第5話(後編) 悪友ちゃんは情報通? 


 拳銃。


 レンコンとも呼ばれる回転式弾倉を有する銃器、リボルバー。お巡りさんの装備であり、一般人の持つものではない……が、なぜか文芸部のダンボールに眠っていたのである。


「…………」

「…………」


 無言のまま永井はボクにソレを渡してくる。ずっしりと、そして冷たい質量。


 うん、多分本物。


「永井」

「親友」


「「あとは任せた!」」


 黒い塊をほっぽり出して同時にスタートダッシュ! 見事に二人とも躓く。


「どうしたマイフレンド! 先輩が来るまでコーヒーでも飲もうじゃないか」

「うっせうっせ! あの先輩やべぇとは思ってたけどガチのマジでヤベェって」

「わかってるなら一緒に処されようよ、悪友だろぉ⁉︎」

「中学のマラソン大会で最後スパートした奴は信じられねぇな!」


 なんと言われようとこの状況を1人で抱えるのは嫌だ!


「おやおやぁ、狭い部室、男子2人、何も起きないはずはなく……なのかねぇ?」

「男の友情だわぁ」


 見上げた先、満面の笑みを浮かべた先輩と、隣には見慣れない女生徒。整った顔立ちで日本人形を連想させるぱっつん前髪、柔和な笑みでボクたちを眺めるその人は……


嵐山あらしやまさん!」

「知ってるの?」

「めちゃくちゃ美人ってことは」


 ホント女子には詳しい。


「あらやだ、お世辞が上手いわぁ」

「いや、あは、あははははは」


 引き攣った顔ではあるが、先輩と嵐山さんのスカートをどうにか覗こうと眼球だけが頑張っている。なんという根性。


「でもぉ、女の子の秘密を探ろうとするのはよくないわぁ〜」


 実に静かに、嵐山さんは永井の真上を跨いでいく。何が見えたのか、悪友の表情は固まっていた。


 すると先輩の連れてきた人は、ボクらが恐れた黒いブツをひょいと拾う。優しい微笑みのまま、自然と引き金に指を掛ける。


「はぁ〜よかったぁ。持つべきものは秘密を共有できる親友ね〜」

「親友とは嬉しいねぇ」


 ふふふふふ……と妖しく笑う先輩方にボクらはガタガタ震えるだけ。

 そんな僕らへ、嵐山さんは銃口を向けた。


「じゃあ~秘密を知った男の子達は、消えてもらわないとぉ──」


 え、ウソ!

 知りすぎたってこと!?


「「ぎゃーっ!」」


 バンッ、と1発の破裂音。

 唐突な終わり……かと思いきや、銃口には色とりどりの花が開いていた。


「ドッキリでしたぁ~」

「……へ?」

「アッハハハ! 最高の取れ高だねぇっ〜!」



 ◇



「情報屋の勉強?」

「そうなのぉ。今度のお芝居でね〜」


 なんと嵐山さん、先輩の友人というだけではなく女優らしい。宣材写真はキリッとした鋭い目つきでわからないが、確かにテレビドラマで見たことある顔だった。


 芸名は、『風間嵐子かざまらんこ』。


 目の前にいるほんわか女子とは別人に見える。

 

「それで、なんで悪友?」

「悪友といえば情報通だろう?」

「そういうもんですか?」


 「その通り」と、さも当たり前の如く、先輩は返す。確かに永井は学内の(女の子の)情報に詳しいけども……


「役者の先輩に聞くだけじゃなくて、細かいことでもいいから自分でも色々調べた方がいいってアドバイスもらってね〜」

「こ、光栄っす!」


 銃撃に怯えていたのは嘘のように、永井の目がキラキラしている。う〜ん、このメンタル見習いたい。


「じゃあ〜色々聞きたいこともあるしどこかでお茶しながらお話しましょう〜」

「よよよ喜んでッ!!」


 風のように去っていく2人をその場から見送った……


「嵐子が満足そうで何よりだねぇ」


 芸名呼びなんだ……


「でも、永井で役に立つかなぁ」

「まぁ大丈夫だろう。永井くんなら情報通の参考にはなるだろうさ。嵐子は君の交友関係から、彼がここにいることは予想していたからねぇ」


 ……ん?

 何か、引っかかる。


「先輩……変な言い方しますね、まるでボクの悪友が永井だって知ってたみたいな」

「知っていたのは私ではなく嵐子だよ」

「……は?」


 不敵な笑みを浮かべ、先輩はソファへ背を預ける。


「嵐子は今日ここに来るより前に、君のことを調べ上げて、学内で女生徒情報通の永井くんと繋がる準備をしたんだよ。友人である私から君へ繋がり、永井くんを呼び出す計画。

 君が私から理不尽な依頼を受けて呼ぶのは交友関係で一番親しい永井くんであり、そして女子へ好奇心旺盛な永井くんは開けるなと言えばダンボールの中を開けるだろう、とね」


 永井に会うまでの芝居にそこまで手の込んだことをするのか。


 もう一度言おう、個人情報とは?

 

「ちょっと待って下さい。今の言い方だと嵐山さんはボクのこと調べ上げたんですか⁉︎ どこまで⁈」

「もちろん全部さ〜。私は頼まれて呼んだだけで、君に悪友がいることも知らなかったよぉ。ここまでうまくいくとは、友人とはいえ恐ろしいねぇ。本当に役作りに熱心だぁアッハハハハ」


 どこまで、かは教えてくれない。先輩も知らないのかも。


 嫌な汗が背筋を伝う。

 この際方法はどうでもいいが、真にヤバいのは先輩ではなく……


 ……いや、やめよう。

 深く考えると碌な目に遭わない。


「はぁ……変な先輩ばっかり」

「楽しい毎日だろう?」


 はい! とっても充実してます!


「……さて、昨日の続きを書こうかな」


 ここは心を読まないのか……なんだろう、よくわからない。


 2人の出て行った方を見やる。今頃一緒にどこかカフェへ向かっているのだろうか。


「……あれ?」


 部室の出入り口、その壁。

 見覚えのない黒い点がある。それは点というより、何かが食い込んだ小さい円。


「先輩、さっきの銃って……」

「君は情報通じゃぁないんだから、知らなくてもいいと思うがねぇ?」



 真実を答えるでもなく、先輩は振り返る。

 

 はい、今日一番のスマイルをいただきました。




 悪友とは情報通だ……色んなことを知っているが、その方法を知ろうとしてはいけない。この知識は、なぜかぼんやりと、しかし確実に脳内に保管された。

 

 

 そう、ボクらはカタにハマってる。

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