第7話 先輩との出会いは神秘的だったりする


 春。


 始まりと出会いの季節。

 なんてありきたりな冒頭だろうか。


「ハーレムを作りたいっ! モテそうな部活見てくるぜ!!」


 隣の永井は毎年そう言う。多分前の入学式でも同じことを言ってた気がする。


「高校、なにしようかなぁ……」


 部活に励むもよし、本分である勉学に励むもよし、恋愛……でれきれば青春するもよし、選択肢は無限大。新入生歓迎会の学内は大いに賑わっている。


「きみ、バスケいっしょにやらない!?」

「一緒に音楽、楽しみませんかー?」

「お願い! ウチの部にはいって~!」



 でも、どの部活も違う気がする。……とか何とか言ってたら教室棟の端に来てしまった。外の喧噪とは隔離されたように、静かな廊下。



「……奥まで来ちゃった」


 戻ろう。

 ——その直後、両肩をぐいっと掴まれる。


「やぁやぁ新入生ぃ~!」

「うおぉあ!」


 それは、妙に艶めかしい声。


「アッハハハハ、驚きすぎじゃぁないかな?」


 天然だろうか、ふわっとしたパーマのかかった髪が揺れる。着崩したブレザーにベージュのカーディガンを羽織ったその人は、くすんだ瞳で微笑む。


 さっきまで誰もいなかったはずの場所に、彼女はいた。

 それが、ボクと先輩の出会いだった…………



 ◇ ◇ ◇


 

 1枚のA4用紙に書かれた謎のショートストーリー。


「……なんですかこれ」

「君と私の出会いを君の視点で書いてみたんだよ、どうだい?」


 不敵に笑みをこぼす先輩は、出会った時と変わらない。

 ……そんなわけはなく。


「どうだいって……ほぼ捏造ですよね」


 まるで不思議な出会いをしているように執筆してあるが、こんなミステリアスな遭遇ではないことをここに宣言する。


 正確には永井と別れてふらついていたら、突如背後から現れた先輩に、


『おい君ぃ~、暇だろう? 暇だよねぇ、暇じゃない訳がない! 来たまえ、私の文芸部(仮)に!』


 と一方的に断定されまずいコーヒーと無駄に甘い茶菓子でもてなされた挙句、無理矢理入部届を書かされたのである。自由に部を創設できる代わりに、最低2人以上は部員が必要なのが我が校のルールとか……

 美人についていってラッキーなどこの世にはない……高校入学後に学習した処世術だ。


「おや、そうだったかな?」

「たった1か月ちょっと前の出来事を平然と改ざんしないでくださいよ……」


 あれ、今何月だっけ……衣替えはまだだったような……


「心外だねぇ……私は高校生活開始直後に迷える子羊を救った女神だよぉ?」

「自己評価が青天井すぎる……」


 と言っても、文芸部ここの居心地は良い。ほぼ毎日『取材』という名目でどこかしらに連れ回されるが、それはそれで悪くはない気もしなくもないけど……


 これも青春だろうか。


「ふわぁ~ぁ、捻りのない展開を書いたら眠くなってしまったよ……寝る。しばらくしたら起こしてくれたまえ」

「えぇ……」


 うーん……多分違う気がする。


 ……そういえば先輩と会った時、周りに誰もいなかったんだよね。

 結局先輩はどこから現れてなぜボクを誘ったのか、未だに謎である。それが解明される日は……来てくれるのかなぁ。



 先輩との出会いは神秘的だったりする……この知識は、実体験と共になぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。



 そう、ボクらはカタにハマってる。

 

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