第5話(前編) 悪友くんは情報通?


 文芸部の部室でいつものように適当に過ごしていると、静寂の破壊者は現れた。


「よぉっ! 遊びに来たぜー!」

「うわ、ホントに来た」


 悪友の永井である。茶色の短髪は高校デビューの証。髪色には緩い学校で敢えて暗めの茶色は彼のギリギリの冒険心らしい。


「お前が来いって言ったんだろー」

「ボクっていうか、先輩というか」


 『君の友達……そうそう、悪友と思える人物を連れて来てくれ』


 と、先輩から一方的な電話を受け永井を呼んだのだ。彼とは昔から属性は全然違うけどなぜか仲が良い……高校まで同じになるのは腐れ縁ともいえる。


「お前先輩と二人っきりの部活なんだろ? なんか進展ねぇの?」

「進……展……?」


 まさか先輩とくっつけようというのか。悪友なんてとんでもない、悪魔である。


「マジか⁈ 文芸部の先輩っつったら美人で有名だろ! あんなヒトとずっと一緒にいるのにもったいねーなー。結構狙ってるヤツ多いんだぞ」

「じゃあ、永井がアタックしてみたら?」

「……やめとくわ」


 なんだよ。

 どうやら共通認識として先輩は危険人物らしい。


「永井の方こそどうなの? 彼女作るぜーって言ってたけど」

「いや〜みんなガードが固くてさぁ。ねらい目はテニス部の加藤とか、バスケ部の宮川とか、水泳部の橋本とかかな~」


 実に楽しそうである。

 割と分け隔てなく人と関わる永井の交友は広い。ことに、女子に関する情報はよく知っている。


 だから多くの女子と知り合っているが、なかなか親密にはなれないのはあくまで浅く広くだからなのだろうか……むしろカップルを成立させるお膳立ての方が上手いとは、とあるカップル談。


 大抵は『良いお友達』止まり。


「俺もサクッと2、3人彼女ほしいなぁ」


 そういうトコだぞ。とは言うまい。

 怖いのは、彼、永井は本気で言っているのである。『ハーレムが作りたい』と言っていたのは入学式だったっけか。


「今年の夏には童貞卒業だ!」


 そういうトコである。

 確か中学の時から同じこと言ってる気がする。がんばれ永井。


「で、先輩はいつ来るんだ?」

「さぁ……?」


 なんて話してるとポケットの携帯が震えた。


『後輩くぅん、悪友は連れてきたかい?』

「呼びましたけど、今度はなんなんです? というか早くきてくださいよ」

『悪いね、ちょっとこちらも悪友に捕まって遅れてしまう』

「えぇ……」

『まァくつろいでくれたまえ……あ、くれぐれも隅っこにある段ボールは開けないでくれよ」


 意味深な言葉を残して一方的に切られてしまった。


「なんて?」

「ちょっと遅れるってさ。あと、そこの段ボールは触るなって」

「それは押すなよってやつと同じだな!」


 永井はノリが良い……が、時に悪ノリが過ぎることもある。押すなよと言われれば、確実に押すのだが……勢いが良すぎることもある。

 段ボールを開けると新聞紙に包まれた物体がちらほら。先輩、こんなものどこに置いたんだろう……?


「へ~何かなこれ」

「あんまり女性の私物を漁るのは……」


 クシャっと新聞紙を剥ぐと、そこにあるのは――





 真っ黒な拳銃だった。


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