第040話 錬成と鉱石魔術
「外出したのは良いけど、どこに行こう。」
久々の休日、住宅地区と商業地区の境に位置する噴水が置いてある広場で道行く人々を眺めていた。
冬也達に声を掛けようとしたがすでに宿を出た後だったらしく俺以外居なかった。
寮住まいのヴィンスにも声を掛けるがこちらも寮生から趣味の絵を描きに行ったと聞き不在。
そんな訳で特にやる事もなく一人で休日を過ごしている。
広場にはご近所さんなのか井戸端会議をしている主婦、追いかけっこをしている子供達、待ち合わせをしているカップルなど様々な人が集まっている。
このままダラダラと時間を過ごすのも悪くはないが正直勿体ない。
「あそこに行ってみるか。」
何か面白いものが見れるかもしれない。
重たい腰を上げて立ち上がると知らない女子生徒から話しかけられた。
「霧島継くんですよね?」
「そうだけど。」
誰だ?
「良かったら、私と・・・。」
何かに誘おうとした女子生徒の言葉はそれ以上続くことはなかったが見慣れない女子生徒の正体は判明した。
あぁ、成程な。
知らない女子生徒のはずだ。
「緊張して変身が解けてるぞ、彩奈。」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にした彩奈の顔がそこにあった。
慣れないことして緊張で変身が解けてしまったようだ。
姿と声が元の彩奈に戻ってしまっている。
俺がジト目で見ていると気まずそうにした彩奈は目を合わせようとしない。
「それで彩奈さんは一体何をしようとしたのかな?」
「えっと・・・。」
敢えて意地悪く聞き返す。
変身魔法が使えるようになっている事には少し驚いたがそれ以上に彩奈の奇行の方が気になったのでそこには触れない。
「わ、私の事はどうでも良いの。」
「いや、どうでも良くは・・・。」
「良・い・の!」
有無を言わせない笑顔を近づけてくる。
「あ、はい。」
近付けてきた彩奈の顔はまだ若干赤く染まっていたが目は『それ以上聞いたら焼く』と言っている。
そんなに恥ずかしかったのならやらなきゃ良いのに・・・。
俺が一人で暇そうにしていたからドッキリのつもりで声をかけたのは良いが変身した姿で自分から誘うのは緊張と恥ずかしさで出来なかったのだろう。
「それで継くんは一人で何をしていたの?誰かと待ち合わせ?」
「久しぶりの休日だからブラブラしようかと思っていたんだ。良かったら一緒に来ないか?」
「今日はオフだから継くんが良ければ私も一緒に行こうかな。」
「じゃあ、行こう。」
彩奈と一緒に街に出た俺は武器屋に向かうことにした。
「ここは?」
武器屋に着くと彩奈がハンマーと剣が描かれた看板を見上げる。
「ドワーフが店主をしている武器屋だよ。」
エクレシームには武器屋がいくつものあり、鍛冶職人の腕もそれぞれ違う。
一定の腕の保証はされているので通常の冒険者であればどこを選んでも満足した武器を手に入れることができ、手入れもしてもらえる。
数中ある内から自分の目で選んだのはファンタジーでは定番のドワーフが店主をしているこの武器屋だ。
「こんにちは、おじさん居る?」
「おう、いるよ。」
店の奥から汗を拭きながら一人のドワーフが出てくる。
「そっちの嬢ちゃんはお前の女か?」
「俺の仲間だよ。」
「初めまして宮代彩奈です。」
「俺はドランク。宜しくな。」
俺がドランクと親しくなったのは2度目の来店の時だ。
武器の手入れを頼みに来た俺はその時ドランクが手に持っていたガラス容器の中身が気になり質問したのが切っ掛けだ。
職人にとって拘りがある素材や道具について語るドランクの話を聞いている内に気に入られたのだ。
「中を見たいんですけど、良いですか?」
「見ても良いがお前たちがもし錬成に興味があるならついでに見せてやるよ。」
ドランクは首を振り店の奥へと案内する。
「良い機会だから見せてもらおう。」
「そうだね、いい経験になるかも。」
ドランクについて行き鍛冶場に入ると壁に掛けられたハンマーや金床、赤い明りを放つ炉が置いてあった。
「錬成というのは元の鉱石よりも1つ上の鉱石を作り出すものだ。」
「鉄とミスリルでミスティックアイアンを作り出すようなものですか?」
「それは鉱石魔術だ。俺達の錬成は魔石を使う。」
水の魔石を鉄製ロートに置いたドランクが術を掛けると魔石は見る見る小さくなっていく。
術を掛けられた魔石は液化してロートを通りガラス容器へと流れ落ちる。
話には聞いていたが実際に目にするとその光景に釘付けになった。
「こんな魔法見たことない。」
一緒に見ていた彩奈もその光景に釘付けになっている。
「そりゃそうだ。魔石の変形魔術はドワーフの秘術だからな。俺達ドワーフが飯を食えるのは鍛冶の腕もあるがこれのおかげのところが大きい。」
彩奈の顔を見て笑うドランクは炉で熱した鉄のインゴットを金床の上で叩いて柔らかくする。
液化魔術ではなく変形魔術ということは別の形にすることも可能ということなのか?
「錬成に全く別の鉱石や金属を作り出す能力はない。基本となる鉱石や金属がある以上基になったものより1つ上の鉱石や金属以外はできん。もし全く別の鉱石ができるとしたら、それはもう錬成ではない。」
液化した魔石を柔らかくしたインゴットに少しずつかけて秘術を付与したハンマーでさらに叩いていく。
カン、カンと鍛冶場に響く音と熱を肌で感じながら俺と彩奈は出来上がるのを待った。
「ほら、小僧にやる。これが水属性を宿した鉄だ。」
手渡された青いインゴットの重みがズシリと手にかかる。
「魔力をちょろっとだけ流して見な。ちょろっとだけだぞ?」
言われた通り魔力を流してみるとインゴットから水が流れた。
「わぁ、面白い。」
「そうだろ?嬢ちゃんは間違っても他の属性で試すなよ?大怪我じゃすまないからな。」
火属性や雷属性でやったら火傷では済まないだろうな。
最悪、手が消し炭になるかも・・・。
「これよりも良いモノを作りたければ火竜の素材と高質な鉱石か金属を持ってきな。鉱石や金属の事なら鉱石魔術師がしている合成屋に行ってみると良い。」
「鉱石魔術か、気になるから行ってみるか。」
ドランクの店を出た俺達は鉱石魔術師が経営している合成屋に行ってみることにした。
「いらっしゃい、ドランクから聞いて来たの?」
合成屋に入った俺達を出迎えたのは魔術師のコートを着た女性だった。
「分かるんですか?」
「魔石が解けた匂いが・・・ね。」
さっきまで鍛冶場に居たせいか自分の匂いを嗅いでみてもよく分からない。
ここに来るまでの間に顔を顰めた人は居なかったのでそこまで変な匂いではないはずだ。
「それでご用は何かしら?」
「鉱石魔術がどういうものなのか教えてもらえないでしょうか?」
「そうねぇ・・・。何か対価はあるのかしら?ここはお店よ、ただで売っている物はないわ。」
対価か、単純に考えればお金を払えばいい話だけど・・・。
お金を払おうか悩んでいると彩奈が服をつまんで引っ張った
「ねぇ継くん、さっき貰ったインゴットはどうかな?」
確かに、鉱石魔術師ならさっき貰ったインゴットで何とかなるかも。
「これは対価になりませんか?」
袋からドランクに貰ったインゴットを取り出して見せてみる。
鉱石魔術師はインゴットを手に取ると全体の状態の確認や軽く叩いて見て値踏みを始めた。
「この光具合と匂い、出来たのはついさっきかしら。基礎となっているのは鉄ね。さすがドランクね、いい魔石を使っているわ。良いわ、対価には十分すぎるくらいよ。」
思いがけないことで高品質の素材が手に入ったことで鉱石魔術師は大いに喜んでいるようだ。
俺としても使い道がない金属で鉱石魔術について話が聞けるのでwin-winだ。
「鉱石魔術というのは鉱石や金属同士を魔術合成して新たな素材を誕生させる魔術よ。」
「ミスティックアイアンも鉱石魔術で生まれたんですか?」
「えぇ、そうよ。新しい鉱石・金属を誕生させるには特殊な魔法陣と誕生に必要な鉱石の割合を探り当てないといけない。割合を探し当てるまではほとんど失敗するから大変なの。」
「お金が幾らあっても足りない魔法だね。」
彩奈の言う通り金が幾らあっても足りない国家レベルでやるべき魔術だ。
仮に国家レベルでやったとしても新たな鉱石・金属が誕生する保証が無いため金をドブに捨てる覚悟をしなくてはいけない。
だが、新しい鉱石・金属を生み出すことができれば自分の名前が図鑑に載り歴史に名を残すことが出来るらしく、鉱石魔術師を抱え込み利益と名を残そうとする貴族も少なくないらしい。
ここの鉱石魔術師はそういう者達を嫌い一人合成屋を開き生計を立てているそうだ。
ギャンブル性が高すぎる魔術だが上手くいけば相当な利益になる話だ。
資金さえあれば試してみたいが天井が見えないガチャと同じできっと沼るだろう。
合成屋を出て市を見回ってから宿へと戻るとローラさんが訪れていた。
「丁度戻って来たみたいですね。詳しい話は省きますが明日皆さんを連れて朝一番で学園長室にお越しください。皆さんにお願いしたい依頼があります。」
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