第045話 オウエンの経緯

「オウエン様!今までどちらにいらしていたのですか!?」


「騒々しい、何があった。」


 外出をしていたオウエン・ボストが滞在先の屋敷に戻ると従者が慌ただしく駆け寄ってきた。


「本国のボスト家から手紙が届いたのです!」


「届いたとはどういう事だ?父上から!?」


「差出人は不明ですが封にはボスト家の紋章があります。」


「寄こせ!」


 従者から奪うように手紙を受け取ったオウエンが手紙を裏返すとボスト家の紋章で封蝋されていた。

 封を切り内容を見て見ると差出人はオウエンの父からだった。


 読み進めると現在オウエンの祖国であるヴェロニカはここエクレシームから遥か西の光の壁の中に存在しているようだ。

 運が悪いことにヴェロニカから西方の光の壁の先には魔族が存在しており、何度か小競り合いを経てにらみ合いが続いていると書かれていた。


 さらに先を読んだオウエンはそこに書かれていた内容に怒りを覚えて手紙を持つ手に力が入った。


「くそ!やはりそうなったか!」


 そこに書かれていた内容はオウエンの父が何らかの形で死亡した際には貴族社会に倣い長男に爵位を継がせるというものだった。


「父上はボスト家を没落させたいのか!」


 長男が爵位を継ぐ事は貴族社会では普通の事なのだが幼い頃から兄達を見ていたオウエンはボスト家の未来を案じていた。


 宰相である父の姿を3兄弟の中で一番近い場所で見ていた長男は政の才能はあったが宰相の光と闇の部分を見過ぎた反動のせいなのか争いごとや政を好まなかった。

 さらに長男には戦の才能がなく盤を使う遊戯ですらまともに勝っている所をオウエンは見たことがない。


 ゆえに必要があれば戦場に赴き兵を鼓舞して指揮をとる宰相は長男には向かないとオウエンは思っていた。


 反対に次男はヴェロニカでは同年代の人達の中で名前が上がるぐらい剣や戦の才能に恵まれ一将軍を目指す分には問題ない才能を持っていたが本人のやる気に反して政の才能が人並みでこの緊急事態を乗り切れるほどの才能がある訳ではなかった。


 そんな兄達だからこそオウエンは爵位を継ごうと必死で努力を重ね父に兄達が向かないことを説得しつづけた。

 しかし、オウエンの主張は認められることは無かった。


 オウエンの父は国政を補佐する者として宰相自らが貴族社会から外れる行為を行う事を良しとしなかったのだ。

 貴族社会から外れる行為は例え小さなことでも前例を作ってしまえばそれがやがて当たり前となってしまう。


 その行為をしたのが宰相として仕えてきたボスト家となればなおの事である。

 オウエンが望むように次男、三男が長男を差し置いて爵位を継ぐことを認めれば今よりも頻繁に跡目争いが起こる事は必至。


 力を貸すと跡目争いを利用して寄ってくる他国の付け入るスキとなる。


 それに次男がやる気がある以上オウエンに爵位を譲ればボスト家でも跡目争いが起きる可能性があった。

 長年守り続けてきたボスト家を自分の代で分裂させるわけにもいかないと思っていたオウエンの父は向かないと知りながらも今回を期にもしもの時は長男に爵位を譲ることにしたのだ。


(父上は貴族社会とボスト家を大事に想い過ぎるあまり仕組みから外れる行為を恐れた。だから俺はこのエクレシームで・・・・。)


 継の顔を思い出したオウエンの顔が歪む。


(霧島継、アイツが変な正義感を出さずに邪魔さえしなければ今頃は!)


 ◇


「学園祭?」


 入学してから1年以上が経過した午後のホームルーム。

 古賀先生が黒板に書いた学校行事にこの世界の生徒達から疑問の声が上がった。


 どうやらこの世界では学園祭は馴染みが無いらしい。

 昼食でお腹一杯になって船を漕いでいたサリエと窓の外を眺めていたヴィンスが聞き慣れない言葉に興味を持ったのかこちらへと顔を向けると質問をしてきた。


「学園祭ってもしかして継達の世界の祭りなの?」


「お祭りって言っても生徒が主体的に行動して催す学園行事の1つだよ。僕達の世界では地域交流や生徒同士の親睦を深めるために開催されていたかな。」


「面倒な行事みたいだから皆にまかせてボクは隅で本でも読んでようかな・・・。」


 冬也の説明を聞いたサリエは嫌そうな顔をすると露骨にやる気が下がる。


「確かに準備は大変だけど参加すると案外楽しいと思うぞ。もしかしたらサリエがまだ食べたことない俺達の世界の料理を食べられるかもしれない。」


「どういう事?」


「学園祭は展示や音楽・講演の他にクラスが希望すれば模擬店の出店ができるの、この学園には私達のような日本から来た人がいるからどこかのクラスが出すかも。」


「じゃあ、頑張る!」


 彩奈の話を聞いたサリエは目を輝かせて露骨にやる気を上げる。


 う~ん、現金な子だな・・・。


「継さんも日本に居た時にはクラスで何かお店を出していたのですか?」


「いえ、俺の場合はお化け屋敷でした。」


「お化け屋敷?」


 フィエールさんが首を傾げる。


 通じないか、なんて言えば良いんだ?


 幽霊屋敷?

 でも幽霊だけじゃなかったりするしなぁ・・・。


「モンスターハウス?」


「日本の方達はそんな危険な出し物をするんですか!?」


 フィエールさんの中でどんな想像をしたのか知れないがとんでもない誤解をさせてしまったようだ。


「変装です!人間がモンスターの姿に変装して脅かすんです!」


「でも、それはこっちじゃ出来ないね。」


 必死に誤解を解いている傍らでヴィンスが困り顔で笑う。


「どうしてだ?」


「多分、死人が出るよ・・・。」


「あぁ~、うん、そうだな・・・。」


 お化けに驚いた客が魔法を使ったら最後、一瞬で教室が吹っ飛ぶな。

 おまけに翌朝の記事には『学園祭で謎の大爆発!?教室で倒れる生徒達!!』とか書かれるのだろう。


 死屍累々の教室内が目に浮かぶ・・・。

 うん、却下、普通に大惨事だわ。


 脳の片隅でバカなことを考えつつ古賀先生の話にも耳を傾ける。


「学園祭の開催期間は2日間、開催日は近々開かれることになっている剣魔大会を学園祭の最終日にして合わせる予定です。」


 剣魔大会とはパルヌス学園の育成力を披露する場であると同時に他国の人材の状況を調べに各国の賓客が見に来る行事でもある。

 また、剣魔大会で活躍して賓客の目に留まればスカウトされることもあるので生徒にとっても非常に重要な行事だ。


 実際、剣魔大会で活躍した生徒の中には有名な冒険者パーティや宮廷魔術師などから声をかけられ現在も活躍しているそうだ。


「剣魔大会か・・・、今回はやる意味がない大会だよな。」


「そうそう。」


 ただ今回の場合は例年とは事情が違うのでやる気が無い生徒が多かった。


 原因は光の壁だ。

 光の壁のせいで例年通り各国から賓客やスカウトが集まらないからである。


「皆がそういうと思ってスタリエ学園長は例え優勝が出来なくても本選に出場した生徒の中から実力に見合う者がいれば希望するところへ推薦状を出すと言っていたわ。」


「それじゃあ!」


「見合う実力は必要ですが学園側も出来る限り皆の希望に沿うよう手を尽くしてくれるということです。それに貴族の地位を持つ生徒やエクシーム国内に足止めされている賓客の方々も見ているはずだから出場することは決して無駄じゃないはずよ。」


 古賀先生の言葉に生徒達が一気に騒めきたつ。

 本選で運悪く相性の悪い相手とぶつかってアピール出来なかったとしても実力さえ見合えば学園が後押してくれるのは多くの生徒達にとって悪くない話だ。


 むしろ、スカウト待ちよりもよっぽど希望がある。

 生徒の性格や能力を把握している学園側としても後々になって『見合っていませんでした。』と離職する卒業生の数を減らすことが出来るはずだからある意味win―winなのだろう。


「参加希望者は自薦。予選を突破した生徒が本選に出場できるわ。希望する生徒は締め切りまでに私に連絡してください。」


「継も出て見たら?優勝できるかもしれないよ?」


「俺はいいよ、推薦状が必要な訳でも無いし。」


 修行で鍛えた今の自分の力を試してみたい気持ちもあるが出る理由と必要性が特に無かったのでスルーを選択して脳内を学園祭に切り替えていると古賀先生から声を掛けられた。


「あ、そうそう。それと霧島くん達は放課後に学園長室に行ってください。ローラさんから話があるそうです。」


 再び呼び出された俺達は顔を見合わせるが心当たりがない。


 また呼び出しか、今度は一体何の話だろうか。


 放課後、皆ですぐにローラさんが待つ学園長室へ向かう。


 ◇


「度々皆さんをお呼び立てする形になってしまい申し訳ありません。」


 学園長室に入るとローラさんが申し訳なさそうに俺達に頭を下げた。


 前回呼び出された時は遺跡調査という面倒事の依頼だったから今回も同じで何かの依頼だろうか?


「話が長くなるので席についてください。」


 言われるがまま各々席に着くとローラさんがスタリエ学園長に目配せした後テーブルに1枚の写真を置いた。


「オウエン?」


「えぇ、そうです。今回皆さんに集まってもらったのはこのオウエン・ボストが関係してます。」


「そっか、その事でボク達を呼んだんだね。」


 サリエには何か心当たりがあったらしく一人で納得する。


 全く話が見えて来ない。


 俺を含めた他の仲間は話が見えず困惑しているようだ。


「サリエ、どういう事なんだ?」


 いくら考えても話が見えて来ないのでサリエに聞き返すと代わりにローラさんが答えてくれた。


「野外活動でハウリング・ディアに襲われた件と遺跡調査の際に通路が爆発して閉じ込められた件、この2つにはオウエンが関わっています。」


「どういうことでしょうか?」


 先程まで静かに聞いていたフィエールさんの眼が鋭くなる。


「全ての始まりは入学式前、ヴェロニカのボスト家から始まっていました。」


 ローラさんはオウエンがなぜこのような事を起こしたのか経緯を1つ1つ順番に話していく。


「ボスト家は代々宰相として仕えてきた家系ですが現在のボスト家は長男・次男共にあまり才に恵まれなかったようです。ボスト家の将来を案じた三男のオウエンは自身を磨き爵位を自分に継がせるよう説得したようですが上手くいかず失敗しました。その後パルヌス学園に通う事になったオウエンはここエクレシームで自分の存在を知らしめ説得の材料にしようと考えるようになります。」


 なるほどな、エクレシームで名が知れ渡るという事は異世界中に名が知れ渡るも同じと考えて周囲から一目を置かれようとしたんだな。

 きっと『オウエンに爵位を継がせないボスト家はおかしいのでは?』という雰囲気作りをしようとしたのだろう。


 あわよくばボスト家と関りがある人物からそれとなく口添えに似た様な事もしてもらうつもりだったかもしれない。


「オウエンの従者に聴取したところ、オウエンが地球の方々に不遜な態度をとっていたのも人間至上主義ヴェロニカの態度を示しつつ周囲から恐れられることを知らしめる行為の1つだと考えていたからだそうです。」


 そんなくだらない考えの基であいつは揉め事を起こしたのか。


「入学式後霧島さんに敗れたオウエンは霧島さんに敵意を持つようになり、経済的問題を抱えていたビーストテイマーを雇って野外活動でハウリング・ディアを使い襲わせました。」


「魔獣に襲われたのは偶然じゃなかったのね。」


 隣にいた彩奈が不機嫌な声でつぶやいた。


 あの時人の気配がしなかったのは雇われたビーストテイマーの気配の隠し方が上手かったからなんだろう。


 ちなみそのビーストテイマーの身柄はすでに拘束して地下牢に閉じ込めているそうだ。


「それにしてもよくビーストテイマーの仕業だと気づきましたね。」


「それに関してはサリエのおかげです。」


 少しだけ誇らしげな顔をしたローラさんがサリエを見た。


「ハウリング・ディアは元々ヌブユ大森林には存在しない魔獣なんだ。それに以前ハウリング・ディアが載っている本を読んだ時に霧を発生させるなんて一言も書かれていなかったから誰かに襲われたんじゃないかって思ったんだ。ただ、もしかしたら異界変災後にヌブユ大森林でハウリング・ディアが生まれるようになっていた可能性も捨てきれなかったから母様に頼んで調査してもらったんだ。」


 サリエがそう答えるとローラさんは手に持っていた資料に目を向けて調査結果を簡潔に口にする。


「結果、ヌブユ大森林で他のハウリング・ディアの生息は確認できず、霧魔法も使用する事例がないことが分かりました。人為的なモノと判断した私はさらに調査を進めたところビーストテイマーに行きついたという訳です。」


 そもそも生息しない、新たに生まれた様子も形跡もない、霧の魔法も使わないと分かれば残りは外から魔獣を入れたと考えるのが自然な話である。


「野外活動で起こっていたことはわかりましたけど、遺跡調査の時までオウエンが?」


「はい、調査報告を基に改めて調査したところ爆発した場所の不自然さが浮き彫りになりました。爆発した通路を調査したところ逃走経路を塞ぐための爆発というよりも通路そのものを破壊する爆発だった事がわかりました。」


 思い返してみれば爆発に気づいて振り向いた時に塞がっていたのは入って来た入り口じゃなくて通路そのものだったかも。


「それと・・・。」


「もし魔法罠なら<透視>で気づけたはずって事かな?」


 とローラさんが説明する前にヴィンスが自分から割り込んだ。


「えぇ、そうです。」


「スキルで見破れない罠じゃない限りあの通路には罠は無かったよ。だからこそ、爆発した時には驚いたけど。」


「これらの事から第三者による意図的な破壊があったと結論付け、御者に不審人物がいなかったか聴取しました。すると当時遺跡から距離をおいて休んでいた御者は遺跡の方から一人の男子生徒が出てくるのを目撃していました。そして、その生徒というのが遺跡に近づくことを許可されていないオウエンの従者でした。」


「通路を爆破したのがオウエンの従者だとして、どうしてそこまで継さんに拘るのでしょうか?」


「一言で言ってしまえば逆恨みですね。遺跡調査の少し前、オウエンは自分が貴族の間で『魔法も満足に扱えない相手に負けた無能貴族』と呼ばれていることを知り『このままでは爵位を継げない。』と漏らしていたそうです。」


 貴族の間でオウエンがそんな風に呼ばれていたなんて初耳の話だ。

 冬也とヴィンスに視線を送ると二人とも首を振った。


「ボスト家の現当主は厳しい人らしいから自分から問題を起こして馬鹿にされたオウエンじゃ宰相は務まらないと判断していただろうね。」


 つまり致命的って事か。

 ヴェロニカ出身のヴィンスから見てそう思うならボスト家の当主もきっと同じような判断をしていただろう。


「その上、良くも悪くも霧島さんが注目されるたびにオウエンの存在は薄くなり当初の目的も果たせずにいたので敵意が恨みへと次第に変わり、拘るようになったでしょう。」


 ボスト家にも事情があったのだろうが自業自得の上に逆恨みとは傍迷惑な奴だ。


「通路を破壊した従者はどうするつもりなんですか?」


 従者の身柄の扱いをスタリエ学園長に質問してみる。


「勿論、身柄を押さえるわ。だけど、オウエンを捕まえるためにはビーストテイマーの自白とオウエンの指示だったという従者の証言だけでは決定打に欠けるわ。」


「じゃあ、どうするんですか?」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりにスタリエ学園長の顔に笑みが浮かぶ。


「継ちゃん、剣魔大会に出てオウエンと戦ってくれないかしら?」


「剣魔大会にですか?」


 スタリエ学園長から提案された予定外の剣魔大会出場に俺は身構える。


「そうよ、己の存在を世界に知らしめるためにオウエンは必ず剣魔大会に出場するわ。そこで継ちゃんと戦う事になれば3度目となるオウエンは直接的な行動を仕掛けてくる、と私は踏んでいるわ。仕掛けてくる手にもよるけど筋書きはそうね・・・、試合中での事故死って所かしら?」


 さらりと恐ろしいことを口にするスタリエ学園長に彩奈は根本的な疑問を浮かべる。


「でも、本当にそんな事をするんですか?」


 彩奈が疑問に思うのももっともの話だ。

 いくら恨みを買っていたとしても観客という大勢の目撃者の前でそもそも捕まるようなことをするだろうか?

 俺なら絶対にしない。


「これが届く前ならしないでしょうね。」


 スタリエ学園長は彩奈から疑問をぶつけられると机に置いてあった2枚の紙を手に取った。


「その紙はなんなの?母様。」


「これはヴェロニカのボスト家からオウエンに送られた手紙の写しよ。」


「どうやって手に入れたのかは聞かない方が良いのかな・・・?」


 苦笑いした彩奈がこちらを見る。

 軍事力は持たない反面、人知れず陰で動く人材は豊富って訳ね。


「スタリエ学園長は今ヴェロニカからと仰いましたがヴェロニカもエクレシームのように継達の世界と繋がっているんですか?」


「手紙によるとそうみたいね。ヴィンスちゃんも見る?」


 そういうとスタリエ学園長は俺達に手紙の写しを見せてくれた。


 写しにはヴェロニカはエクレシームから遥か西の光の壁の中に存在していること、ヴェロニカから西方の光の壁の先には魔族が存在し睨み合いが続いていること、それと当主の自分に何かあった際には長男に爵位を継がせることが書いてあった。


「何かあれば長男に爵位を継がせると決まりオウエンは焦っている。後が無くなった以上、今のオウエンの精神状態ならば例え問題になろうと最終的に有力貴族が実力を認めればそれで良いと考えている可能性は高いわ。」


「異なる世界の平民が事故死したところで外交問題上極刑にはならず交渉で解放されると考えている可能性もありますね。」


 ローラさんが別の可能性をさらに上乗せする。


「それって一種の賭けですよね?」


「そうね。でも、追い詰められている人程賭けに走りやすいのも事実でしょ?」


「「「・・・。」」」」


 スタリエ学園長の言葉に心当たりがあったのかその場にいた全員がそれ以上何も言わなかった。


「ともかく、剣魔大会の本選で継ちゃんとオウエンが戦えるようにしておくから継ちゃんは普通に負かしてくれれば良いわ。そうすれば勝手に尻尾を出すはずだから。」


「私からもお願いします。オウエンの身柄は私が押さえますので協力してくれませんか?」


 ローラさんが頭を下げる。


 あの時、俺が見て見ぬフリをしていればここまで大事にならなかったのかもしれないが放っておけなかったのだから仕方がない。

 面倒事になると分かりながらも俺はオウエンを止めに入った。


 自分から首を突っ込んだのだから幕を引くのも首を突っ込んだ俺の役目だよな。


「わかりました、剣魔大会に出ます。」


「ありがとうございます。」


「継ちゃんならそう言ってくれると思っていたわ!」


 喜んでいるスタリエ学園長と胸に手を当てて安堵するローラさんを見ていると彩奈が心配そうに尋ねてきた。


「継くん、良かったの?」


「自分から首を突っ込んだことだからな。それに知らないうちに皆を危険にさらしてしまった・・・、自分の尻ぬぐいは自分でするさ。」


「継くんがそこまで言うのなら私はもう何も言わない。協力できることがあったら言ってね。」


「あぁ。」


 その後、ローラさんからの剣魔大会までの流れを聞くと予選は自力で突破する必要があるそうだ。

 一応、予選でオウエンを叩くのはダメなのか聞いてみるが予選には生徒以外の観客が居ないためオウエンが仕掛ける意味がないそうだ。


 予選を実力で突破してもらう理由としては来賓客が見ている本選に実力が無い者を出すわけにはいかないからという学園側の都合。

 ちなみにオウエンは実力的に予選落ちする心配は無いらしい。


 一通り話を聞き終えた俺は考える。

 オウエンを捕えると決めた以上過去を振り返らず今の俺に足りないモノは何かを。


 ゲオルグ先生との修行のおかげで剣術の経験は順調に積めている。

 不安があるとすればやはり魔法だろうか。


 汎用的な闇魔法は扱えるようになっているがその先にある固有魔法つまりは特色ある魔法を会得できていないのだ。

 剣魔大会までの時間を魔法修行に充てる事に決めた俺はフィエールさんとサリエに付き合ってもらう事にした。

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