第041話 名も無き遺跡の調査

 翌日、朝一で学園長室に向うとそこにはスタリエ学園長、ローラさん、ヴィンスが居た。


「ヴィンスも来ていたのか。」


 普段のクエストならヴィンスにも声を掛けていたのだが今回は学園側の依頼だったので声を掛けず学園長室に来ていた。


「継達を呼んだ張本人だからね。」


「どういうことだ?」


「ここからは私が。」


 間に割って入ったローラさんが説明を始める。


「今年度に入りエクレシーム領内をくまなく調査する機会がありました。その結果、領内のある地域で新たにダンジョン、失礼、まだ断定はしていませんね。遺跡が見つかったのでその調査に協力して欲しいのです。」


「お話は分かりましたがどうして俺達に?冒険者ギルドに依頼すれば良いのでは?」


 依頼内容は分かったが俺達にわざわざ話が回ってきた理由が分からない。

 そういう事をこなすのが冒険者ギルドなのでは?


「学園側から冒険者ギルドに依頼を出しましたが並みの冒険者では遺跡内の罠を突破する事ができませんでした。そこで我々はヴィンスさんが持っている<透視>に目を付け、依頼をお願いしたところ条件付きで受けていただく事になりました。」


「じゃあ、その条件というのが。」


「継くん達となら構わないってこと。私としても遺跡内に機密になるような重要なモノがあるか分からない以上、信用できる人物にまかせたい。」


 スタリエ学園長からは普段の軽い口調はなく、真面目な顔つきをしていた。


「だから、継くん達が引き受けてくれると助かるわ。」


 冒険者は裕福ではない、金銭的に困っている割合の方が多い。

 宝物ならば問題ないがもしも別の何かだった場合、金に換えられそうなモノがあれば黙って換える者もいるだろう。


 それが禁じられた魔道具とかだったら一大事だ。

 エクレシーム側としては遺跡の調査はしたいが重要な事は多くの者には知られたくないという我儘な立ち位置のようだ。


 この分だと冒険者も選り好みをして依頼していた可能性があるな。

 色々と突きたい所はあるがエクレシーム側の大体の事情は分かった。


「ヴィンスはどうして僕達を指名したんだい?高ランク冒険者と調査することもできたと思うんだけど?」


 冬也が当然の質問をヴィンスに投げかけるが返ってきた答えは単純だった。


「知らない冒険者に自分の命を預ける気がないだけだよ。戦闘になった時の立ちまわりを考えたら例え高ランク冒険者でも預ける気にはなれない。」


 なるほどな、未調査遺跡を初見パーティで潜入か・・・。

 確かにハードルが高いな、俺も絶対に断るな。


 それに今回はヴィンスを先頭に罠を見つけながら調査しなくてはならないので安心して背中を任せられる人物の方が良いのも確かだ。


「どうでしょうか?皆さんに今回の依頼を受けていただきたいのですが?」


 ヴィンスの<透視>があれば罠はなんとかなるはず。

 問題があるとすれば細々とした準備くらいだろうか。


 冬也達に目配せをするが反対する者はおらず、特に反対する理由もない。


「分かりました。その依頼、受けます。」


「ありがとうございます。場所はここから南東の平原、遺跡までは南門前に馬車を手配していますので準備が済み次第向かってください。」


「分かりました。」


 ◇


 継達が準備を済ませて遺跡に向かっている頃、学園では噂が流れていた。


「ねえ、聞いた?霧島君達の噂。」


「えぇ、聞きましたわ。場所までは分かりませんが冒険者が失敗した遺跡の調査に向かったとか。」


「どうやら本当みたいなの。南門に向かう姿を見た生徒が居たみたい。その子の話によると何でも冒険者ギルドからじゃなくてスタリエ学園長からの直々の依頼みたいなの!」


「えぇ!じゃあ、この国が実力を認めた人達ってこと?・・・あっ!」


 噂話で盛り上がっていた生徒たちがある人物を見つけて慌てて話をやめた。


「クソ、クソ、クソ!」


 学園の各所が噂話で盛り上がる中、苛立ちを隠しもしない人物、オウエンである。

 二人の従者を連れたオウエンは継達の話が耳に入るたびに周囲を睨みつけて話を止めさせる。


「オウエン様、あまり気にしない方が宜しいかと。」


「うるさい!」


 気の弱そうな従者が宥めるように言葉を掛けるがオウエンはそれを一蹴する。


「おい。」


 オウエンがもう一人の従者に合図を送ると従者は軽く頭を下げてその場から離れて何処かに行ってしまった。


「オウエン様、一体何を?」


(気に入らねぇ、どいつもこいつも気に入らねぇ!どうしてあんな奴が!!)


 従者を無視したオウエンの心の中には黒い何かがすでに宿り蠢き始めていた。


 ◇


 大きく口を開けた遺跡の入り口に着いた俺は遺跡を見上げる。

 遺跡は平原の岩場の中に隠れるようにひっそりとあり、入り口の周囲には大きな岩が転がっていた。


 異界変災の時に崩れた岩だろうか?

 転がっている岩の表面が他の岩と比べて新しいような気がする。


「準備は良いか?」


「大丈夫、行けるよ。」


「私も行けるわ。フィエール達はどう?」


 冬也と彩奈が武具を手に馴染ませながら返事をする。


「ヴィンスさん、良かったら私が使っているランタンを使ってください。」


「助かるよ。」


「ボクも平気だよ。」


 ヴィンスを先頭に前を俺と冬也、後ろにサリエ、彩奈、フィエールさんという並びで遺跡内を進む。

 ヴィンスがランタンの灯りを頼りに開けた部屋と部屋を繋いでいる通路を慎重に見渡しながら進む横には既に解除された罠が多々あった。


「止まって。」


 ヴィンスが制止する。


「何かあったのか?」


「まだ解除してない罠があるんだ。」


 ヴィンスの後ろから通路を覗いて見るが今まで歩いて来た道と同じ規則正しく並べられた石畳と石壁が永遠に続いている。


 全くわからない・・・。

 ヴィンスの目にはこの通路がレントゲンのように透けて仕掛けが見えているのだろうか?


「すまない、どこにあるんだ?」


「罠なのだから分かったら意味ないさ。」


 そういうとヴィンスは袋から白い石を取り出して左側の石壁の一部の石とその罠の真下にあたる一部の石畳の2か所を白い丸で囲んだ。


「限定的な所にあるんだな。」


「警戒心が高い侵入者用かな。」


 ヴィンスが足元よりも少し前の石畳に指を指す。


「注意深く見ないと分からないけど、そこに普通に通る分には問題ない落とし穴があるんだ。落とし穴に気づいた人が避けて通ろうとした時にうっかり壁や床に触れたら・・・って事だろうね。」


 ヴィンスは罠の位置を記録しながらそう口にする。


 つまり、罠に気付く事を前提とした罠って事か。

 侵入者を撃退する事が目的なのだから仕方がないことだけど「よくもまぁ、そこまで考える。」と感心する半面、殺意が高くて若干引いてしまう。


 奥へと進み再び開かれた部屋に出た俺達はそこで一度休憩を挟むことにした。


「何を考えているんだ?」


 冬也は難しい顔をして1点を見つめていた。


「この遺跡の事をちょっとね。ここの遺跡には人間が住んでいた形跡もなければ骨の1本も落ちていない。遺跡と言うよりもダンジョンと言う方がしっくりくるんだ。」


「それは俺も同じことを思っていた。綺麗に並べられた石畳や石壁を見る限り誰かがここを造ったのは間違いないと思う。だけど、ここで生活をしていたとは到底思えないな。」


 ここまで歩いて来た道には開かれた部屋がいくつもあったがどれも人間などの活動痕跡は全くなく、だだっ広い空間が広がっているだけだった。


「うん、それに他にも思う所がある。長年放置されていたのなら魔物が居てもおかしくないはずなのにここまで1体も魔物に出会っていないんだ。」


「他の冒険者が倒したんじゃないか?」


 ローラさんの話では罠を突破出来なかったとは言え、冒険者ギルドにも依頼を出して何組か送り込んでいるようだった。


「可能性はあるけど・・・、この遺跡はまだ調査が済んでいない場所だよ?1体もいないなんて変じゃないかな?奥から数体現れても不思議じゃないと思うけど・・・。」


「それはそうだな。もしかしたら、魔物が出ないような仕掛けをしているのかもしれないな。ヴィンスとサリエはスタリエ学園長かローラさんから何か聞いていないか?」


「罠の事以外は特には。」


「ボクも聞いていないかな。」


 直接依頼されたヴィンスやスタリエ学園長を母親にもつサリエのどちらかが何か聞いているのではと話を振ってみたが魔物や遺跡の仕組みについて何も聞かされていないようだ。


「この遺跡は普通とは違う特別な遺跡なのかな?」


 今まで話を黙って聞いていた彩奈が話に参加する。


「特別かどうかは分からないが魔物が出ないように何か仕掛けをしている事は確かだろうな。」


「私、思ったんだけど・・・。やっぱり、いくら重要なモノがあるかもしれないからと言ってもスタリエ学園長がわざわざヴィンスくんに依頼する程でも無いような気がするな。」


 彩奈の言う通りここまでの罠は悪く言えば原始的で解除された罠が多々転がっているようにヴィンスじゃなくても他の冒険者で対応できるレベルだ。


「そう感じるのも仕方ないかも。継達を呼ぶ前にローラさんから依頼された内容は調査ではなく、この奥を突破することだから。」


 ヴィンスはそう言いながら遺跡の奥に目を向ける。


 つまり、本来の依頼はまだ始まってすらいないということか。


「この奥には何があるのですか?」


 ヴィンスが見つめる先を見ながらフィエールさんが訪ねた。


「聞いた話だと魔法罠があるそうだよ。」


「魔法罠?」


「術者以外は肉眼では確認できない魔法の罠さ。<透視>を使わなくても解除魔法が使えれば発動させながら進めるはずだけど・・・。」


 ヴィンスがサリエに視線を向けると皆の視線がサリエに集まった。


「無茶言わないでよ!時間を掛ければボクでも出来ない事もないけど。それはあくまで理論上出来るってだけの話だよ。解除魔法を常にかけ続けるのは大変なんだよ?そこ分かってる?」


 ヴィンスからの無茶振りにサリエが顔を膨らませて抗議の声を上げるが身長が小柄のためか怒っている姿もどこか可愛い。


 というか、サリエは時間をかければ出来なくもないのか。

 ポテンシャル高いな。


「まぁまぁ、サリエちゃん。とにかく先に進んでみようよ。ヴィンスくんのスキルなら先に進めるかも。」


 サリエを宥めている彩奈に促された俺達は休憩を終えて先に進む。

 部屋を2つ抜けた先にある暗い通路の入り口に到着するとヴィンスが入り口横の壁をランタンで照らした。

 照らした壁には大きく×が書かれていた。


「ローラさんの話によるとこの先から進めないみたいだ。」


「ここから何か見えるか?」


「今のところは何も。」


<透視>では見えないのか、それとも罠が無いだけか判断に困るな。

 だからと言ってこのまま覗いて終わる訳にもいかない。

 進んでみるしかないか・・・。


「ヴィンス、気を付けろよ。」


「継達がいるから大丈夫だよ。」


 暗い通路へと足を踏み入れると両壁に置かれた明かりに次々と火が灯り通路が明るくなる。


「ランタンは必要ないみたいだ。」


 ヴィンスはフィエールさんにランタンを返却して先へと進む。

 10分程経った頃、真っすぐな道を進んでいたヴィンスが急に立ち止まる。

 罠を見つけたようだ。


「魔法罠まで透視できるなんて本当に凄いスキルだな。」


「そうですね、ヴィンスさんのスキルに透視できないものはないかもしれませんね。」


「何が発動するかまでは透視できないからそこまででもないよ?」


 ヴィンスは謙遜しているようだが俺から見れば物理、魔法関係なく透視できるとかチートスキルだ。

 やはり、この世界では探索系よりも戦闘系の方が重宝されるのだろうか?


「それで魔法罠はどうするの?ボクが解除しようか?」


 今まで出番がなかったサリエが妙に張り切っている。


「サリエにお願いしても良いけど、まだ先があるからこっちで処理するよ。皆少し下がって。」


 魔法罠から距離を取るとヴィンスの目の前にデッサン人形のような人型が召喚される。


「ねぇ、ヴィンス。魔法陣が見えなかったけど・・・、もしかしてスキルで出したの?」


 サリエが興味深そうに召喚された人形を眺める。


「あぁ、身代わりくん1号。これで魔法罠を全部処理しようと思う。」


 可哀想に・・・、身代わりくん1号の運命はすでに決定しているようだ。


 トテトテと身代わりくん1号が通路を歩いて罠へと近づいてく。

 魔法罠との距離が1mをきった瞬間罠が発動して四方から放たれた雷撃が身代わりくん1号を襲う。


 さらば、身代わりくん1号。


 雷撃を受けた身代わりくん1号は丸焦げになり崩れて落ちてしまった。


「上手くいったみたいだ。」


 ヴィンス・・・、お前それでいいのか?


 そう言ってヴィンスが一歩踏み出した直後、俺達を挟み撃ちにするように突然前後の通路に炎が出現する。


 設置型だけじゃないのか!?


 前後に出現した炎は互いに引かれ合うように俺達に向かって迫ってくる。


「伏せて!」


 叫び声に咄嗟に反応して身を伏せるとサリエが身を屈めながら両手を広げて魔力障壁を展開する。

 魔力障壁にぶつかり合った炎は爆発を起こし前後の通路を煙で満たす。

 間一髪・・・。


「すまない、サリエ助かった。」


「気にしないで、こういうのは助け合いだから。それにしても何もない所から魔法が出てくるなんてビックリしたね。」


「あぁ、並みの冒険者じゃ進めないのも納得だ。」


 目先の罠の処理も面倒なのに、どこから飛んでくるのか分からない魔法もついているのだから調査が進まないわけだ。


 その後、魔力障壁で魔法攻撃を防ぎつつ魔法罠を処理しながら真っすぐ進んでいるとT字路で立ち止まったヴィンスが左右を確認してから口を開いた。


「通路の入り口近くに戻って来たみたいだ。」


「俺達は真っすぐ進んでいたんじゃないのか?」


「そっか、継にはそう『見えていた』んだね。」


「どういうこと?」


 俺や怪訝な顔をした彩奈の疑問に答えたのは冬也だった。


「きっと、僕達は認識阻害か幻惑魔法に掛かっていたんだと思う。」


「ですが、一体いつかけられたのでしょうか?」


「ボクが思うに壁の明かりが灯った時かな。」


 あの時か・・・。


「そうかもしれない、今まで無かった灯りがここだけあることに僕は違和感を感じていたんだ。演出と思っていたけど・・・、これも罠だったんだね。」


 言い難い違和感の正体が分かった冬也はスッキリしたのかいつもの表情に戻っている。


「ヴィンス、お前の眼にはここはどう映っているんだ?」


「ここは明かりが灯った入り口を除けば後は円形の通路なんだ。普通に探索した場合は皆みたいにその事には気づけず永遠にグルグルと回り続けることになる。」


「ここには3重の罠が仕掛けてあったという事か?」


「結論から言えばそうなるね。」


 他の冒険者が無事に戻って来られているという事実に注目すると来た道を辿るように歩けばちゃんと入り口には戻れる仕掛けになっているという事なのだろう。


「ヴィンスさんの口調から『気づけた場合』には他の道があるような言い方でしたね。」


「フィエールの言う通りだよ。先へと続く道はここにある。」


 T字路の壁に歩き出したヴィンスはそのまま壁の中へと入っていた。


「私達が何かの術に掛けられているのは間違いないみたいだね。」


「そうですね、サリエさんは解除できますか?」


「やってみる。」


 杖を立てたサリエは大きな深呼吸をして集中する。


「ハイ・イレイス!」


 サリエから展開された解除魔法は俺達の目に映っていた遺跡風景をガラスが割るように砕いた。


「「「っ。」」」


 魔法耐性の違いだろうか、掛けられた術が破られたことにより俺、冬也、彩奈の3人の頭に一瞬頭痛が走る。


「3人とも大丈夫!?」


「あぁ、ちょっと頭痛がしただけで大丈夫だ。」


「私も大丈夫だよ、それよりもこれで先に進めるね。」


 初めての反応だったのか慌てた様子で近づいてきたサリエに身振りで「平気」だと伝えると安心したようだ。


 術はちゃんと解けているようだな。


 壁があった場所でヴィンスが一人通路の中で軽く手を挙げているのが見える。


「どうやらこの先に下へと続く道があるみたいだ。毛色が違う道だから恐らく最奥に辿り着いたのかも。」


 道なりに進みながら下へと降りていくとオパールのような神秘的な輝きを放つ白い石畳と意味を持っていそうな異世界独特の模様が描かれた壁の通路に出た。


「綺麗な石ね。」


「これはフェアリーストーンですね。」


「神秘と幸福の象徴の石だね。一流の技術師に加工されたフェアリーストーンは宝石にも劣らない輝きを放つって前に読んだ本に書いてあったよ。」


「エルフでは交際相手の男性から女性へフェアリーストーンの指輪をプレゼントすることが一般的ですね。」


 それはもうプロポーズなのでは?と思ったが下手に話に参加すると藪蛇な気がしたので黙って女性陣の話を聞いている事にした。


 それにしても宝石が好きな女性が多いのはなぜなのだろう?

 男性より女性の方が本能的にキラキラとした物を好む傾向があるからなのだろうか?


 思いがけない場所でエルフの知識を得つつ先へ足を進めると10階ほどの高さがある天井が広がった大広間へと出た。


「ここは。」


 石畳、フェアリーストーンの次は灰色の石に囲まれた大広間か。

 微かな声も反響して大きく聞こえる気がする。


「見たところ行き止まりみたいだね。」


「お宝の1つも無いのが少し残念かな。」


 冬也とサリエが周囲を見渡して感想を漏らす。

 規模の違いと所々ある床のヒビ割れ以外は今まで通ってきた部屋と変わらず、だだっ広い空間が広がっているという感じだ。


「中を調べて見ましょう。」


 中に入り広間の真ん中まで進んだところでそれは起こった。


「何ですか!?これは?」


 俺とフィエールさんの足元が突然光り出したと思った矢先、大広間の壁や天井が模様を描きながら光りだしたのだ。


「何か来るよ。」


 ヴィンスが冷静に大広間の上を見つめて戦闘態勢に切り替える。

 緑色に煌めく光を放ちながら何所からとなく集まりだした塊はやがて一つの形となり、灰い色の物体が頭上から落ちてきた。


「これはゴーレム・・・なのか?」


 大きさは3m?いや、もっとか。


 灰色の石で覆われた古代文明的な体とその体を継ぐ白い目地、関節部と背中からガス状の緑色の光が噴出していた。


 ゴーレムの着地によって土埃が舞い上がると入ってきた通路の方から爆発音が響く。

 全員が振り向くと入ってきた通路が瓦礫で塞がれていた。


「退路を断たれたか。」


「やるしかないみたいだね。」


「ここから出る方法は後から考えましょう。」


 冬也と彩奈が剣を抜き戦闘態勢に入ると目を光らせたゴーレムがホバー移動で勢いよく突っ込んできた。


 こいつも巨体の割に動けるのか。

 猿神もゴーレムも常識というモノを平然と覆してきて嫌になるな。


「悪いけど、早々と消えてくれる。」


 突進を避けたサリエは手に魔力を集中させて杖を構える。


「ライジングレイド!」


 横に構えた杖に手を当てたサリエから放たれる雷撃はゴーレムの体を一瞬にして飲み込み爆発を起こす。

 しかし、爆発によって生まれた煙の中から間髪入れずに現れたゴーレムは不気味に眼を光らせながらサリエにパンチを繰り出した。


「下がりなよ。」


 サリエとゴーレムに間に加速した冬也が盾を構えて割り込みゴーレムに向けて言い放つとスキルを発動させる。


「<インパルス・シールド>!」


 ゴーレムの拳に盾をぶつけて冬也がスキルを発動させるとゴーレムの巨体をもろともせず後方へと下がらせる。


<インパルス・シールド>またの名を<衝戟盾>

 速度上昇時、相手に体当たりして盾で弾き飛ばす突進技。


 条件付きではあるが<リアクション・シールド>と違い相手の攻撃を受けてから発動する必要がないため後手に回らず先手で戦えるようになった新たな力。


「彩奈!」


「えぇ!」


「サポートするよ、パワー・アシスト!」


 ヴィンスの強化魔法をかけられた彩奈と共にゴーレムとの距離を一気に詰めて懐へと駆け抜ける。


「はあぁぁ!」


「やぁ!」


 金属音と鉱石音が入り混じった2つの高音が大広間に響き渡り耳へと返ってきた。

 切り裂いた感覚よりも削り取った感覚に近い感触が剣から伝わりゴーレム硬さを理解する。


「硬いな。」


 彩奈との攻撃は芯まで届くほど深くはないがゴーレムの体に2本の交わった切り込みを付けることが出来た。


 仕掛けて見たものの剣と石じゃ相性が悪い。

 ヴィンスのサポートがあってもこれだけか・・・。


 おまけに魔法耐性が高いのかサリエの魔法もあまり効いているようには見えなかった。

 彩奈もそう思ったからこそ攻撃の際に剣に炎が纏わせなかったのだろう。


 だが。


「十分です。」


 継と彩奈の後方でフィエールが弓を構えてゴーレムの体に狙いを定めていた。

 フィエールのその手には複数本の無色透明の魔石矢が光る。


「そこ!」


 フィエールから放たれる魔力が込められた魔石矢は継と彩奈の攻撃によって出来たゴーレムの交差傷に命中すると爆発を起こして体の一部を砕いた。


 魔法耐性があったのは表面だけか。


 2射、3射と次々にフィエールから放たれる魔石矢はフィエールが新たに獲得した<精密射撃>により寸分の狂いもなく同じ個所へとダメージを与えゴーレムの表面が完全に破壊される。


「継さん!」


「任せろ!」


<オーバーレイ>発動!

<急加速>発動させ最速でゴーレムの懐に飛び込み剣に魔力を纏わせる。


「オーバー・スラスト!」


 魔法耐性を失ったゴーレムの体を剣で切り裂くとゴーレムから出ていたガス状の緑色の光は止まり、音を立てながら崩れた。

 崩れたゴーレムの部位から目を離さず距離を取りながら注視していると中から緑色に光りが漏れ出す。


「今度は何!?」


 ゴーレムの部位から放たれる光を手で遮る彩奈。

 部位の中から緑色に光る粒子の集合体がふわふわと浮き上がり俺達の周囲を飛び周り始める。


 その様子を見ていたフィエールさんが口を開く。


「まだ幼いですが精霊のようですね。」


「精霊の子供を見るのは初めてだよ。」


 眼を輝かせているサリエは飛び回る精霊を目で追いながら感動しているようだ。


 精霊とは『星の意識』とも呼ばれる超自然的万物の集合体。

 精霊1つ1つに意思があり、悪しき精霊も存在する。


 一説には戦争などで多くの人々の心に恐怖や不安の感情が生まれると悪しき精霊が生まれるとも言われている。


「これが精霊、人型だったりしないんですね。」


「力を蓄えて高位精霊になれば人型や動物型、妖精型になったりしますよ。」


 話をしているとグルグルと飛び回っていた精霊はフィエールの傍に寄って来た。


「フィエールを気に入ったみたいね。」


 森の守り手であるエルフと超自然的万物の集合体である精霊は相性が良いのだろう。

 精霊はじゃれつくように今度はフィエールさんの周りを飛び始めたがそれだけでは終わらなかった。


 精霊はフィエールの周囲を一頻り飛び回るとフィエールさんの体の中へと入りそのままの同化してしまったのだ。


「「「「え!」」」」


 驚愕する一同。


「フィエール大丈夫なの!?」


「え、えぇ。」


 フィエールさんも何が起こったのか分からず戸惑っている。


「へぇ~、興味深いね。」


「本当に。」


 上から下へ視線を下ろしたサリエと精霊が入っていった胸を見つめるヴィンスが研究者?目線でフィエールの体を観察している。

 ヴィンスに関して言えばハラスメント的に完全にアウトだ。


「ヴィンスくん、女性の胸を見つめるのは失礼だと思うな。」


 笑顔の彩奈に注意されたヴィンスが慌てて目を逸らす。


 良かったな、ヴィンス。

 世界が世界なら即逮捕だったぞ。


「それでフィエールさん、体調に変化ありませんか?」


「大丈夫です、ただ・・・。」


「ただ?」


 フィエールは自分の両手のひらを広げて魔力を集める。


「精霊と同化したことによって力が強くなったようです。」


 塞がった通路に向けてフィエールが風魔法を放つと瓦礫の山が吹き飛んだ。


 魔力の厚みが増したと表現をすれば良いだろうか。

 今までフィエールさんが放っていた魔法よりも一段階強くなっている気がする。


 その後、大広間内を調べて見たが隠し通路らしきものも存在せずここが最奥と判断した。

 この場で色々と考えたいところだが調査はこれで終了のはずなので安全を考えてエクレシームに戻ることを優先しよう。


「何が起こったのか分からないがこれ以上ここに居ても何も無さそうだからとりえずエクレシームに戻ろう。」


「そうだね、また閉じ込められたら大変だし。」


 精霊が何を考えてフィエールさんに同化したかは分からないがエクレシームへと戻ることにした。

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