第039話 とある日の学園生活②

 1週間経ったある日の授業。


「入学してから魔力の扱い方を学んできた結果、今ではここにいる全ての生徒が一定の魔力コントロールが出来るようになりました。よって、今日は皆さんの適性属性を知るためにこれから検査室に移動したいと思います。」


 説明が終わると生徒達が立ち上がって古賀先生の後をついて行く。


「なぁ、サリエ。俺の世界じゃ検査室って聞きなれない部屋なんだけど、いったい何に使う部屋なんだ?」


「行けば分かるけど、基本的には今日みたいにその人の適性属性を調べたり魔力量の計測をする部屋かな。その他には魔術の威力を調べる装置が置いてあったと思うよ。」


 検査室に着いた俺達の目の前には直径30㎝程の丸い球が付いた魔道具が置かれていた。


「これが今回使う魔道具です。この魔道具に手をかざして球に魔力を注ぐと火属性なら赤色という風に色が表れます。実際にやって見ましょう。」


 古賀先生が魔道具に手をかざして魔力を注ぐと球は無色のまま光りだした。


「私の適性属性は無属性なので球の色は変わらずこのように球が光りだすという結果になります。」


 魔道具の説明よりも古賀先生が魔力を扱えている事の方が気になった。

 古賀先生は当たり前のように魔道具の説明をしているけど大人になってからの魔力習得は難しい。


 サリエが授業していた時に言っていたが魔法が扱えない多くの者は無意識下で魔法を非現実的なモノだと感じているから魔法が扱えない。

 その傾向は年齢を重ねるほど多く見られるらしい。


 さらに俺達のような魔法と縁がなかった人間にとっては魔法自体が非現実的な現象なのでそのハードルがさらに上がることになるのだ。

 なので、大人である古賀先生が魔法を扱えているという事は本人の努力も相当なものだったはずだ。


 俺は古賀先生の影の努力と大人になってからも魔法を扱えるようになるという生き証人を目の当たりにした。


「それじゃあ、一人ずつ名前を読んでいくから呼ばれた人は前に来てください。」


 古賀先生に呼ばれた生徒が一人ずつ魔道具へと手をかざしていく。


「彩奈達も受けるのか?」


「多分火属性だと思うけど一応やっておこうかな。」


「せっかくですから私もやっておきます。」


「二人がやるならボクもしようかな。」


「みんながやるなら。」


 彩奈やフィエールさんはやらなくても良いような気もするけど全員参加するようだ。

 まず初めに呼ばれたのは。


「朝岡 冬也君」


「はい、行ってくるね。」


 静かに雑談をしながら待っていると冬也の名前が呼ばれた。

 前に出た冬也が魔道具に手を翳すと球の色が茶色に変化した。


「あれは土属性か?」


「土属性は土、大地、岩、石などを操る力で、魔法で作り出された物理攻撃や物理障壁が多い属性だね。」


「冬也くんと相性が良さそうな属性だね。」


 土属性にはイエナさん達が使っていたストーンウォールの魔法も含まれる。


 まぁ、冬也のことだからすぐに扱えるようになるだろう。

 何度も言うが冬也に関しては絶対の信頼を置いているので全く心配していない。


 むしろ自分自身の心配をしているくらいだ。


 次に呼ばれたのは彩奈だ。

 彩奈が手を翳すと球が赤く染まる。


「予想通りの色だな。」


「これで青色に変わったらそれはそれで驚くけどね。」


 冬也が笑いながら言う。

 それは確かに。


「火属性は火、炎、熱、爆発など高火力の魔法が多い属性だね。」


 続けてフィエールさんとヴィンスが呼ばれるがフィエールさんは『風属性』、ヴィンスは『無属性』と予想通りの結果が続いた。


「サリエさん。」


「は~い。じゃあ、ちょっと行ってくるね。」


 元気よく前に飛び出して行ったサリエが魔道具に魔力を流し込むと一気に部屋がざわつき始めた。


「何だあれ?」


「え、どういうこと?」


 クラスメイトがざわつくのも無理もない。

 サリエが魔力を流し込んだ球は赤と黄の色が混じった状態で光りながら表れたのだ。


「やっぱり、こうなっちゃったか。」


 結果を予想していたサリエは申し訳なさそうにそそくさと戻ってきた。


「サリエちゃん、さっきのはどういうことなの?」


「見た通りの結果だよ。ボクは火、雷、無が得意なんだ。ボクの場合、無は無属性じゃなくて分類されないその他の魔法の事なんだけどね。」


「でも、ヌブユ大森林で土と水の魔法を使ってなかった?」


「うん、使ってたよ。あの魔道具はあくまで適性属性を判別するだけだから時間を掛けて練習すれば魔力効率は悪いけど彩奈も使えるようになると思うよ?」


 今のやり取りでイエナさんの事を思い出した。

 よくよく思い出してみるとイエナさんも土魔法が苦手だと言っていたけど使っていたな。


 適性ある人よりも時間と魔力量が掛かるが何か覚えておけばいざ言うときには役に立つかもしれないな。


「最後に霧島 継君。」


「はい。」


 名前を呼ばれた俺が前に出ると視線が一気に集まる。

 純粋に興味を持っている視線の他に『教師に勝った生徒』『入学式早々問題を起こした生徒』がどんな適性を持っているのか気になっている視線もあった。


 俺は気にせず魔道具に手を翳して魔力を注ぐ。


「何が出るか。」


 魔力を注ぎながら魔道具を見つめていると魔道具の球が黒く染まり始める。

 通常ならば見ただけで黒と分かる程度の染まり方をするのだがこの球の色は他のとは違う。


 闇が深いと言えばいいのか漆黒に近い黒さだった。


 一部始終を見ていたクラスメイト達が魔道具を見て各々感想を口にし始めた。


「やっぱり、真っ黒だ。」


「絶対に闇だと思った。」


 そこっ!

 事件のインタビューみたいな事を言うのをやめろ。


「闇属性か。」


「ですが、普通の反応と違いましたね。」


「霧くんの場合は闇属性との相性が人より良いんだと思うよ。」


 ヴィンス、フィエールさん、サリエが俺の属性を見て感想を口にする。


「災難だったね。」


 さっさと元の位置に引っ込んだ俺は冬也から声をかけられる。


「サリエ、闇属性の特徴を教えてくれないか?」


「闇属性は全てを覆い、全てを飲み込み、全てを染める。死、破壊、影、陰、混沌、暗闇などを操る力かな。」


「分かっていたけど、碌な言葉が出てこないな。」


「そういう属性だからね。」


 人よりも魔力コントロールが下手な俺がこれから闇属性をどう自分のモノにしていくかが問題だ。

 高度すぎても出来ないだろうし、低すぎても実用的じゃない。


 まずは無難な型の魔法から形にしていくのが良いかもしれないな。


 数日後。


 魔力コントロール・適性属性・調べ物とある程度落ち着いたので俺は強くなるためにゲオルグ先生の部屋を訪ねていた。

 部屋のドアをノックすると中から返事が返ってくる。


「失礼します。」


 部屋に入ると充満したコーヒーの匂いが鼻を通る。

 休憩中だったのかカップが置かれたテーブルの前にゲオルグ先生が座っていた。


「君は確か、適性試験の時の・・・。」


「はい、霧島継です。今日はお願いがあって来ました。」


「お願いとは?」


「強くなるために剣の相手をしていただけないでしょうか。」


「剣術の授業だけではダメなのですか?」


 ゲオルグ先生の問いに目を閉じて思い出す。

 猿神の腕を破壊した反動で地面に転がる冬也の姿を。


 魔力不足に陥り体を支えられていたフィエールさんの姿を

 全てを託され不安な瞳を揺らす彩奈の姿を。


 そして、瘴気に侵され取り押さえられていた避難所にいた人達の光景を。


「それだけじゃ、ダメなんです。ここに来る前に色々な戦いがありました。何とか払い除けることが出来たけど結局最後は師匠に助けられました。あの時、師匠が現れていなかったら恐らく俺も仲間も死んでいました。それに避難所に住む人達もどうなっていたか分かりません。」


 東瀬の戦いの最後、男はまだ何か仕掛けるつもりだった。

 だが、師匠が斬撃を飛ばしてそれを防いだ。


 それに最後の現れた謎の男。

 いつでも俺達を殺せたはずだ。


 生きているのは師匠の牽制のおかげ。

 最後の最後で俺達は師匠に助けられた。


「俺は弱い。だから、強くなりたいんです。助けられるのではなく、誰かを助けられるくらい強く。」


 口にしたら短くて陳腐なありふれた言葉かもしれないけれど、ありのままの気持ちを口にした。


「・・・では、もう一度手合わせしましょう。話はそれからです。」


「わかりました。」


 訓練場に着いたゲオルグは剣身に強化魔法を付与して俺を見据える。


「今度は本気で来てください。」


 ゲオルグ先生は俺の全てを見極めようとしているんだな。


「わかりました。」


 <オーバーレイ>を発動させて剣を構える。


「いきます!」


 適性試験と同じように床を強く踏み正面からぶつかり合うと観客が居ない部屋中に金属音が響く。


「くっ。」


 全力の一撃はゲオルグの片手に簡単に受け止められる。

 やはり押し切れないか。


「では、こちらからも。」


 ゲオルグは受けた剣に力を込めて一歩踏み出す。


「ぐっ、重い!」


 両手を使っているのに単純に押し切られる!

 剣身を逸らして<急加速>で距離を取るが瞬時に対応したゲオルグが距離を詰めて剣を振るう。


「はぁ!」


「ちっ。」


 後ろに飛びゲオルグ先生の一撃を紙一重で交わした俺は<急加速>を瞬間的に何度も発動させてゲオルグ先生の背後、側面、正面と多面的に攻撃を仕掛ける。


「はっ!せっ!」


 幾度となくゲオルグ先生に打ち込むが巧みな体捌きで全て受け止められてしまう。


 適性試験の時と同じだ、合わせてくれている。

 これでも本気なのに悔しいな・・・。


「ふっ。」


 そんな俺の内心を見透かしたようにゲオルグ先生が笑みを溢すと突然目の前に剣先を突きつけられる。


「つっ。」


 突きつけられた剣先に俺が足を止めるとゲオルグ先生は口を開いた。


「野生の剣。」


 野生の剣?

 何のことだ?


「適性試験の時から思っていたが君はまともな剣術というものに触れてきていないようだ。君を見るに君が教わった剣は型にハマらず一撃一撃その時の状況に合わせて暴れまわる殺すための剣だ。」


「そうかもしれません。俺は異界変災が起きるまでただの学生でした。たまたま、剣を教えてくれたのが俺の師匠だったんです。」


「なるほど、だから流派がなく変則的な野生の剣のですか。」


 剣を下ろしたゲオルグが口元に手をやり考え始める。

 しばらく待っていると考えが纏まったゲオルグが口を開いた。


「君の方向性を決めました。」


「え?それじゃあ!」


「君の真っすぐな想いが剣を通して伝わってきました。卒業までの間、私の手が空いている時は君の剣の相手をしましょう。」


「ありがとうございます!」


 これで今までより強くなれる。

 まずは、出遅れた分を急いで取り戻さないと。


「今から流派を学ばせても良い結果は出ないでしょう。なので、1回でも多く剣を交えて経験を積ませます。その中で技術などを磨いていきましょう。」


「よろしくお願いします!」


「では、早速始めましょう。剣を構えて打ち込んできてください。」


 言われた通り剣を構えた俺は正面に立つゲオルグに切りかかった。

 すると、両手で握りしめた剣を振り上げるゲオルグから全身を貫く殺気を放たれる。


 放たれた殺気に手足が震えた俺は恐怖で動きが止まり、ゲオルグの一撃を止めることができなかった。


「はぁぁぁ!」


 あ、死んだ・・・。


 ゲオルグから振り下ろされた一撃が身体に冷たい一閃を走らせる。

 切られたことを遅れて実感した身体から力が抜け、手元から剣が落ちた。


 震える手を胸に当て手のひらを見る。


 血が出ていない?生きている?


「大丈夫ですか?」


「っ!はぁはぁ・・・。」


 ゲオルグに肩を叩かれて我に返った俺は呼吸を整える。


 錯覚か・・・。


「今のは何ですか?」


「今体験してもらったものは分かりやすく殺気と殺意を放ったモノです。殺気は格下相手に動きを止めることができます。同格相手では動きを止めることは出来ませんが相手の放つ殺気を察することで予備動作として心構えや攻撃の予測ができます。」


 改めて殺気というモノを体で体感すると師匠が放っていた威圧感は遊び見たいなモノだったんだな。

 まぁ、見ただけで威圧感を放てる師匠は化け物じみているけど・・・。


 戦慄した手を動かしながら気に飲まれる恐ろしさを再確認する。


「殺意は感じてもらった通り『相手を絶つ』意識が乗ることで戦意を喪失させることが出来ます。」


「戦意どこか本当に死んだと思いましたよ!」


「はっはっはっ、少しやり過ぎてしまいましたか。」


 いやいやいや、笑い事じゃないから!

 本当に死んだと思ったんですけど。


 相手によっては気絶やそのまま永眠とか普通に有りえるだろ。


「殺意を乗せた攻撃は相手を仕留めるという意識が高いため攻撃が読まれやすい。怒りなどで冷静さを欠いた攻撃が単調なのは殺意が高いからです。」


 ゲオルグ先生の説明は実際に剣を交えて体で覚えるので分かりやすい。

(今回は交えてすらいないけど。)


「さ、休憩は終わりです。続けますよ。」


 だが、スパルタだ。

 俺が学生だからこれで済んでいるけど、絶対どこかの騎士団にいたよね?


 強くなるための新たな1歩を踏み出した俺は再び剣を取った。

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