第8話(前編)学校のロッカーは男女の入る謎空間
暗い中で男女が密着するのはハプニングイベントとして非常に有名だろう。経験はあるかな?
「先輩……もう少し離れてくれます?」
「この面積で離れろと言う方に無理があるねぇ」
狭い空間、薄い金属の中で先輩の艶な声が響く。
「おやぁ、密着してドキドキしてるかな?」
「イライラしてるんですよ!」
そう、ここはロッカーの中。
掃除用具と共に、先輩とピッタリくっついているのである。
ボクは今、まさに経験中です。
◇
話は少し前に遡る。
放課後の部室で例の如くだらだらしていると、執筆の止まった先輩が口を開く。
「主人公とヒロインがロッカーに隠れるシチュエーションがあるだろう?」
「ありますね、ラブコメとかで」
また唐突な……
「たまにとんでもなく身動きできるロッカーが描写されるけど、どうなんだろうねぇ?」
……これは、あれか?
先輩はRのつく方の話をしてるのか? ボクもラブコメとか言ったけど、どちらかというとロッカーネタと言えば……いやいや、いくら先輩でも後輩にそんな話題振るわけ……
「あんな中じゃぁ、まともに動けない気がするんだけどねぇ」
どっちだ⁉︎
外したらどっちにしてもイジられるのは必定!
「どうなんですかねー」
「検証しようじゃぁないか!」
「は⁉」
指の長い手で腕をがっちり掴まれて空き教室へ連行される。既に誰もいない部屋の隅、窓際の角に金属のノッポは佇んでいた。
何の変哲もない、グレーの静かな
「ではこの箱の中の謎を明かそう、後輩くん」
「いやいや入りませんって……ぅお!」
ガチャりと開けられた中も、もちろん特別なものは入ってない。ちょっと埃っぽい。先輩は躊躇なくその薄暗い箱の中へ突入した、ボクを道連れにして。
――ガチャン。と、扉は雑に閉められる。
明かりの無い空間、夕日だけわずかに差し込むロッカーの中で、ほぼ至近距離、わずかに視線を落とした先に先輩と顔を突き合わせている状態。
「う~んぬぅ……動けないねぇ」
「当たり前ですよ、中身が空でもないですし」
先輩がもぞもぞと動くたび、ボクの身体に擦れる。制服越しでも『何か』柔らかいモノが当たっている気もするが……無心になろう。
「やっぱり想像上の空間だったようだねぇ……」
ちょっとがっかりしたように、先輩の声のトーンが下がる。が、いい加減ここを出ないと男として色々まずいので気にしていられない。
「二次元と現実を一緒にしたらダメですよ。ほら、さっさと出ましょう」
横向きの身体のまま、扉を押す。
しかし、ソレは開かなかった。
「どうしたんだい後輩くぅん?」
「……先輩、開かないです」
どうやらボク、先輩とロッカーから出られなくなりました。
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