第28話 爆弾戦
わたしは登山隊員たちを司令塔1階の食堂に集めた。
100人いるが、そのうち6人はカイシュタイン山で負傷した。戦える者は94人。
「みなさん、すでにご存じだと思いますが、ライリー城はオースティン王国軍に包囲されました。イーノ城主は抗戦と籠城を決定し、わたしは協力を求められました。我々は誇り高き中央軍団の兵士です。戦いましょう!」
皆、静かにわたしの話を聞いている。誰しもが戦うのは当然だと思っている表情だ。
「指揮はわたしがつとめます」
シローが不思議そうにわたしを見つめた。
「クロエ様が戦うのでやすか?」
「もちろんです」
デヴィットがやめておけと言いたげに首を振った。
「わたしは黒水晶で爆弾をつくることができます」
黒水晶を兵器として使うのは本意ではない。試しに人のいないところで爆発させたことはある。暗殺者相手に投げたこともある。わたしはそういう使い方があることを、できるだけ秘密にしてきた。
だが、いまは非常時。戦争だ。生き残るため、そしてサイラス王を倒すため、わたしは手段を選ばない。
「わたしは爆弾をつくります。みなさんは投石のように、爆弾を敵兵めがけて投げてください」
「どんな爆弾なんでやすか」とシローに訊かれた。
「いろいろとつくれますが、投げやすいサイズの爆弾を生産しようと思います。ライリーの倉庫には3000キログラムの黒水晶があります。投げやすく、敵に当たった衝撃で爆発する爆弾を量産します」
「あっしらは爆弾投擲兵になるのでやすね。やってやりやす」
シローは闘志満々だった。
デヴィットはまだ心配そうな顔をしていた。
「敵には容赦しません」とわたしは断固として言った。特にサイラスには……!
「わたしたちは爆弾百人隊です!」
わたしは一時的に百人隊長になった。
シローを副隊長に指名し、デヴィットには副官になってもらった。
ふたりを連れて、イーノと3人の千人隊長と軍議をした。
「わたしたちは強力な爆弾隊です。熱と石の欠片を瞬時に飛散させる高い殺傷能力を持つ爆弾を使います。どんな敵と対峙させてもらってもかまいません」とわたしは言った。
「爆弾なんてどこにあるのですか?」と千人隊長のひとりが言った。
「わたしは黒水晶を爆弾に変えることができるのです。これから大至急製造します」
「そんな兵器があるのなら、私どもも使いたいです」
「ではそちらにも回しましょう」
「ありがとうございます」
「慎重に取り扱ってください。衝撃を与えたら爆発します。城壁の上から、敵兵に向かって投げてください」
「矢の先に取り付けても使えますか?」
「可能です」
「爆弾を持って突撃したいです」
わたしは考え込んだ。
イーノが発言した。
「当分の間、守備に専念する。必ず援軍が来るはずだ。それまで籠城に徹し、ライリーを堅守せよ」
城主の言葉で、方針が決まった。
「クロエ様、あなたは黒水晶の倉庫で、爆弾づくりに専念してください。登山隊員たちは、それを城壁の隅々まで配ってください。ライリーの守備隊すべて、爆弾兵となります」
それが一番良い戦い方だろう。
わたしは前線に立ち、サイラス王と戦いたかったが、イーノの指示に従うことにした。
倉庫には黒水晶がぎっしりと積まれていた。
「シロー、黒水晶を外に出し、ハンマーで投げやすいサイズに割ってください」
「わかりやした」
倉庫の外はただの舗装道だったが、たちまち爆弾工場と化した。
隊員たちが黒水晶を運び出し、ハンマーでかち割り、わたしが魔法で爆弾に変成する。
手のひらをかざして、黒水晶の内部を高温にする。猛烈な熱エネルギーを外側の薄い固体が包んでいる状態をつくり出す。
衝撃で外殻が壊れたら、瞬時にエネルギーが放出され、固体と高温の黒い蒸気が爆散する。それが投擲用黒水晶爆弾だ。
夏冬の聖女にしかつくることはできない。戦争で使用されるのは史上初だと思う。
周囲の城壁が騒がしくなった。戦闘が始まったようだ。
わたしは爆弾をどんどん製造した。
「シロー、爆弾を運んで。取り扱いには厳重に注意してね。地面に落としたら、爆発するわよ」
「はい、気をつけやす」
シローは爆弾を隊員たちに持たせ、行き先を指示した。東へ西へ、北へ南へ。城壁まで走っていく兵もいたし、おっかなびっくり歩く兵もいた。
ハンマーで割った黒水晶のサイズや形はさまざまだった。
急ぎの仕事なので、仕方がない。
100グラムから600グラムくらいまで、大小さまざまな爆弾をつくった。
500グラム爆弾をひとつつくるのに、20秒くらいかかる。
デヴィットがわたしの前に黒水晶を置く。
わたしが魔力を注入する。
できた爆弾をシローが兵に渡す。
最初の爆発音が聞こえてきたのは、12月13日の正午頃のことだった。
それからドカン、バーン、ズガン、ゴガッ、ドゴォ、ガーンというような音が次々と轟いた。
世界初の黒水晶爆弾戦。
戦果はどうなのだろう。
気になるが、爆弾の製造は危険な作業だ。わたしは意識を黒水晶に集中し、爆弾をつくりつづけた。
疲れたら少しだけ休憩し、水を飲んだ。
爆音は鳴りつづけている。激しい戦闘を思わせる叫び声も聞こえてくる。わたしは早々に爆弾の製造を再開する。
午後2時までに500発はつくったと思う。
集中力が途切れた。
「疲れたあ」
デヴィットが腸詰を挟んだパンを渡してくれた。
午後3時頃、こだましていた炸裂音が止んだ。
シローが城壁から駆けてきた。
「大戦果でやす。すごい威力でやす。オースティン軍は波状攻撃をかけてきやしたが、すべて撃退しやした。爆弾は城壁に近づく数万の敵兵を阻止し、千人以上倒しました。いまは敵軍はすべて、投擲範囲外に退いておりやす。イーノ様は小型の爆弾を矢先に結びつけるよう命令を下されやした」
「そう。爆弾は役立ったのね」
「役立ったなんてもんじゃありやせん。敵兵力は10万以上でやすよ。爆弾がなければ、城壁は突破され、落城していたかもしれやせん」
複雑な気分だった。
戦争とはいえ、わたしの魔法が人を殺した。
わたしは司令塔の屋上に登った。
城壁の外、微妙な距離を置いて、オースティン軍が布陣していた。
東の方に大きな獅子の旗が掲げられている。そこに敵の主力がいる。
4時頃、爆弾の矢の雨が敵陣に降った。
わたしは黒水晶爆弾の威力をこの目で見た。
光を発し、爆音を響かせ、敵兵を吹き飛ばしていた。
敵軍は乱れ、大幅に後退した。
地上に死体が散乱していた。
死ぬのはサイラスだけで良いのに。
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