6月1日 −4−
「ところでこれ、盗まれた衣装の一部ですか?」
袋詰めのセーラー服を抱えてフリーズしたままの古平先輩に確かめると、彼女はまだ心ここにあらずといった様子でふるふると首を振った。
「制服は……学校劇ではみんな自前の制服を使いますので、衣装には含まれてなかったはずですが……」
「ということは、これは青封筒の人物の私物?」
「えー、キモ!! キショ!!」
「何がキショなんだよ?」
即座に反応を見せる延田に突っ込むと、彼女は露骨に顔をしかめた。
「え、だって、セーラー服をコレクションしてる男なんて——」
「おい、待て待て。男だって証拠はどこにもない」
「えー、こんなの絶対男だよ。盗んだ衣装だって一体何に使ってんだか……」
自信たっぷりのセリフを聞いて古平先輩の顔もうっすら青ざめる。
「いやいや、だからその判断は早いって」
すっかり犯人は男だと決めつけている延田と古平先輩を前に、僕は小さくため息をついた。
だが、僕自身、この件にはどこから手をつけていいのか考えあぐねていた。盗難事件にあたるのだろうが、犯人の性別はもちろん、メッセージを残す狙いも含めてさっぱり見当がつかない。
「……やっぱり、優里先輩に相談するべきかな」
僕の頭には、音楽室の幽霊の正体をあっさり見抜いた優里先輩の姿があった。だが、僕がこぼしたつぶやきに、延田はぎょろりと目を剥いた。
「あのさあ、四持が誰とつるもうがあーしに文句を言う権利はないけど、あいつはやめときなって」
「延田、どうしてそんなに優里先輩を目の敵にするんだ?」
「言ったっしょ? あいつはあーしのツレのカレシを横取りしたんだって。ある日いきなりあいつから〝男と別れろ、二度と近づくな〟って言われて、実際カレシもそれっきり連絡がつかなくなって」
「でも、あの性格だし、奪ったっていう彼氏とうまくやれているとは到底思えないけど?」
身勝手で一方的。僕が彼女に抱いているイメージは言わば女王様だ。その思いは同じらしく、途端に延田はうっと言葉に詰まった。
「その話、延田の思い込みってことはない? ちゃんと事実関係を調べた?」
「何? あーしのツレがウソをついてるって言うの?」
「そうじゃない。何か別の理由があったかも知れないじゃないか」
「そんなの、理由はどうあれあーしのツレが傷ついた事実は変わらないっしょ?」
「それはまあ……」
それ以上僕が答えられずにいると、延田は面倒になったのかすくっと立ち上がる。
「じゃ、後は四持、よろしくね」
彼女はメイド衣装を翻すと、有無を言わせず演劇部室を出て行った。
「なんというか、独特な方ですね」
古平先輩は小さくほうと息を吐くとそんな感想を口にする。
「いや、ちょっと思い込みの激しい所はありますけど、あれでいて、見た面に反して世話好きなんですよ」
「お付き合いされているんですか?」
「は? 僕が? 延田と?」
「ええ、何だかとても気安い感じですし」
「ないないない! 絶対に違います」
僕は思いきり首を振って否定する。彼女だなんてとんでもない。
「たまたまバイト先が同じだけです。それに、いつも向こうが一方的に絡んでくるんですよ」
「本当ですか?」
じとっと疑いの目で見つめられるがそれだけは譲れない。
「それより、このあたりの証拠品、写真をとってもいいですか?」
僕は強引に話を戻すと、机に広げられた便せんやセーラー服をカメラにおさめはじめた。
「あ、できればLAIMを交換していただけませんか?」
言われてスマホを差し出す。その上で、お互い何か変わったことや判ったことがあれば知らせると約束し、文芸部の文集も預かってその日は解散となった。
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