水の国の呪われ姫(平民)のわたし、迫害され追い出されたけど、隣国の魔法帝に溺愛されてます〜水が汚染されたとか言われても興味ないです〜

ネリムZ

第1話 産まれた事が罪だと言うなら、どうして産んだ

 「良し、こんなモノでしょ」


 わたしは近くの森で薬草採取をしていた。


 今は品種改良などが進むんでおり、ポーションの素材も買った方が品質などが良いため、森で採取した薬草は高値では売れない。


 だけど、わたしにできる事はこれくらいだ。


 元々は何かを集める趣味だったんだけど、お金が少しでも入ると思ったら、気づいた時には薬草採取マニアになってました。


 「あの、売りたいんですけど」


 買取屋に持って行き、僅かなお金を手にして家に帰る。


 家はスラム街の方に存在する。


 ここでは上手く金も稼げない貧困な人達が集まったりする。その一人がわたしだ。


 そんなスラム街でも、水だけは綺麗だ。


 この水の王国、アクアマリンの水はどこでどんな風に見てもとても透き通っており、美しい。


 家のドアに手を伸ばすと、中から開けられた。


 「そんじゃ、また来週な〜っと、なんだガキか⋯⋯邪魔だどけよ」


 「あ、ごめんなさい」


 また知らない男の人だな。


 「うっ」


 凄い臭い。


 「お、お母さん。ただいま。お金、稼いできたよ」


 「生きて帰って来たか⋯⋯稼いできた? たったの銅貨三枚で?」


 裸のまま、わたしに近寄ってくる。


 鼻に突き刺さる臭いが強くなる。


 「⋯⋯ちぃ。あんたも私譲りの身体があんだから、少しはそれを使ったらどうなの、ええ? そしたら数時間で、金貨を稼げるわよ。どいて身体拭いてくる」


 母親の光のない目はいつも怖い。


 聖女と呼ばれていた母はもう居ない。


 「っ! お母さん! また無しでヤッタの! 妊娠する可能性もあるし、それに病気に感染する可能性もあるんだよ!」


 「うっざいなぁ。私はお前と違って回復魔法が使えるから問題ないってつってんだろが」


 ⋯⋯心配したのに、そんな風に言わなくても良いじゃんか。


 わたしは外に出る。


 今日は月に一回の王族が国民に顔を出す日なのだ。


 大きな馬車の上でを手を振る王様⋯⋯わたしの血の繋がりのある父親。


 「ぁ⋯⋯」


 一瞬だけ目が合った気がするけど⋯⋯すぐに逸らされた。


 隣にいる王妃は他国の公爵令嬢⋯⋯二人の男と女はわたしの母違いの弟と妹⋯⋯と言ったところか。


 聖女と呼ばれた母と水の王国の王が結婚し子を授かった事は、歴史の汚点とされて、抹消されている。


 全てはわたしの⋯⋯背中にある刻印のせいで。


 「⋯⋯聖女の血を引くのに、回復魔法が使えない。本当に、母親か疑いたくなっちゃうよ」


 いけないいけない。


 ネガティブは厄災の元!


 神にお祈りを捧げて来よう。


 教会に入ると、殺されるので外から、ギリギリ中の女神像が見える位置で祈りを捧げる。女神の隣には勇者、初代王の石像がある。


 この水の王国が建国される前、ここは汚染された湖だった。


 水災害を引き起こす元凶であり、水を汚染して毒をばら撒く存在、レヴィアタン。それを討伐したのが初代の王である勇者。


 その後、レヴィアタンを倒した勇者は女神のお力を借りてレヴィアタンが死んだ事によって枯れた大地に水源を生み出した。


 それから発展した国がここなのだ。


 わたしはそんな邪神と呼ばれるまでに至ったレヴィアタンの模様を背中に持っている。生まれつきだ。


 世界はそれを呪い扱いした。


 王族の血を持ち、聖女の血を持つ、そんな人間が呪いを持って生まれた。


 水の王国の最悪の邪神とされるレヴィアタンの呪いだ。


 当然、皆は処刑を望んだ。


 だが、処刑して何かの厄災が降り注ぐ事を恐れた皆。


 結果として、わたしの存在は抹消され、母体となった母共々平民に落とされた。


 それから母は急変して、優しく癒しの聖女だった母は、消えた。


 強い水の魔法と回復魔法を期待されたのに、この始末だ。


 誰もわたしの存在を許してはくれない。産まれて来て欲しくなかっただろう。


 ⋯⋯なんでわたしって産まされたんだろう。時々考えてしまう。


 翌日、いつものように薬草採取に勤しむ。


 「時間を見つけたら、薬剤調合の勉強も続けないとな⋯⋯錬金術に負けちゃうけど、少しでも高値で売りたいしね」


 少しは知っているけど、売れる程上達していない。


 誰かに弟子入りする余裕もないし。


 「⋯⋯もうそろ正午かな。帰ろ」


 いつもの帰り道を進もうと思ったら、停滞している馬車を見つけた。


 馬が傷ついて、手当をしている様子が伺える。


 ん?


 でもなんか様子がおかしいな。


 豪華な馬車なのに、馬の手当をしているのが騎士のような格好の人だけだ。


 医者は居ないのかな?


 「気になる」


 わたしは好奇心のまま、近づいてしまった。


 徐々に声が聞こえて来る。


 「どうか気を確かに!」


 「ぐっ。この、俺が⋯⋯毒を受ける、とは」


 「すぐに医者に参りますぞ! すぐですぞ!」


 「医者は僕ですけど⋯⋯解毒剤ももう無いし、状態異常の回復魔法は使えません。面目無い」


 そんな声が聞こえる。


 わたしが今日採取した薬草は解毒剤に使われる。


 だけど、薬剤を作るならお湯が必要だ。錬金術師が居るなら話は別だけどね?


 すり潰した薬草をお湯に浸して色が変わるのを待つ。そしたら完成だ。


 お茶と一緒。


 「わたしできるじゃん!」


 急いで馬車に向かう。ノック。


 「すみません!」


 「な、なんだね!」


 「その、少しの気休めにしかならないかもですけど、解毒剤、用意できます!」


 「なぬ!?」


 わたしは急いでボロボロの短剣を取り出して、薬草を粉々にする。


 「ふぅ。集中集中」


 魔法を使うには集中力が大切だ。


 わたしの使える魔法は火と水の二つ。それを掛け合わせてお湯を作る。


 王族の血を引くのに、魔力の少ないわたしはこのように合わせて、誤魔化そうとした。結局出せる出力は変わらないから意味なかったけど。


 「お、お湯? そんな魔法聞いた事も⋯⋯」


 その中に粉々にした薬草を入れて、混ぜる。


 「あ、あの。容器ないですか? このままだと熱いです。すごく」


 「あ、これを」


 渡された容器の中に入れて、今度は冷たい水を魔法で生み出して、その中に入れて冷やす。


 飲みやすくなったポーションを毒を負った、顔も身なりも良い、見るからに貴族の人の口に当てる。


 「の、飲めますか?」


 「⋯⋯くばっ」


 ダメそう。吐いちゃう。


 「バジリスクの毒はここまで強力なんですね」


 医者っぽい人が呟く。


 ば、バジリスク?


 災害クラスの魔物?


 そんな猛毒、森の中で採取した薬草を使った即席ポーションじゃ、気休めにもならないかも。


 「うぐっ」


 とても苦しそう。


 ⋯⋯少しでもやるしかない。ないよりかはマシ!


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 わたしはポーションを口に含む。


 にっが〜。吐いた理由もしかしてこれじゃないですか?


 「⋯⋯ごく」


 いわゆる口移し。


 無理やり飲ませてしまったけど、仕方ないから許してね。


 平民が貴族にやる行為では無い。


 「うぐっ」


 「やっぱり気休めにもならない!」


 「それでも進行は抑えられてます!」


 な、なら繰り返そう!


 ⋯⋯今日の給料はゼロ銅貨だ!


 馬ももうすぐ動けるようになるでしょう。


 一回飲んだら大丈夫になったのか、その後は普通に飲めるようになった。


 進行を遅くさせただけで、全く治療にはならなかったけど。


 「正門を通ったらすぐ右の通路を通過してください。そこからスラム街を突き抜けたら、教会があります。そこでならバジリスクの毒も回復できる魔法を使える⋯⋯現聖女が居ます」


 「ありがとうございます。このお礼は後ほど⋯⋯」


 「いえ。その必要はないですよ」


 正門を通ったら、すぐにわたしは馬車から飛び降りて、見送った。


 あんな豪華な馬車にわたしがいつまでも乗っておくべきじゃない。


 ⋯⋯少しは人の役に立てたのかな?


 「産まれてきた意味は⋯⋯少しはあったのかな? そうだと、嬉しいな」


 翌日!


 「昨日の分の収益を取り戻さないと。お肉食べたいな」


 あれ?


 昨日取り尽くしちゃったのかな?


 浅い所に薬草が見当たらない。


 少し怖いけど、森の少し、少しだけ奥に進んでみよう。


 「薬草ちゃん〜あれば返事してください〜」


 魔物出るな魔物出るな薬草出ろ!


 ⋯⋯あった薬草!


 「おほ〜さすがは森の奥。いつものよりも品質は良さそう。綺麗な深緑色だな〜」


 さて、怖いから帰ろう。


 「⋯⋯なんか、緑が増えてる」


 少しだけ色の濃い緑が草むらの中に増えているんだけど⋯⋯。


 嫌だなあ。


 ここは魔物の蔓延る森。そこでメジャーな魔物は⋯⋯ゴブリン。


 「嫌」


 走って逃げる。


 ブス、足に何かが刺さる。


 「いったああああ! ああああああ! 熱い、痛い!」


 矢が足に刺さっただけでこんなにも痛いの!


 「足に矢が刺さりましてね〜」とか平然と教会で回復魔法受けてる冒険者のおじさんの凄さが分かる。


 「いや、来ないで」


 来ないでって言ってるのに、言葉が通じない。


 ジリジリと迫るゴブリン。


 しかもその数、六体は居る。


 どうしよう。わたし戦えない。魔法も強くない。


 嫌だ。怖い。怖いよ。


 「お母さん助けて! お母さん!」


 服に手を伸ばされる。


 「いや、やめて!」


 手で払い除けようとしても、力が足りない。


 ビリビリ⋯⋯服が破られていく。


 「ヤダ! やめて! ねぇ、お願いだから! やめて!」


 膝を掴まれて開かれ、もう一体のゴブリンには頭を捕まえられる。


 「いや⋯⋯」


 終わった、そう思った瞬間だった。


 天から舞い降りる光がゴブリンを焼き払った。


 「我が命の恩人に下賎なマネは止めて貰いましょうか」


 空に停止しながら魔法でゴブリンを消し炭にしたのは⋯⋯昨日毒に犯されていたカッコイイ貴族風の男だった。


 「昨日はありがとうございました」


 「こちら、こそ」


 気の抜けたわたしは意識が途絶えた。


 あぁ、やっぱり森の奥に来るべきじゃなかった。


 目が覚めたら、そこは大昔の記憶に眠る天井である。


 「産まれ付きの模様がバレたのって、五歳の時だっけ⋯⋯あつっ」


 身体全身が焼けるように痛む。なんだこれ? 毒?


 王宮に近づいたら殺される⋯⋯急いで帰らないと。もう中に居るけど。


 ドアが開く。


 「起きましたか!」


 「さ、先程はお命助けていただいて、ありがとうございます。なんのお礼もできませんが、ありがとうございます」


 「何を言いますか。助けられたのは俺の方です。ゆっくりしてください。足の傷は見事に回復しておりますゆえ、気にする必要はございません」


 あぁ。この人のマントのエンブレム。見覚えがある。


 アドバスト魔法帝国だ。魔法の先駆者が集まる魔法最先端の帝国。


 ここに居るなら、外交官か何かかな? かなりの高い身分のお方だ。


 関わってはならない。


 何よりも⋯⋯さっきから身体が熱かったり、寒かったり⋯⋯とても苦しい。


 「はぁはぁ」


 「大丈夫ですか?」


 「大丈、ぶ」


 じゃないかもしれない。


 背中にあるレヴィアタンの模様が広がって来た。そうだ。


 こうやって広がって、身体中に現れたから、わたしは呪われ姫になったんだ。


 苦しい。ここから速く、離れないと。


 「あり、がとう、ございました」


 速く帰らないと。


 ま、窓からが一番速い。


 ここからが一番、速く帰られる。


 「待ってください!」


 抱き止められた。下を見る。地面が遠い。


 このまま進んでたら、真っ逆さまだった。


 上手くいったら、水路の水に着水できたかもしれない。


 「お送りします」


 「大丈夫です。自分で帰れます」


 わたしが廊下を歩く度、周りから向けられる目が痛い。


 「⋯⋯」


 嫌だ。


 家に到着した。さすがに途中で別れた。


 自己紹介してないけど、もう二度と会う事は無いだろう。


 「ただいま⋯⋯」


 「ふざけやがって!」


 「痛っ!」


 酒瓶が投げられた。額から血が流れる。


 「お前、なんで王宮に入った! ふざけんな! どれだけ私に辛い思いさせたら気がすむんだ! あぁ?!」


 「やめて、痛いよ、お母さん!」


 殴られて、蹴られて、踏まれる。


 「痛いのはこっちだよ! あんたの行動のせいで、忠告されたんだよ! 王族が関わってるって知られたら、客が逃げちまうだろうが! こっからの生活が関わってんだよこっちはよぉ!」


 その後、数十分の暴力を受けた。


 身ぐるみを剥がされて、ドアの前に投げ飛ばされた。


 「もう私に関わるな。産まれて来なきゃ良かったんだ。そしたら私は、民に慕われ、神を信仰する聖女であり王妃だったんだ。民の為国の為、働くのが夢だったのに、その全てをお前が台無しにしたんだ。どっか行ってくれ。もう、私の前に現れないでくれ」


 ドアをノックする。


 「開けて⋯⋯寒いよお母さん。ねぇ、寒いよ」


 ダメだ。


 わたしはどうしたら良いんだろう。


 頼れる人間は居ない。


 「神様、わたしは何か、悪い事をしましたか。産まれたことが罪と言うのなら、なぜこの世に産み落とされたのですか」


 たまたま落ちていた布を拾って、外に向かう。


 こんなわたしでも、やはりこの国の水は美しかった。わたしとは真逆だ。


 「なっ!」


 門番が驚く。


 殴れたりした痕があり、布一枚の女が歩いていたらそりゃあ驚くだろう。


 だけど、それ以上何もしてこなかった。


 「わたしはこれからどうしたら良いんだろう。お金を稼ぐにも、道具も何も無い。お腹減った」


 わたしに出せるのは僅かな水と火か。


 「木の実を採取すれば、少しは生きられるかな? ⋯⋯はは。生きててなんの意味があるのか分かんねー」


 もう良いや。


 世界もきっと、わたしの死を望んでる。


 その期待に応えてあげるよ。


 「さようなら」


 火を生み出して、わたしの顔に近づける。


 「何をしてるんですか!」


 それを止めたのは⋯⋯あの貴族だ。何かと縁がある。


 「何を馬鹿な事をして⋯⋯何があったんですか?」


 「お礼できなくて、ごめんなさい。価値は無いですけど、せめてこの命、迷惑なら捨ててください」


 「待ってください! 質問の答えになってない! 何があったんですか!」


 「⋯⋯止めないで」


 「止めます! 命の恩人が見るからに酷い目にあっているのに、理由も知らないま見て見ぬふりはできない!」


 良い人だな〜こんな人が世の中に溢れていたら、世の中きっと虹色に輝いているんだろうな〜。


 いつからだろう。世界がモノクロに見え始めたのは。


 唯一色彩豊かに見える薬草や植物、水以外はもうモノクロだ。


 ⋯⋯最期に話しても良いかもしれない。そう思った。


 だから話した。


 「その女どこに居ますか。俺が怒ってきます!」


 「良いんですもう。そもそもわたしが間違っていた。わたしが産まれたすぐに死んでいれば、お母さんはこんな風になってなかった。本当に、優しかったんですよ。小さな事で褒めてくれて、間違った事は優しく叱ってくれて。いっぱい愛をくれて、民に慕われて⋯⋯」


 憧れだった。聖女としての母の姿は、わたしが目指したかった存在そのモノだった。


 「⋯⋯遅かったんです。何もかも。わたしが死ぬのが遅かった。それだけです」


 「そんな事は無い!」


 肩を掴まれた。真剣な目だ。


 「アナタは居なかったら、俺はバジリスクの毒で死んでいた!」


 「⋯⋯アナタ様ならきっと、耐えてましたよ」


 「そんな事無い! アナタが居たから、今の俺が居るんです。そんな命を軽んじる発言は止めてください!」


 「気を悪くしたらごめんなさい。もう、ほっといてください」


 「嫌です」


 「辛いんです! 生きるのが辛いんです! 誰からも必要とされない。産まれただけで罪を背負っている人生がもう、辛いんです!」


 「必要としています」


 わたしは激昂した。


 「誰がですか!」

 「俺がです!」


 すぐに答えられた。


 「なん⋯⋯どうしてですか?」


 「俺はアナタに助けられた。俺の命は俺一人の命では無い。何十万人と言う人の命が掛けられている。それを救われたんだ。まだ恩返しできていない」


 「それはどう言う⋯⋯」


 「俺はリュークネスト・フォグ・アドバスト。アドバスト魔法帝国の皇帝だ」


 「⋯⋯ッ!」


 「聞いて欲しい。アナタの属性を混ぜた魔法、あれは未だに誰も成し遂げられていない偉業なんだ」


 そんなの知らない。できると思ってやってたら、できるようになったから。


 わたしのような才能も何も無い人間ができたんだ。才能の塊であるこの人ならすぐにできる。


 「魔法の先駆者パイオニアを名乗る国として、アナタの技術はとても素晴らしい。反対に悔しくもあります。どうか、その叡智を我が国でお使いになってはくれませんか。衣食住全てをお約束します。望むならなんでも用意します! 俺は⋯⋯いえ、魔法士全てはアナタを必要としている! 少なくとも、俺はまだ恩返しが済んでない! 死んだら蘇生してでも恩返しします!」


 「なんですかそれ。とても、強情ですね」


 「強い欲がなければ、魔法の道は遠のいてしまいますからね。どうでしょうか。この先が無いなら、俺が道をお作りします。我が国に来てください」


 手を差し伸べられる。


 考えるまでも無いだろう。


 必要としてくれるなら、わたしは全力で応えたい。


 「はい。わたしはジュアと言います。ただの平民、ジュアです」


 それからわたしはアドバストで暮らす事になった。


 まずは生活に慣れる所から始まった。


 ここは凄かった。


 魔法だけではなく、魔道具にも精通しており、かなりの発展が見られた。


 アクアマリンでは水を使った道具などが栄えていたので、全てが目新しい。


 「合成魔法の先駆者⋯⋯うぅ。論文未だに一文字も書けてない。研究発表とかした事ないし、難しいよぉ」


 衣食住が揃った生活は、控えめに言っても前の生活よりも裕福である。


 今日からわたしは職を持つ。


 「拾ってくれたリュークネスト様のためにも、頑張らないと!」


 「リュークって呼んでください!」


 「リュークネスト様、女性の部屋に転移魔法でいきなり入るのは良くないと思いますよ!」


 ⋯⋯毎日来ているせいで慣れてしまった。帝王様なんだよね?


 この国で最強の魔法士なんだよね?


 すごく自由奔放って感じだ。


 「今日からですね」


 「はい。もうやる気みなぎりファイヤーですよ!」


 「ふふ。それじゃ、行きましょうか。我が国が誇る⋯⋯魔法学園に」


 リュークネスト様の転移魔法で、学園に到着した。


 ここでわたしは合成魔法について教える事になる。


 正直、学生達の方が教養はある。絶対にだ。


 魔法は貴族にしか使えない。


 魔法が使える平民が現れたら、貴族となる。


 高貴な血がないと、魔法は使えないとされているからだ。


 「今日からクラスを持つ担任になるんだ。気張って行こう」


 そして入学式やクラス発表を終えて、翌日から本格的な授業となる。


 わたしは自分のクラスの人達にしか教えない。教える事もそこまでないけど。


 理由は、二属性使えないとそもそも始まらないからだ。


 そのため、二つ以上の属性を持った人達が集められている。


 「まずは出席を取ります」


 緊張する。間違ったらどうしょう。頑張れ、わたし。


 あ、一人欠席だ。


 「まず、魔法と言うのはご存知だと思いますが、魔法陣を魔力を用いて生み出し使います。魔なる法則、正しくその通りであり、魔法陣にはいくつものピースで成り立ってます。そのピースを分解し、再度組み立てて、発現すると合成魔法になります。パズルです」


 わたしはお湯を顕現させて、それを証明する。このくらいしかできないとも言えるけど。


 「せんせー質問!」


 「はい」


 「まず、二つの種類を同時に魔法陣として扱えないのに、合成魔法はできるんでしょうか!」


 「そうですね。正直にお答えしますと分かりません。わたしは二つ同時に使って、合わせたら楽だなーと思ったらできてた感じなので⋯⋯」


 「天才かよ!」


 「いえ。ただ、そうしないと役に立たないと思っていただけです。ただの凡人、育った環境が違うから、考え方や工夫の仕方が違うんです。合成魔法もその副産物ですよ。アナタ達にはわたしよりも魔法も勉学も全てが上です。しっかりと目指したいと言う強い意志があれば、すぐに習得できますよ」


 それから授業を続けたけど、学んだ方はわたしな気がした。


 魔法の理論とか色々と。


 わたしと皆とではやはり、大前提が違ったようで、最初の授業はその埋め合わせになった。


 これからの授業は基本的に練習に入る。知識的な事は少ない。


 なんだって実験や研究が進んでないから、何かを教えれる事が無いからだ。


 「せんせー! そもそも魔法陣の分解ができません!」


 「えっと、魔法を使う時は魔力神経から魔力を放出するんでしたよね? そこに集中して、ピースを一つ分の魔力を出して組み立て、そのイメージです!」


 「抽象的!」


 悪戦苦闘。わたしが普通にできる事は、普通の魔法をやって来た人達から見たらすごく難しいらしい。


 それとみんなの魔法陣を絵として貰っておいた。魔法陣のピースの法則性はあるので、これから本当にパズルのように答えを見つけていく。


 そこはわたしがやる。他にやる事がない!


 わたしはなぜか、普通の訓練をしても魔法が伸ばせないし、魔力も増えない。才能がないって辛い。


 「一人一人やって行くんですか?」


 「まずは簡単なモノからですね。ただ、どの子も出す魔法陣に使うピースがわたしの数倍以上なので、かなり大変です」


 「地道にやるのが魔導ですからね。応援してます」


 「ありがとうございます。それとリュークネスト様⋯⋯せめてノックしてドアから入ってくれませんか?」


 「そうすると、執事に見つかって一瞬で連れ戻されますから」


 「⋯⋯」


 本当に毎日来るなこの人⋯⋯ちゃんと仕事しているのかな?


 執事さんのお怒りゲージがマックスを突破していそうで不安だ。


 ま、わたしも強く言えないから悪いんだけどね。


 「⋯⋯今度の休み、どこか出かけませんか?」


 「その日はリュークネスト様は魔法士隊の遠征訓練ですね」


 「休みます」


 「ダメです」


 それから数日後、わたしはようやく発見した。


 わたしが担任⋯⋯いや、聞いた話では入学してから一度もクラスに顔を出していない生徒。


 わたしのクラスの生徒であり、召喚魔法と闇属性の魔法を使える人。


 不登校と言う訳ではなく、学園の屋上でゴロゴロしていた。


 「ダクレズさん。授業に出てくれませんか? 他の皆と一緒に合成魔法を研究しましょう!」


 「勝手にして。アタシはここに居る」


 「どうしてですか?」


 「きょーみないから」


 嘘つき〜かわいいじゃんかもう。


 「制服をしっかりと着て、毎日学園に来ているのにですか? 不思議ですね〜本当は何が理由なんですか?」


 「どっか行け」


 「教えてくれませんか。ふふ。先生我慢強いですからね。話してくれるまで、嫌われても毎日ここに顔を出します!」


 宣言通り、リュークネスト様のように毎日顔を出してはダクレズさんに昔の話をした。


 役に立たない薬草採取の話やゴブリンに襲われた事、リュークネスト様に助けて貰った事。


 それと最近勉強している成果を。時々間違っている箇所を指摘されたりもする。


 やっぱり学生の方が頭が良い。


 「先生はどうしてアタシなんかに構うんですか」


 「大切な生徒だからです」


 「大切な生徒⋯⋯か。先生知ってますか? アタシが悪魔の落とし子って言われているの?」


 「知ってますよ」


 召喚魔法はとても珍しく、使える人は片手で数えれるくらいしか居ない。


 だから注目されていた彼女だったが、闇属性も使える身体な為に、召喚できるのは悪魔のみ。


 闇属性に因子に引っ張られてしまうと、憶測されているらしい。


 その悪魔は唯我独尊、悪く言えば自己中であり、制御が効かない。


 そのため無能な存在としての烙印を押された。その結果が『悪魔の落とし子』と言う二つ名だ。


 「寧ろ、それなら合成魔法をやるべきです。もしも闇属性と召喚を合わせれたら、闇属性召喚魔法になるかもしれませんよ。そうなったら、闇属性の生物を呼び出せるかもしれません⋯⋯魔物全てを召喚できますね。夢が広がります」


 ⋯⋯それって魔王じゃんって思ったのはわたしだけかな?


 「くだらない。先生にわたしの何が分かりますか?」


 「そうですね。確かに先生にダクレズさんの気持ちや受けた苦しみは分かりません。ですけど、歩み寄れる自信はありますよ」


 「どこからそんな自信が⋯⋯」


 わたしは上服を脱いで背中を見せる。女の子同士なので問題ない。


 「それは⋯⋯」


 「背中半分くらい埋まってるでしょ? これね、わたしの故郷に居るともう少し大きいんだよ。中心に行けば身体全体に広がる。これのせいでわたしは家族に捨てられた。死ぬのが遅かったと後悔した。そんな時にリュークネスト様に拾われたんだ。だから歩み寄れる自信はあるよ」


 それにダクレズさんはまだ、直せるじゃないか。


 悪魔以外を召喚して、実力を認めさせれば、きっとそんな事を言われない。


 何よりも、そんな事を今でも口走る愚か者が居れば、わたしがリュークネスト様にチクってやる。


 最強の王様には逆らえないでしょ。そんな事しないけど、徹底的に討論はしてやる。


 「だからさ、一緒に学園、楽しもうよ。せっかくなんだからさ、こんな所でサボらないでさ。一緒にやる事で、見える世界が変わるかもよ?」


 実際わたしは変わった。


 モノクロだった世界が、色彩豊かに見える。


 「アタシ、今更入っても、問題ないかな?」


 「ふふん。そこは先生に秘策ありよ」


 ダクレズさんには闇属性の魔法を使って貰う事にした。


 皆の得意な魔法を使って、擬似的に合成魔法を編み出す。


 そんな遊びだ。


 そして今日はなんと、リュークネスト様が時間を作ってくれた。わたしの隣に立っている。


 「呼んでくれて嬉しいです」


 「今から真反対の属性の擬似的合成魔法を試してみます。ダクレズさん。前へ」


 リュークネスト様の光属性とダクレズさんの闇属性。


 どうなるのか、わたしには分からない。


 「よろしくお願いします、リュークネスト様!」


 「リュークって呼んで欲しいです。本当に。それじゃ、行きますか」


 結果、リュークネスト様の魔法が強すぎて光に包まれて終わった。


 ただ、誰もが目標にする存在が居るから、話題は作りやすく、すぐに馴染んでくれた。


 「わたしは良い教師、やれてるでしょうか」


 「欠席ゼロの全員仲良し笑顔⋯⋯これほどの教師は滅多に居ませんよ」


 「リュークネスト様⋯⋯ありがとうございます」


 「実は俺の本名ってリュークなんですよ。なのでリュークって呼んでください」


 それから二ヶ月後、実習訓練が入った。


 森の中で魔物と戦うのだ。危険性はないと言われている。


 ゴブリンくらいしかいないかららしい。


 わたしから見たらゴブリンもとても強い魔物である。


 監督の先生席に座っているけど、落ち着かない。


 パズルしよう。


 召喚魔法と闇属性を合わせるパズルだ。未だにどの生徒も合成魔法を成功させてはいない。


 完成した魔法陣もあるのだが、それをできるかは別問題だった。


 「はは。召喚魔法が希少なのは分かっているつもりだったけど、三百ピースはきついな〜」


 わたしなんて五個だからすぐに終わったのに。


 「⋯⋯これ、皆さんの卒業までに終わるかな⋯⋯無理だよな〜論文も完成させて、発表して、本格的な研究に乗り出したいけど⋯⋯まとめるのが難しい」


 論文を出せる人は本当に凄いよね。


 「⋯⋯鳥達が」


 森から鳥が一斉に飛び立った。


 凄い光景だが、それよりも胸騒ぎがした。とても苦しい胸騒ぎだ。


 だからだろうか。足が勝手に動きていた。


 どこに向かって良いかも分からないのに、足が止まらなかった。


 「ダクレズさん! ⋯⋯あれは、レッドオーク!」


 こんな所に生息しない筈では!


 まずい。斧が振り下ろされそうになっている。


 わたしの産まれてきた意味は⋯⋯ここにあったんだ。


 「ぐっ」


 「せん、せい」


 「ごほっ」


 深く抉られたかな?


 でも、ダクレズさんは生きている⋯⋯他に倒れている生徒達は無事だろうか。


 「にげ、くだ、さい。ここ、は。わだじが、じがんを!」


 「な、何言ってるの? 無茶だよ先生! 先生弱いじゃん! 誰よりも弱いじゃん! 先生、なんで来たんだよ!」


 「何を言っでるの! わだじは! ぜんぜいでず! ぜいど、まもりゅのが、わだじです!」


 魔法を使ってオークを攻撃したけど⋯⋯全く意味がなかった。


 ごめんなさい皆。


 こんな弱い先生でごめんなさい。


 生徒を守れず、逃げる時間すらろくに稼げない。


 こんな無能で役立たずでごめんなさい。


 情けない教師でごめんなさい。


 「ごべん。こんな無力なわたしで、ごめん」


 「そんな事ないです。良い時間稼ぎでしたよ」


 あぁ、前に見た光だ。


 わたしの窮地を救ってくれる、頼もしく暖かな光。


 「お疲れ様でした」


 「⋯⋯」


 わたしは何もできなかった⋯⋯な。


 わたしは死んでも構わない。でも、生徒達だけはどうか、生きていますように。











 目が覚めた。


 「ようやくお目覚めですか。もう。心配させないでくださいよ」


 「泣いてたんですか?」


 「泣いてません」


 「わたし、そんなに長い事寝てたんですか?」


 「六時間です!」


 「致命傷を負って、回復して貰って、意識取り戻すって考えたら、早い方じゃないですか?」


 「一秒で起きてくれないと不安になります!」


 「わたしは魔法の使える一般人ですよ? ⋯⋯生徒の皆さんは」


 「皆無事で、ジュアよりも数時間早く目覚めてるよ」


 「そっか〜良かった。本当に、良かった」


 涙が止まらないや。


 「大丈夫です。お疲れ様でした」


 抱きしめられた。


 「うっ、うう。わたし、教師なのに⋯⋯生徒を守る筈なのに、何もできなかった。行った時にはもう、皆倒れてて。役に立ってなかった」


 「そんな事ありません。アナタが居たから、ダクレズさんは生きているんですよ。たったの数秒、されど数秒、アナタが時間を稼いでくれたおかけで、緊急信号を受け取った俺が駆けつけれたんだ。誰も死ななかったのは、アナタの命を懸けた行動の賜物です!」


 「リュークネスト様はいつも、わたしの嬉しい事を言ってくれますね」


 「事実ですよ。窓を見てください」


 「え?」


 「外です」


 歩いて、窓の外を見る。


 綺麗な夜空⋯⋯なんか明るい。


 下かな⋯⋯。


 「は、はは」


 『ジュア先生はやく起きて、合成魔法教えて』


 「あはは、あはははは!」


 あれを数時間で用意したのかな?


 魔法を得意とする皆が、工作をしたのかな?


 こんなわたし何かのために。


 何よそれ。なんなのよそれ。


 「脱水症状起こしちゃうよ」


 涙が止まらない。


 嬉しすぎる⋯⋯いや、そんな一言では収まらない。言葉では言い表せない。


 誰かに感謝されて、心配されるって、こんなにも嬉しい事だったんだね。


 「わたし、ちゃんと教師やれてますか?」


 「これほど素晴らしい教師、我が国では見た事ありません」


 「最高に、嬉しいです!」








 



 二日後、リュークネスト様はわたしに昔の本を持って来てくれた。


 「これはなんですか?」


 「アクアマリンの歴史書です。王宮にしかない」


 内容はこうである。


 邪神の邪気に苦しむ一匹の龍が居ました。


 彼は水を愛しているのに、邪気のせいで制御ができないでいた。


 枯れた地に水を出そうとしたら、町を滅ぼす洪水を起こしてしまった。


 貴重な水源が汚染されていたので、浄化しようとしたら逆効果にしてしまった。


 彼は嘆き苦しみ疲れ果てた。


 そこに現れた勇者が女神の加護を持って、彼の夢を叶えてあげる事にしました。


 封印し、枯れた地に水を出し続ける水源としたのです。


 ですが、彼を蝕む邪気はそれじゃ止まらなかった。


 水の民であり、勇者の血を受け継ぐ者の中に二百年一度、水の巫女が生まれるようになった。


 彼から溢れる邪気を吸収して、水の美しさを保つ。


 彼は深い眠りについているが、その顔はとても笑顔だ。


 大好きな水を、清らかな水を、生み出し人を幸せにしているから。


 不幸を呼び寄せていた自分が幸福を呼び寄せているから、彼は幸せな夢を見続けるでしょう。


 「水の巫女には彼⋯⋯レヴィアタンの紋様が手の甲に浮かび上がるそうです。ジュアの場合は素質が高かったから、全身に現れたと思います」


 聖女の血があるからかな?


 王宮の真下が水源とされている⋯⋯そこに眠っているのかな?


 ⋯⋯ん?


 「ちょっと待ってください。それって、わたしが邪気を吸収し続けていたってことですか!」


 「はい。魔力が少ないのも、邪気を吸収するためだと予測されてます」


 「今のアクアマリンの水は⋯⋯大丈夫なんですか?」


 わたしが居ないなら、邪気は水を蝕むじゃないだろうか?


 「これを」


 手紙を渡された。


 アクアマリンの王様⋯⋯我が父からだ。


 研究家が過去の歴史書を見つけて巫女の存在に気づいたそうだ。


 わたしが居なくなってから、徐々に水質は悪化して行き、病人が増えている。


 聖女の力も全然間に合ってない。


 っとまぁこんな感じ。


 「今更虫が良すぎます。無視ですよ無視」


 お母さんは動きてないのかな?


 歴代最強と呼ばれたお母さんなら⋯⋯。


 博愛の心を失った聖女に女神様がどう動くのかは、想像できるか。


 それでも⋯⋯。


 「もうすぐ修学旅行の日ですよね。実はわたし、水が綺麗で有名な国に行きたいと考えているんですけど、大丈夫ですか?」


 「⋯⋯はぁ。君が良いなら、俺に反対する意見はないよ。⋯⋯帝王として一緒に行こう!」


 「わぁそれは頼もしい」


 「陛下、ダメに決まっているでしょう。それじゃ、ジュア様、失礼します」


 「あ、はい」


 執事さんも大変だな〜。


 「わたしも学園にいかないと」


 わたしが産まれてきた意味は思っていた以上に、たくさんありました。


                    ~完~

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水の国の呪われ姫(平民)のわたし、迫害され追い出されたけど、隣国の魔法帝に溺愛されてます〜水が汚染されたとか言われても興味ないです〜 ネリムZ @NerimuZ

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