第6話(後編)地味眼鏡っ子は眼鏡を外すと美少女になりがち
「こ、これは…………!」
それは圧倒的オーラを放つ美少女。
ド近視のために抑えられていた小さい目元は元の拡大率に戻りぱっちり二重で綺麗な瞳に。おさげが解き放たれストレートヘアと額を出しただけで野暮ったさが消え失せた。
そしてふざけた表現をしていたことを罰するように、丸野さんから放たれた光はボクを照らし尽くす。
「うわぁぁぁぁぁ────!」
サングラスが閃光に耐えられず、無残にも砕け散る。
「後輩くぅ〜〜〜んっ⁉︎」
◇
「てください……」
「起きてくださぁい!」
「はっ!」
目を開けると、そこは図書館の天井。
視界の端にはメガネの丸野さん。
一体何が……
確か丸野さんの素顔が光り輝いてサングラスが壊れて……
ん? サングラスが壊れて?
「んなわけ……」
右手に粉々のグラサン。もはや砂。
「大丈夫? 気絶してたんだけど……?」
「そ、そりゃ大変ご迷惑を」
「修行が足りないねぇ」
先輩のグラサンは無傷。こちらを見てニヤニヤと笑っている。
なんの修行だい。
「気絶したのは丸野さんが光ったからだよ」
「やっぱり?」
……やっぱり?
「丸野くん、君は眼鏡を外すと光るのかい?」
「は……はい」
えぇ…………
「昔からそうなんです……眼鏡を外すと見たひとがびっくりして気を失うことが多くて……」
「秘められた潜在能力が解放されてしまうんだねぇ」
んなバカな……と、言いたいところだけどさっきの事をウソだと一蹴するには無理がある。
「先輩、これが眼鏡っ子の真実ですか?」
「いやぁ、どうだろうねぇ」
先輩は度の入っていない眼鏡をクイっと上げた。
「これは私も誤算だよ。眼鏡を外したらギャップに萌える、というのは理解できるが丸野君は
いや、ギャップとかのレベルじゃないんですが……
「わたし、昔からこうなんです。眼鏡が外れると何が起きてるか分からないんですけど、素顔を見せちゃうとみんなショックなのかなって」
光学的にね!
「なるほどぉ…………この世界では外見の極端な変化が視覚に影響するだけではなく先入観崩壊の瞬間、疑似的に光という形でショックを与えて…………」
……先輩がぶつぶつ何かを唱え始めた。
何が言いたいかよくわからないけど、丸野さんの眼鏡ギャップを紐解こうとしているらしい。
「丸野さん、それって眼鏡を外すたびに起きちゃうの?」
「うぇ!? う、うん……」
困った末に地味目な格好というわけらしい。
なら、ギャップを減らせばいい。
「じゃあ、普段から眼鏡外したらいいんじゃない?」
◇
数日後の図書室。
結論から言えば、丸野さんは眼鏡を掛け続けている。
何が変わったかというと、コンタクトレンズをつけて伊達眼鏡を併せているのだ。
受付には丸野さん目当ての男子女子女子男子……
その様子をボクと先輩は後方から眺めている。
「ヘアスタイルを変えて眼鏡を掛けていることは変わらない……でもレンズ度数を入れていないからパッチリ二重が良く見える、と」
「ボクのような被害者を増やさないための対策ですよ」
不意に眼鏡が外れたら
「どうですか先輩、ボクの案は」
「甘いねぇ」
「は?」
「コンタクトを着けて伊達眼鏡でお茶を濁すのはいいかもしれない。でも、ギャップがすべて取り払われたわけじゃぁないよ?」
何をバカなことを……
と、先輩は静かにサングラスを手渡してきた。その顔には既にグラサンが。
「丸野ちゃん、眼鏡外してみなよ~」
「いやでも、外すと危ないというか…………」
丸野さん、何やら変な輩に絡まれているらしい。図書室では静かにしてほしいものだ。誰なんだ一体……
茶髪で、無駄に元気な声……永井である。
「いいからいいから……」
「あっ――――」
徐々に馴らすべき美少女成分が、伊達眼鏡をはずしたことで一斉放出。
うわぁぁぁぁぁ────!
悲鳴の大合唱。
頑丈なサングラスのおかげで、今度は無事だった。解き放たれた丸野さんのビジュアルに、図書室を訪れていた大半の生徒は気絶している。が、
「イイよ、眼鏡なしもアリ! 俺の目に狂いはなかったー!」
永井だけ無事で、ひとり騒いでいた。
「ちょ、なんで永井は無事なんですか!?」
「彼は最初から先入観などなく、彼女の素質を見抜いていたようだねぇ」
永井、恐るべし。
「ところで後輩君、私の
伊達眼鏡のテンプルを上下に揺らし、先輩は真っ白な歯を見せて悪戯っぽく笑う。そこに一切のギャップなどなく、
……黙っていれば美人。
黙っていれば、だが。
「なぁ後輩くぅ~ん?」
「図書室は、お静かに」
地味眼鏡っ子は眼鏡を外すと美少女になりがち……この知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管されているのだ。
そう、ボクらはカタにハマってる。
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