第047話 狂いだした剣魔大会
「まもなく剣魔大会を開始します。1回戦前半の出場者は集まってください。」
会場全体に魔道具によって増幅されたアナウンスの声が響き渡ると一部の出場者が移動を始める。
剣魔大会のプログラムではトラブルが予想される俺とオウエンの試合は1回戦の最後に回されていた。
万が一に剣魔大会そのものが中止になっても他の生徒の活躍の場を奪わないようするという学園側の配慮だ。
俺としても自分のせいで全ての試合が中止になるのは気が引けるので有難い。
「1回戦第一試合、始め!」
審判の合図で試合が始まると歓声が上がった。
「順当に進めば一体誰が優勝するんだろうな。」
「優勝候補なら数名いるけど大本命のクリス・エクレシームだろうね。」
ヴィンスはメモ帳を取り出してパラパラと捲りながら話をする。
「剣術・魔術ともに学園トップクラスの実力者。噂では固有スキルがあるとか。」
「サリエさんはクリスさんの固有スキルを見たことあるのですか?」
「ううん、見たことない。でも元々エクレシーム家は王族だから固有スキルの1つや2つあっても不思議じゃないかな。」
仮に固有スキルがあったとしても切り札のはずだから例えサリエが相手だとしてもおいそれとは見せてくれないだろうな。
「クリス・エクレシームを除けば次に名前が上がるのは継だね。」
「俺?」
自分の名前が上がるとは思わず少し驚く。
「適性試験から始まって剣術の授業や遺跡調査、先日の予選の様子を見た生徒達の評判から間違いないだろうね。」
「継さんの場合は年齢の割に戦闘経験が豊富なので当然と言えば当然かもしれませんね。」
「間近で見てきた一人として言わせてもらうけど継も間違いなく優勝候補だと思う。」
「そ、そうなのか。」
仲間以外で比較する機会があまりなかったのでヴィンスに力説されると反応に困る。
「オウエンの実力はどうなの?」
「訓練する姿を見ていないから一概には言えないけれどオウエンを見かけた生徒の話によると訓練の域を出ていないようだ。」
彩奈からの質問にヴィンスはそう答えた。
「オウエンは貴族だから僕達みたいに冒険者のマネごとをする必要が無いから室内での訓練が多いということだね。」
冬也の言葉にヴィンスが頷く。
「そう、だから継と比べると経験不足が目立つ。普通に戦えばまず負けることは無いはずさ。」
俺が負ける可能性があるとするならばそれは俺が油断した時かオウエンが想定外の強さを発揮した時ということか。
仲間達と雑談をしながら前半の試合を見終えると会場全体に再度アナウンスが流れる。
「1回戦後半の出場者は集まってください。」
「継、呼ばれてるよ。」
アナウンスを聞いた冬也が顔をこちらに向ける。
「あぁ、後は頼む。」
「まかせて、継も気を付けて。」
有事の際には冬也ならば卒なく対処してくれるだろう。
「何かあればこちらでも対処しますから。」
「気を付けてね、継くん。」
「皆、行ってくる。」
仲間を観客席に残して俺は舞台へと向かった。
「お待たせしました!只今よりオウエン・ボスト対霧島継の戦いを始めます!」
司会の進行に合わせて会場に入場すると歓声が一気に盛り上がった。
「霧島~、期待しているぞ!」
「オウエン、生意気な異世界人なんてやっちまえ!」
「まるで代理戦争だな。」
沸き立つ観客席から好き放題の言い放つ声援に思わず俺は苦笑いしてしまう。
俺とオウエンに声援を送る層は言うまでもなくはっきりと分かれていた。
俺に声援を送ってくれる多くは日本から来た人達のものが多く、オウエンは異世界人達からの声援が多かった。
ただオウエンの場合は普段の態度が悪いせいか生徒の中には同じ異世界人でも声援を送らない人がそれなりにいるようだ。
「霧島くん、助けてくれてありがとう!頑張って!」
「応援しているぞ!」
声援の中から聞こえたて来た聞き覚えのある声に俺は観客席へと目を向ける。
あの二人は確か入学式の時の。
目を向けた先には入学式の時にオウエンに絡まれていた二人が目立つように大きく手を振りながら観客席から応援してくれていた。
「小僧、頑張れよ!」
二人の近くにはドワーフのおじさんも居る。
正直、ちょっと恥ずかしいな。
俺は三人に軽く手を挙げて返事を返すとオウエンが待つ舞台へと上がる。
「霧島。」
「オウエン。」
舞台上で待っていたオウエンが剥き出しの敵意を放ちながら剣を構えた。
オウエンから溢れ出る不気味な違和感に警戒しながら俺も剣を構える。
なんだ?
オウエンから感じるこの違和感は?
「始め!」
目の前のオウエンの様子を窺っていると試合の合図が出される。
「霧島あぁぁぁぁぁ!」
試合開始と同時に脇目も振らず一目散に振るってきたオウエンの剣を受け止める。
「くっ!」
オウエンが受け止められた剣に力を込めて押し切ろうとするがこちらも力を込めてそれを阻止する。
力はほぼ互角。
「くそぉ!」
オウエンは押し切ることが無理だと分かると素早く剣を振るう。
「はっ!てぇぇ!」
オウエンの一撃目と二撃目を剣で打ち合った俺は三撃目を躱して剣を振るうとオウエンがそれを必死に受け止める。
「ふざけるな!」
オウエンが自身のスキル<活性化>を発動させる。
<活性化>によって身体の魔子吸収力を高めたオウエンは空気中に存在する魔子を取り込み手をかざした。
「魔力連弾!」
オウエンの手から次々と放たれる魔力弾を前にして俺は剣を構える。
「はぁぁ!!」
避けることも相殺することもせずに俺は魔力を纏わせた剣で全て切り払う。
「はぁ、はぁ、全て・・・、切り払っただと!?」
「オウエン!」
俺はオウエンの名前を叫ぶと距離を詰めた。
数合の打ち合いでオウエンの実力がある程度分かった。
爵位を継ぐために自身を磨いてきたのは嘘ではないらしい。
打ち合ってもブレない体と体捌き、殺気で分かりやすくなっているが戦闘不能にしようとする正確な攻撃。
動きの1つ1つにオウエンの今までの努力が垣間見えた。
だけど、何かがおかしい。
「はぁ、はぁ、霧島ぁ!」
疲労感を見せるオウエンが剣を振るうたびに剣の鋭さと力、そして不気味さが増していく。
「くっ、たぁっ!」
打ち合う剣に力を込めた俺はオウエンの剣を弾いて距離をとる。
やや前かがみに剣を構えるオウエンの顔を確認してみるがボソボソと動く口元しか見えない。
「はぁ、はぁ、はぁ。霧島ぁぁ!」
こいつ、正気なのか?
「霧島あぁぁぁぁぁ!」
大振りに振り上げて飛び込んできたオウエンの剣を横に回避すると即座に返し刃が飛んでくる。
返しがさらに速く!?
「ぐっ!・・・はぁっ!」
返し刃を受け止めた俺が<急加速>を発動させてオウエンに切りかかると隠れていた顔が瞳に映った。
「オウエン、お前!?」
俺の眼に映ったオウエンの目には光は無く生気の無い無機質な表情をしていた。
正気を失っている!?
「たおす。」
目の光を失い無機質な表情をしたオウエンが動揺した俺の顔を目掛けて突きを放つ。
「つっ・・・!」
動揺して回避運動が遅れた俺は寸での所で突きを躱す。
突きを躱した直後バランスを崩しながらも下段から切り上げてオウエンに攻撃を仕掛けるが体を反らされて避けられる。
「倒す、たおす!タオスゥ!!」
言動と表情が一致しないオウエンが反らした体を起こすと上段から剣を振り下ろす。
「・・・っ、はあぁっ!」
振り下ろされた剣を剣身に手を当て受け止めた俺はグリップに力を入れて押し返した後そのままオウエンと打ち合う。
「・・・。」
黙々と攻撃を続けるオウエンの剣を一撃、一撃、身体と剣を使って捌きながら打ち合うたびに剣戟音が次第に大きくなっていく。
「くっ・・・。」
正気を失った今のオウエンから怒りや憎しみといった感情が一切感じてこない、俺だけを倒すという闘争意識だけで動いているようだ。
鋭さと力が時間経過と共に増しているが攻撃自体は単調のモノが多いからちゃんと見極めれば対処はできる。
それと間合いを詰めて打ち合った時に気づいたがオウエンから入学式の時には感じなかった強い力を感じる。
その力は時間経過につれて段々と大きくなっているようだ。
オウエンが正気を失ってもなお力を増して戦い続けているのは恐らくその強い力が原因だろう。
誰に操られている?
東瀬に現れた二道の民の姿が脳裏に一瞬よぎる。
だとすると、術者はどこにいる?
オウエンが振るう剣を捌きながら周囲や観客席を確認するが術者らしき存在を見つけることはできなかった。
目視で確認できる範囲で術者が居ないとすると強い力はオウエンから直接出ている可能性が高いがどこから出ているか分からない。
もっと間合いを詰めて力の発生源を確かめないと。
打ち合いの中で剣を躱した俺が大きく後ろに飛ぶとオウエンが迷うことなく後を追ってくる。
俺は後ろに飛びながら剣を握った右手と右足を大きく後ろに引いた。
今のオウエンならギリギリ躱すはず!
「はあぁぁっ!」
「!」
着地と同時に向かってくるオウエンに突きを放つとオウエンは身体を横に向けて予想通りギリギリ剣を躱した。
「今だ!」
オウエンとの間合いを詰めた俺は横払いをしようするオウエンの腕を左手で掴み動きを止める。
この距離なら!
意識を集中して力を感じる場所を探るとオウエンの上半身、特に首周りから感じる事がわかった。
強い力を感じるオウエンの首周りに目を向けると禍々しい茶色のネックレスが薄っすらと光っているのが見える。
力の正体はこれか!?
「そのままオウエンを押さえていてください!」
突然ローラさんの大声が耳に響く。
「「「愚かなる者の全ての動きを奪え!マジック・バインド!」」」
事態の異変にいち早く気づいたローラさんが左右に配置された警備兵に指示を出して動きを止めたオウエンに拘束魔法を放った。
だがしかし、その直後オウエンの手と口元が動く。
「<リミテッド・フリーダム>」
オウエンが身に着けていたネックレスを片手で握りしめながら感情の無い声でスキルを発動させると足元から半球状の黒い影が現れた。
「なんだ!?」
「すぐにそこから離れなさい!」
足元に現れた黒い影に目を奪われていた俺はローラさんの叫び声に貫かれて我に返る。
間に合うか!
<急加速>を発動させてすぐに黒い影と距離を取ろうとするが拘束魔法を弾きながら瞬く間に舞台を飲み込む影から逃れることができず、そのまま巻き込まれてしまう。
「閉じ込められか。」
オウエンのスキルによって造り出された空間の壁を叩いて見るがビクともしない。
おまけに一面黒い壁に囲まれているので外の様子も分からなかった。
外の様子が分からない以上外側からの解決はあまり当てにしない方が良さそうだ。
そうなるとここから出るためには・・・。
「どうやらお前が持っているそれを破壊しないと出られないみたいだな、オウエン。」
振り返った先で立っている意識を奪われたオウエンの手にはガードに黒い石が埋め込まれ歪な剣身をした赤銅色の剣が握られていた。
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