第043話 なんだか大変な事になっちゃったね。
「デルゼーさん最近儲かっているみたいですね。」
デルゼー商会の応接室に来ていた俺は某有名アニメの司令官のように指を組みながら話しかける。
「実際に使用していただいた霧島様の感想を付けてミスティックアイアン製の鍋を売り出したところ売上が伸びて繁盛させてもらっていますよ。」
「学園とも定期的な卸契約が出来たとか?」
「よくご存じで。」
なぜ俺がそんな事を知っているかというとサリエから聞いたからだ。
鍋を購入した後でサリエに入手経緯を話した俺は入用の際にはデルゼーの店を利用して欲しいと頼んだ。
するとサリエは何を思ったのかスタリエ学園長に口利きしてパルヌス学園とデルゼー商会の間で卸契約を結ぶことになったと事後報告してきたのだ。
学園では学食の食材から魔法に使う触媒まで幅広く扱うためデルゼーはかなり儲かっているはずである。
「ところで、霧島様はなぜそのようなポーズを?」
状況が飲み込めないデルゼーは俺の後ろで控えている冬也に助け船を求めた。
「あ、ポーズは気にしなくていいですよ。特に意味は無いですから。」
「・・・。」
あのもしもし?冬也さん?
そんな風に言われると雰囲気作りをしていた俺の立場が・・・。
空気が読めすぎるのも考え物である。
「はぁ、そうですか・・・。それで今日はどのようなご用件で?」
「ごほん、実はですね。デルゼーさんに協力して欲しいことがありまして。」
俺は袋からステッキとブレスレットを取り出してテーブルの上に置いた。
~1か月前~
俺はあるルーン文字が刻まれた魔石を買うためエクレシーム内にある魔石屋を巡っていた。
「無いな・・・。」
これで5軒目、魔道具を作ってみようと思ったのだが肝心の魔石が集まらない。
「おじさんに相談してみるか・・・。」
お目当ての魔石を探すことを諦めた俺はドランクが居る武器屋に行くことにした。
「おじさんいる?」
「最近噂になっている小僧じゃねーか。」
ニヤニヤしているおじさんの顔を見てロクでもない噂だと確信する。
「どうせ、くだらない噂だろ?」
「聞きたいか?」
「やめとくよ。」
ここ最近さらに打ち解けてきたのかドランクから揶揄われるようになり俺も口調が友人と接するように崩れてきた。
「んで、今日はどうした?」
「変身魔法が刻まれた魔石を探しているんだけど何処にあるか知らない?」
「そんなものを探して何をする気だ。」
「実はおじさんにも協力して欲しいんだけど、これを作ろうかと思って・・・。」
俺はドランクにステッキとブレスレットが描かれた設計図を見せた。
「おい小僧、これはなんだ?」
「誰でも憧れの勇者やお姫様、魔法少女の恰好に変身できる魔道具だよ。」
「勇者やお姫様ってのは分かるがわざわざ魔法少女、つまりはお前のところのサリエみたいな恰好をしたい奴なんているのか?」
こっちの世界では当たり前の恰好なのでドランクには需要があるようには思えないようだ。
「それが俺達の世界には居るんだよ。コスプレイヤーの人とか朝のアニメを見ている子供とか割と居ると思う。」
「ふぅ~ん、ま、よく分からねぇが協力はしてやる。」
「助かるよ、おじさん。話を戻すけど変身魔法が刻まれた魔石を探しているんだけど知らない?」
「小僧には悪いが探しても無いだろうな。」
魔石を頻繁に扱うドランクならば良い店を知っていると思って聞いてみるが腕を組んだドランクから返ってきた返事は望ましいものではなかった。
「どうして?」
「そりゃ、需要が無いからだろ。」
わざわざルーン文字を刻んでまで使うような魔法じゃないって事か。
だとするとルーン文字を魔石に刻んでもらうしかないのか・・・。
ルーン職人に依頼すると料金がそれなりに掛かるので協力者が欲しいところだな。
「おじさん、ルーン職人以外でルーン文字を刻める人が居たら紹介してくれない?」
「居るには居るが・・・。」
「その人紹介して!」
言い淀むドランクからして訳アリの人物のようだが頼みの綱がそれしかない以上それに縋るしか今はない。
渋るドランクに頼み込み紹介してもらう事になった。
「邪魔するぞ、ネレ。」
「あらぁ、珍しいわねぇ。あなたがここに来るなんて。」
魔術師コートを着た女性が出迎える。
ドランクに連れて来られたのは前に紹介された合成屋だった。
「ふん、お前さんに頼みたいことがあるからな。」
「それは後ろに居る見覚えのある子の事かしら?」
「実は・・・。」
経緯を説明するとネレは頬に手を当てて悩んでいるようだった。
「前にも言ったと思うけどここはお店よ。ただで売っているものはないわ。」
「やはり金か。鉱石魔術なんかしているから万年金欠なんだ、お前は。」
「ルーン文字を刻めるのも才能なのよ?才能を安売りするバカはいないわ。」
ドランクとネレの間に火花が散る。
「小僧悪い事は言わん、他の奴に頼んだ方が良い。」
「ちょっとぉ、やらないなんて言ってないでしょ?」
「協力してくれるんですか?」
「貰い過ぎた対価を払うだけよ。」
火花を散らし合っているが紹介先にここを選んだという事は喧嘩する程仲が良いか腕を認め合っているのだろう。
ネレの気が変わらぬうちに複数の小型の魔石に変身魔法を刻んでもらうと再びドランクの店へと戻りステッキの作成に取り掛かる。
ドランクと相談した結果、子供向けに作成するのでステッキの土台は森の淑女と呼ばれる美しいケイトの木にすることにした。
ケイトの木は硬く子供が雑に扱っても簡単に折れたりしないとのことだ。
「とりあえず、加工した魔石を先端に付けて見るか。」
ステッキの先端にドランクが加工してくれた星形の魔石を付けて装飾もない簡素なステッキが完成する。
「それっぽくなってきたな、ちょっと変身して見るか。」
だが、ここで俺はある事に気づいて頭を抱えることになる。
変身魔法が使えても使用者がイメージ通りに変身する事が難しいという事に気づいたのだ。
さらに魔力を上手く扱えない子供は使用できない事にも気づいてしまった。
一番最初に気づかなければいけない初歩的なミスである。
これじゃあ、ただの魔石が付いた棒だ。
「どうすれば良いんだ・・・。」
解決策を見つけられないまま暇を探しては武器屋で悩みつづけて十数日が過ぎた頃冬也が武器屋にやって来た。
「行き詰っているみたいだね。」
「そうなんだ、魔力問題の方は液化した魔力吸収の魔石(小型)をステッキの中に流し込んで他の魔石と連結加工することで解決したんだけど、変身魔法の方がな。」
「継が考えた設計図を見ても良い?」
「あぁ。」
冬也に先端に魔石が付いた魔法少女が持ちそうな装飾されたステッキと魔石が付いた銀色のブレスレットの設計図を見せる。
「子供は大人と違って細部まで細かく具体的なイメージを想像する事が難しいから自分が想像したようには変身できないかもね。」
「広場にいた子に試作品のブレスレットで変身してもらった事があるけど段ボールで出来た鎧みたいだったな。」
冬也はルーン文字が刻まれた小型の魔石と設計図を見ながら隣でしばらく考えると1つの提案をしてきた。
「いっそのことイメージを固定してしまえば良いんじゃないかな?」
「使用者のイメージに任せるじゃなくて初めからこっちで変身後の姿を固定しとくのか。良いかもしれないな。でも、どうやってそんな事をするんだ?」
「ルーン文字で出来ないかな?」
「合成屋のネレさんがルーン文字を使えるから聞いてみるか。」
合成屋に向かった俺達は特定のイメージをルーン文字で魔石に刻めないかネレさんに聞いて見た。
「出来るか、出来ないかで言えば出来るわよ。」
ネレさんの説明によるとこの世界のルーン文字は言ってしまえば文字そのモノが魔法陣や術式みたいなモノで、ルーン文字を刻む時に特定のイメージをしながら刻めば発動した魔法がイメージ通りの形になるそうだ。
通常は誰でも使えるように無心で刻むのでランタンなど同じ魔道具を比べても『文字の美しさ』『魔石の大きさ』『魔石の魔子純度』で出力等の多少の違いは出てくるが使用されている魔石の効果はほぼ一緒だと教えてくれた。
「残りはデザインだな。」
「アニメやゲームから直接引っ張ってくるのは止めた方が良いよ。著作権に引っかかるから。」
「ヴィンスはどうだ?絵が上手かったよな?」
「ちょっと待ったあぁぁ!」
突如合成屋のドアが大声と共に勢いよく開いた。
ドアを開けた人物を確認するとそこに立っていたのは宿泊先の店主だった。
「待たせたな。」
いや、一ミリも待っていませんけど。
「なんでここに店主が?」
「宿の方は良いんですか?」
「面白い事をしていると聞いたから宿は休みにしてきた。」
仕事を放棄して来ている!?
今頃彩奈達が食事で困っているんじゃないのか・・・。
宿に戻ってから彩奈達に何か聞かれても俺達は『店主の事は何も知らなかった。』と押し通そう。
「話は聞かせてもらったデザインをする人材が必要なんだって?なら、俺に任せな。」
「任せなって本当にできるんですか?」
「おいおい、店に置いてあるフィギュアを見ただろ。あれをデザインして作ったのは俺だぜ?」
フィギュアを褒めた時に上機嫌だったのは店主が作ったからか。
『密かに流行っている』と言っていたけど客に毎回同じことを言って流行らせようとしているんじゃないだろうな・・・。
自作自演という店主のどうでもいい疑惑が浮上してきたが店に置いてあったフィギュアは細部まで造り込まれていて良くできていたのは確かだ。
デザインも自分でしているみたいだから期待できるかもしれない。
「何か書いてもらったら良いんじゃないかな?」
「そうだな、魔法少女は描けますか?」
「少し待っていてくれ、描くものはあるか?」
店主はネレさんからペンと紙を受け取ると合成屋の一室を借りて描き始めた。
「どんなデザインを描くんだろうね?」
「店のフィギュアを見る限り案外王道かもしれないな。」
きわどいデザインを出そうものなら即ローラさんに連絡して監視対象に入れてもらおう。
「色が塗れないが残念だが一応出来たぞ。」
20分経過して描きあがったデザインをネレさんも加えて確認して見る。
「へぇ、人には見かけに依らない才能があるというけど本当なのねぇ。」
ウサ耳が付いている時計が先端に付いたステッキと本を持った魔法少女が描かれている紙を見ながらネレが感想を口にする。
「衣装に水色と白を入れてやりたかったのが心の残りだな。」
店主としても会心の出来だったのか悔しそうに自分が描いた絵を見ている。
水色と白色、そして時計にウサ耳とくればこのデザインの基になったのはアリスだろう。
フリルの付いた青いドレスと襟付きのエプロンをリボン多めに魔法少女の衣装に落とし込んでいる。
「凄く可愛いね、これなら女の子も気に入ってくれるんじゃないかな?」
「あぁ、これならいけるかもな。」
全ての問題が解決したので後日改めて試作品を作成することになった。
店主のデザインが仕上がるまでの間、俺はクエストの報酬で材料を集めることにした。
途中彩奈から『変身の時に星が出たら可愛いかも』という何気ない一言を聞いた俺はフィエールさんと一緒に簡単な幻惑魔法でどの程度まで変身演出ができるか研究し魔石を用意した。
「で、どうしてボクが呼ばれたのかな?」
ステッキとブレスレットが完成したので試運転のためにサリエを呼んだのだが呼ばれたサリエは不満そうな顔をしている。
「完成したステッキを試しに使ってもらうだろ?」
「僕達がステッキを使っても良いけど女の子用に作成した物だから参考にはならないんだよね。」
「3人の中でボクが一番魔法少女の衣装が似合いそうだから呼ばれたんじゃないの?」
サリエが疑いの眼差しを俺達に向けてくる。
「いやいや、そんな訳ないだろ!?なぁ、冬也!!」
「うん、うん。」
図星を付かれた俺と冬也は冷や汗を流しながら激しく頭を振るい否定する。
すみません、本当はそんな理由で呼びました。
完成したステッキを一番最初に誰に使用してもらおうかと考えた時に俺も冬也もサリエで即答でした。
「全くもぅ~、これがそうなの?」
「使ってみてくれ。」
用意したのはアリス風・ゴシック風・プリンセス風の3本のステッキとブレスレット型を2本だ。
ブレスレット型は図書室にあったデュプテルス神話の英雄の挿絵を基にドランクと店主の3人で相談しながら2本作成した。
「いくよ、ドレスアップ!」
サリエが魔石を発動させると小型の魔石よりもさらに小さいステッキに埋め込まれた魔石からきらめきエフェクトが生み出されサリエの姿がゴシック風魔法少女へと変化する。
「よし!」
上手く変身している姿を見た俺は小さくガッツポーズをした。
「上手くいったね!」
「サリエ、変身して体に違和感とかないか?」
「大丈夫だよ。」
サリエには具体的なデザインを教えていないのでゴシック風魔法少女に変身できたということはルーン文字が正常に機能している証拠でもある。
「これは思った以上に良いのが出来たな。」
ドランクも大絶賛しているので間違いなく成功だろう。
「これで商売をする気はないのか?」
「人に売るって事?」
「そうだ、さっきも言ったがこれは思った以上に良い出来だ。きっと売れるはずだ。」
~ 現在 ~
「なるほど~、確かにこれは売れそうですね。」
(仮名)シンデレラステッキと(仮名)チェンジブレスレットを手に取ったデルゼーは価値を探るように眺める。
「型はステッキとブレスレットだけなのですか?ネックレスやイヤリングといった別型もお考えなのでしょうか?」
「一応考えてはいますが・・・?」
「さすが霧島様です。」
何が!?
「ネックレスやイヤリングの型を考えているという事は当然貴族も狙いにしているという事でございますね!」
「え?」
そこまで考えて無かったんだけど・・・。
「うちで売りましょう。いや、ぜひ売らせてください!」
「なんだか大変な事になっちゃったね。」
俺もそう思う。
段々大きくなる話にさすがの冬也も苦笑いをしている。
「良いですけど、ちょっとした条件を呑んでくれませんか?」
貴族に売るつもりは無かったのだがお金の匂いに敏感なデルゼーがここまで乗り気ならこのまま勢いに任せてみても良いと思った俺はある条件を出すことにした。
「どのような条件でしょうか?」
「条件は3つです。まず貴族に手紙を送ってください。内容は新作魔道具の実験の手伝いの募集、対象は貴族の子供、万が一ケガなどする場合があると必ず書いてください。」
「わかりました。ですがよろしいのですか?それでは集まらないと思うのですが・・・。」
「それで良いんです。」
代わりに答えた冬也が後ろで笑っているので俺の考えは見透かされているようだ。
「2つ目は俺が居た東瀬の避難所の子供達に無料で配って欲しいんです。」
「なぜそのような事を?」
なぜここで東瀬の避難所の事が出て来たのか分からずデルゼーは疑問の表情を浮かべる。
「俺がこの魔道具を作成しようと思った一番の理由は避難所の子供達に娯楽が無いと思ったからなんです。行きたい場所に行けない。遊びたいもので遊べない。だから、この魔道具でごっこ遊びですけど楽しんでくれればと思ったんです。」
「そうでしたか、そのような経緯があったのですね。わかりました、必ず避難所の子供達に届けましょう。」
力強く頷いてくれるデルゼーならば必ず届けてくれるだろうと信用した俺は最後の条件を伝える。
「最後の条件はデルゼーさんの裁量で貴族には吹っ掛けてください。」
最後の条件は貴族から取れるものは取ってしまえというものだ。
貴族用の商品も用意する事になりそうなのでデルゼーの頑張り次第では売上がいくらだけでも伸ばせるし、やる気も出るだろう。
全ての条件を呑んだデルゼーは商売人の鏡の如く行動が早かった。
数日のうちにエクレシーム内にいる全ての貴族宛に手紙を送り、ステッキとブレスレットを積んだ荷馬車を東瀬の避難所へと送り出してしまったのだ。
それから程なくしてステッキとブレスレットを売り出すとドランクの予想通り大当たりした。
エクレシーム内だけではなく行商人からも注文が殺到して在庫が足りなくなってしまうほどだった。
そういった状況下でもデルゼー商会には今日も子供にせがまれた貴族が買い付けに来ていた。
デルゼーと貴族がいる応接室の隣の部屋にいた俺は聞こえてくる声に耳を澄ました。
「お前の所で扱っているステッキとブレスレットを融通してくれないか?」
「私も融通したいのですが何分在庫がないのでこれくらいになりますが?」
「一部の平民には無料で配っていたと聞いたが?」
デルゼーからどれだけふっかけられたのだろうか提示された額を見た貴族の怒気を含んだ声が聞こえてくる。
「あれは実験に協力していただいたお礼として差し上げた物でございます。」
先行で配ったステッキとブレスレットの魔石にはルーン文字でシリアルナンバーを彫ってあるのでルーン文字が読めない貴族が奪っても即バレる仕様となっている。
「それに私は貴族の皆様にも手紙で協力依頼を頼んだはずですが?」
「そ、それは・・・、あのような魔道具なら私の子も協力していた!攻撃魔法でもないのだからケガをするわけないだろう。貴様は我々貴族を騙したのか!」
俺がわざわざ条件まで出して『万が一ケガなどする場合ある』と書かせた理由はここにある。
敢えてこの一文を入れることで貴族から協力を断らせ、こちらに立場的優位を作ることが目的だったのだ。
手紙の真意に気づいた貴族は怒るかもしれないがそこはデルゼーの手腕頼み、上手にやってくれるだろう。
「とんでもない。今の時代何が起こるか分からないのは貴族だろうと平民だろうと皆同じでございます。誰が異世界と繋がると想像できましたか?私には想像できませんでした。」
笑ってしまいそうになる白々しいデルゼーの演技はさらに続く。
「商品に使用されている魔石は異界変災後に異世界(日本)でできた魔石でございます。魔石が異界変災でどのような変化を起こしているのか専門外の私には見当もつきません。ですので、貴族の皆様に協力のお願いは出来ても絶対の保証はできないのです。」
東瀬の避難所で商売をしていたデルゼーはV1以外の魔石には何ら問題ない事を知っているが今の外の世界を知らない貴族にはそれを見抜ける術はない。
「お求めになっている商品を買いに来るお客様には私共の立場を理解していただいた上でお買い上げいただいておりますが貴方様はどういたしますか?」
「足元を見よって・・・、いるか!こんなもの!」
デルゼーが嘘を言っているのは分かっているがどこまでが嘘なのか見抜けない貴族は怒り席から立ちあがるとドアに向かって歩き出した。
すると今度は惜しそうな声でデルゼーはこう言った。
「そうですか・・・、それは残念です。ケウ様はオーダーメイドでお買い上げいただいたのですが・・・。」
「なに?」
ライバル視している人物の名前を出されて貴族は思わず立ち止まる。
「どうなさいました?」
「オーダーメイドで買ったとはどういうことだ?」
「言葉通りでございます。今流通している商品はあくまでも平民用でございます。貴族の皆様にはご希望のデザインに変身できるモノをご用意できます。」
デルゼーが資料用の絵をいくつか広げて見せると貴族は席に座り直して一枚一枚まじまじと見ていった。
「可愛さの中にどこか気品があるな、こっちは黒と赤で薔薇と呼ばれるものをイメージしているのか。」
「これはあくまでも資料です。私の下にはこういったデザインが得意な者がおりますのでご要望があればご希望のデザインに変身できます。一部のご婦人からは着替える手間が面倒だったので助かったと喜びの声も届いております。」
貴族は自分の妻も社交界のたびに着替えるのが面倒だと愚痴をこぼしていたことを思い出した。
「いくらだ?」
「何がでしょうか?」
「オーダーメイドの値段だ!いくら出せば売ってくれる!」
貴族から引き出したかった言葉を引き出したデルゼーは心の中でほくそ笑む。
「そうですね、まぁこれくらいは。」
デルゼーに任せておけば大丈夫そうだな。
売上は作成に関わった人で分ける形になっているが結構な額が予想されるので赤字の心配は無いだろう。
~ 後日談 ~
デルゼーの話によると東瀬の避難所にいる子供達はとても喜んでいたそうだ。
それと隠していた訳ではないが考案者である俺の名前がエクレシーム内でいつの間にか広がり、貴族と平民の間で温度差があるもののちょっとした有名人になったらしい。
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