君、隠れよう」
「え、なんっでッ!」
電信柱に身を重ね、鬼塚君の様子を伺う。
「もう、なんなんですか?」
「不良と言えば道端の捨て猫捨て犬だろう? 見たまえ」
細い指の差す方角は他ならぬ鬼塚君……の足元。しゃがんだ彼が手を伸ばし取ったのは、一匹の茶色い子猫だった。
「おー、どうしたどうしたぁ? 置かれちまったのか」
子供をあやすような口調で、鬼塚君は猫へ語りかける。
「これこそギャップ萌えってやつじゃないですか?」
「にしても不良学生が責任持って飼えるものかねぇ?」
確かにそれは心配である。
札付きと噂される彼に、猫が何かされるかもしれない。
「雨の中、濡れる小動物を拾う少年……シチュエーションこそ有名だけど、その後を語る人間は少ないよ」
「そりゃあ、まぁ……」
イメージで語ってるだけだしね。
孤独なキャラクターがシンパシーを感じるって特別なシーンな気もするけど。
「彼があの猫をどうするか見極めようじゃぁないか」
先輩のくすんだ瞳が輝く。絶対楽しんでるよこの人。
「じゃあ、いくか……名前は……サブローだ!」
鬼塚君のネーミングセンスは置いといて、階段を上がる彼の後をひっそりと追う。
「ったく、誰だよこんなチビ助捨ててく奴はよぉ」
ぶっきらぼうにぼやきながらも、階段を上がった先、参道で猫をゆっくりと地面に下ろした。
「さぁ〜て、これからどうすっ──誰だッ⁉︎」
勢いよく振り返った鬼塚君と目が合う。すると彼は血相を変えて口を開ける。
「おいお前らッ!」
やばい、なんだかめちゃくちゃキレてる……! 逃げよう。
「ストップ」
「え?」
先輩に制止され、その場から動けない。迫る鬼塚君、終わった。
──にゃあにゃあにゃあにゃあわんにゃあわんわんにゃあにゃあわんわんにゃあ
周囲からこれでもかと、色とりどりの猫と犬が出現。ボクらを取り囲む。
「な、なんでこんなに猫と犬が……!」
「んぅ〜もふもふだねぇ!」
「──お前ら早く離れろぉっ!!」
視線を戻した先、猫と犬に覆い尽くされた鬼塚君が、頭に茶猫を乗せて叫んでいた……
「うわぁぁぁあああああああ」
もふもふ怪人のできあがり。
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